第42話 修行前のお話

 翌朝。

 新しい日を始めるにはいい天気だ。

 ただ太陽から直接当たるから暑い。

 アスファルトやコンクリのせいでじりじりとした暑さではないだけまだいい。

 日陰に入れば涼しいからね。


「ジル」

「父さん…!」


 朝早くに出るつもりだったから一人で先に起きていた。

 シロとペイル、リーシュちゃんが起きないように気を付けて。

 父さんと母さんにも分からないようにしていたんだけど。


「やっぱり心配だからな。と言っても止めはしない。無事に帰って来いよ」

「うん!行ってきます!」


 父さんとも挨拶を済ませた。

 心配してくれるのはうれしい。


「我が望む道の先へ誘え!転移ワープ!」

「今よシロちゃん!」

「うん!」

「あっ!!」


 よし到着。

 何か魔法使ってる途中に父さんの声が聞こえたけど。

 何か言い忘れたのかな?


「ここって最初に冒険したところね」

「なつかしー!」

「え!?」


 なんで二人ともいるの!

 確か寝ていたはず。

 あれ?いつの間に一緒に来てたんだ?


「二人ともいつの間に…」

「どうせ言っても連れて行ってくれないから移動するときを狙ってたの」

「リーシュちゃんの案なんだよ!」

「キャウッ!」

「ペイルまでいたのか!」


 シロがこんなことを企むとは思わない。

 さすがリーシュちゃんだ。

 どおりで妙にシロが素直だったわけなんだ。


「どうする気なの?」

「「ついていく!!」」

「うーん…。ちなみに帰る気は?」

「「ない!!」」


 ですよねー。

 俺がいいならリーシュちゃんももしかしたら。

 シロとペイルはどうなんだろう?

 ドラゴンだから大丈夫かもしれない。

 実際に聞かないと分からないからどうしようもない。


「お待ちしておりました。ジル様、シロ様、それにリーシュ様とペイル様も」

「えっと、どなたですか?」

「私はラグドラーグの弟子、クーリア・メアトラスと申します」


 高校生ぐらいの女の子。

 ただ、頭にツノが生えている。

 それだけでもなく背中にも翼が残っている。

 ということは…。


「ドラゴン…?」

「はい。まだ未熟なためこのような変身となっております」


 それでもそれ以外は人。

 フードでもかぶれば普通に街に入れる。


「なんで私たちの名前が入ってたの?」

「どういうことー?」

「誘ったのはジルくんだけでしょ?私たちはついてきただけじゃない」

「そうだった!」


 そう。

 まるで一緒に来ると分かっているように言っている。

 ましてやラグドラーグさんはシロとペイルと会っていない。

 知っているのは不自然だ。


「私は師匠に言われた通りに言ったままです。詳しくは師匠に聞いてください」

「は、はあ」


 詳しくはご本人にってことか。

 というかなんでこの弟子の人が?

 てっきりラグドラーグさんがここで教えてくれるのかと思ったんだけど。


「では参りましょう。はっ!!」

「「「おー!!」」」


 ドラゴンの姿になった!

 色は赤。

 色だけで強そうなドラゴン。

 見た目的に強いというより速そうな気がする。


『では乗って下さい』

「わかった!」

「シロもー!」

「はぁ…少し心配になってきたわ。…ん?」

「どうしたの?」

「ドラゴンの言っていることがわかる…!」

『師匠もそうですが慣れればしゃべれるようになりますよ』


 シロもペイルもいずれドラゴンのままでもしゃべれるのか。

 正直声色だけで判断してたから難しいこともあった。

 シロとペイルにはぜひ覚えてほしいな。


『では落ちないように気を付けてください』

「「うわああああ!!」」

「あはは!はやーい!」

「キャウッ!」


 速いってレベルじゃない…。

 しっかり全身でしがみつかないと飛んで行ってしまう。

 たのむ!

 もっとゆっくり移動してくれ!

 なんでシロは手を放しても大丈夫なんだ!

 俺とリーシュちゃんなんて必死なんだぞ!!


*


『到着です』

「死ぬかと思った…」

「私も…」

「ねえねえお姉ちゃん!もう一回乗せて!」

「ダメですよ。今から人に会わなければならないんですから」


 さっと人の姿に戻っている。

 ドラゴンより人の姿のほうが生活をしやすいからかな?

