第46話 リーシュの修行1

「よし、ここでいいだろう」

「ここは?」

「ドラゴンでも戦える場所だ。もちろん、結界が貼ってあるから外にはばれない」


 ジルくんと一緒にやった小手調べが終わり、私はラグドラーグさんと一緒に修行をすることになった。

 てっきりラグドラーグさんがジルくんを誘ったからジルくんを見ると思っていた。

 私は本来の力を取り戻すための魔法を覚えるために優先されたのかな?

 でも、ほかの弟子にはあらかじめ説明していたから私の相手をするつもりだったみたい。


「まずはこれを持つがいい」

「なにこれ?」

「水晶だ」


 今は子供の姿だから両手で持たないと落としてしまいそうな水晶。

 私の顔と同じぐらいあるわ。


「それに魔力を込めてみろ」

「これに?壊れたりしたら嫌だけど…」

「安心しろ。水晶だが滅多なことをしない限り壊れない」


 はて、何の意味があるんだか。

 本来の力が使えないという証明とか?

 全然分からないわ。

 今、得意な魔法の系統を調べる意味もないし。

 とりあえず込めてみる。


「何か浮いてきたわ。白いわ」

「ふむ。よかったよかった」

「何が?」


 ずっと強面で感情が全然表に出なかったおじいさんだったかが、ようやく顔が緩んだ。


「これは悪魔かどうかを調べる水晶だったんだ」

「疑っていたの?」

「すまんな。だがこれでわかったぞ。うぬは神か天使のどちらかだ」

「ふーん…」


 どう白を切ろうかしら。

 正直、ここで神とはばれたくない。ましてや創ったなんてもってのほか。

 ばれても神のところまでにしておきたいわね。


「別にそれ以上は追及せぬ。大切なのは天使側か悪魔側かってことだ」

「あぁ、今の魔王と関係しているかって話ね」

「そうだ。先ほどは突っかかる気はないと入ったが、これ以上厄介事が増えるなら潰しておきたくてな。正直連れてくるのも賭けだったが」


 そこまで分かっているのにそこの区別は出来ないのね。

 まあ普通ならうまくごまかせるようにするけど、今はそれすらできないからね。


「そういえばどうして私が使えないとまで分かったの?」

「これは見せたほうが早い。これをみろ」


 よくわからないけど魔法名がたくさん書かれている。

 見たことがあるような魔法がたくさん。

 いや、これは私が使える魔法だわ。

 でもところどころバツがついている。


「このバツマークは?」

「今、使えない魔法ってことだ。加護を与えた者の魔法をみたりできる」

「そんなことできたの?」

「儂だけが使えるみたいだ」


 こんな魔法もできたのね。

 たった200年でここまで成長をするとは。

 しっかり見ておけばよかったわ。


「ああ!だからわかったのね」

「そうだ。一部は普通通りだが、ほかの一部は初級のほうを使えず、上級の魔法を使えているのはおかしい」

「こんなの見られたらおかしいと思うわ」


 今の私の魔法は虫食い状態。

 嫌なことに、よく使う魔法や便利な魔法が使えなくなっている。

 これがたまたまなら運を疑うわ。


「では移動するぞ」

「またー?」

「ここはもし悪魔の時のために被害が出ないように移動した場所だ。本当の修行場所は別にある」


 また移動…。

 こっちに来てから移動が多いわ。

 飛べば楽なんだけど今は使えないからね。

 魔法でドラゴンの羽で飛べるけど魔力を使うと疲れてしまう。

 不便だわ。


 一番高い木のほうへ歩きながら戻る。

 その途中で止まった。


「ここだ」

「こんな森の中で?」

「下を見てどう思う?」


 どうって…。

 普通の地面にしか見えない。


「普通の地面。何か植えているの?」

「分からぬか。もう一度これを見るがいい」

「あっ!バツマークが増えている!」

「そうだ。これは魔法が設置された場所に近ければ近いほど魔法を封じられる」


 距離に依存しているってことね。

 それなら遠くに行けばいいってこと?

 でもここから学校までは距離がある。

 そうなるとその何倍以上も離れなければいけない。


「遠くに行っても無駄だぞ。この設置された魔法はここ以外にも多数存在する」

「取ることは?」

「それは今試している。そのために老竜の儂がいるんだ」


 だから人間たちに近いところにわざわざいたのね。

 私たちが会ったのも探している途中だからなのかな。


「儂はこれを見つけ、ここに森をつくった。不思議とあの木は成長したからそこに住むことにしたのだ」

「それでどうすればいいの?」


 距離が影響するならどうすればいいの?

 私が知っている魔法でもどれがいいのか分からない。

 ましてや今は使えないのだから。


「口では言うのは簡単だが実際にやると困難なことだ」

「どういうこと?」

「汝には分裂してもらう」

「……はあ?」


 私が分裂?

 何を言っているの?

 分身でもすればいいのかしら。

 それならすぐできるわよ。

 さっき見た時にバツマークはついていなかったからね。


「待て待て。体ではなく魂の分裂だ」

「魂?」

「そうだ。そもそも人と神の違いは何だと思う?」

「姿?使える魔法とか?」

「それもそうだが、一番の違いは魂の大きさだ。人の魂をこの手に平に収まるとすれば神の魂はこの森ぐらいだ。儂もそれぐらい近くある」


 そんな法則?があったのね。

 そんなに細かくつくった覚えはないけど。

 勝手に増えていったのかしら。

 便利な機能だけど私がこんがらがうわ。


「その魂がどうかしたの?」

「魂は直接そのものの強さを示す。この魔法はその魂が一定以上大きいと引っかかるようなんだ。まったく、よくもまあこんなことを見つけるもんだ」

「だから分裂、小さくすればいいってことね」

「そうだ。例え分裂して小さくなっても元々は大きいし、一つの存在だ。どちらかと言えば増えることでいいことがあるぞ」


 魔法には分身の魔法がある。

 普通使うと魂がほとんど入らず、一発ダメージを食らったら消えてしまうことが多い。

 かと言って魂をとっさに分身をつくり、入れてしまうと分身側に魂が多く入ってしまい本人に大きなダメージを与えてしまう。

 これから覚えるのは分裂。

 あらかじめ二等分、もしくはいい感じに8:2や6:2:2のように分ければとっさのときに使っても問題ない。

 分ける比率は試していけば分かる。


「でもその魔法は使えるの?また使えなくなったりするんじゃ…」

「そこは運に任せるしかない」

「運任せって…」


 単純に考えれば確率は2分の1。

 元の力が手に入るのなら大きい確率だわ。


「わかったわ。でもよく見つけたわね。ラグドラーグさんもかかっていたの?」

「いや、儂は引っかかっていない」

「じゃあどうやって?」

「儂の友、竜王のウンディアだ」

「えっ!?今も近くにいるの?」

「いや、もう旅だった。魔王を倒すために何かしているだろう」

「でも、それならペイル…ペイルくんのことを」

「儂がジルの話をしたら適任だとか言って卵を渡しに行ったんだ。もちろんしっておる」


 なんだあ…。

 そういうことなのね。

 ジルくんが竜王の子供と一緒にいるときは焦ったわ…。


「説明は終わりだ、魔法を覚えよう。皆、何段階か修行があるようにお主にも第一段階がある」

「わかったわ。可能性があるなら全力でやるわ」

「いい心がけだ。まずは魂を操る感覚を覚えることだ」

「はい!どうすればいいの?」

「ひたすら魔法を使い、あとどれぐらい使えるかが分かるようになればいい。使い慣れていない魔法でもな」


 慣れればどのくらいか分かる。

 でもそれはあくまでも勘。

 今回覚えるのは確実にあとどれくらいか分かるようにしなければならない。

 今まで無限のようにあった魔力だったから全然分からないわ。

 しっかりできるかしら…?



 リーシュもジルとシロ、ペイルと同様に順調に進んでいた。

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