 それに命を狙われる心配もないからね。


「というかここどこよ…」

「でっかい木の上みたいだね」

「ここは師匠がつくった森です。この木は力を入れて育てた中心にある木です」

「力を入れて育てた…?」

「はい。この木は師匠の魔力に唯一耐えた木です。ですのでここまで大きくなりました」

「「なりすぎだよ!」」


 ちなみに高さは600メートルより高いぐらい。

 ようするにスカイツリーの上にいるってことになる。

 そのてっぺんすら行ったことがない俺がそれより高いところにいる。

 正直怖い。

 でもここはどこか天空都市、ゲームのエルフの村みたいだ。

 いや、高さ的にハーピィの村のほうが合ってるかな?

 木の中に道があり、いろいろなところにつながっている。

 俺たちがいるのは停まれるように広い場所となってた。


「こちらへ。師匠がまっております」

「はーい。いくよシロー!ペイルー!」

「はーい!」

「キュゥ…」


 ペイルはここの風景を気に入ったみたいだ。

 確かにきれい。

 絵も描きたいけど今は挨拶。

 置いといてあげたいけど会ったときに名前が挙がっていた。

 ようするにみんな来ているのを知っている。

 それなら挨拶をしたほうがいい。


「師匠。お連れしました」

「ああ。入って構わない」

「失礼しま――す?」

「いい顔をするな。やはり待っていてよかった」


 道を渡った先の部屋に入ると一人のおじいちゃんがいた。

 髪は白く、顎髭も胸らへんまで長く生えている。

 痩せているのか筋肉があるのか分からないけど普通の体系。

 赤い帽子に赤い服を着れば見事なサンタクロース。

 すごく見てみたい…。


「さて、来たということは力が欲しいんだな?」

「もちろん!」

「わかった。リーシュよ。お主は元の力を取り戻したんだな?」

「!?できるの?いや、できるんですか?」

「ああ。うぬの正体は分からぬが、儂達老竜も異変に気付いている。原因となった可能性があるものを見つけた」

「それは一体…」

「それは後でだ。そっちにいるシロとペイルよ」

「はーい!」

「キャウッ!」

「お主たちには覚えてもらうことがある。サリア」

「ふぁ~い…」

「サリア!師匠の前ですよ!」


 横にある入り口から一人の女性が入ってきた。

 身長は150前後で小さめ。

 髪はボサボサでだらしない系。

 でもあのたわわ…。

 大人だな、うん。


「まあいい。サリア、昨日言った通り教えてやれ」

「はいは~い。よろしくね~。えっと」

「シロ!この子はペイル!強くなれるの?」

「そりゃもちろん強くなれるっすよ~」


 シロは新しいおもちゃを買ってもらったかのように目をキラキラさせている。

 これなら俺が近くにいなくても大丈夫かも。

 正直、心配。


「うむ。ならさっそく始めてくれ」

「それじゃあいくっすよ~」

「はーい!後でね、ジル!」

「はいはい。頑張ってね」

「さて、これで話ができる。さっきの話だ」

「本来の力が使えないっていう話?」

「そうだ。結論から言おう。今魔王の座に座っている魔王、ザルクによってそのようなことが起きている」


 魔王ザルク…!

 シロの親を殺した憎き野郎。

 忘れもしない名前だ。


「ザルクは今でも進化している。いや、進化しようと成長をしている。魔王からさらに上へと」

「それって何になるの?まさか神様とか?」

「そのまさかだ。ただ神と言っても魔神。魔の神だ」

「でもなんで私が影響を…?」

「ザルクは自分の上にいるものを邪魔とみている。神と神の使いの力を抑制する魔法をとうとう完成させ、最近発動させたのだ」


 そんな大規模な魔法を、一人で?

 どんだけやばいやつなんだ…。

 まさか魔王が神になろうとしているなんて思いもよらなかった。

 早めに討たないと確実に世界へ多大な影響を与える。


「それってどういう魔法なの…?」

「正式な魔法名は分からないが儂達は『崩壊への呼び声』と呼んでおる。ただ、この魔法に対して抵抗する手段を知っている。友が受け、解決法を見つけた」

「それが、元の力を取り戻す方法?」

「そうだ。ただこれは応急処置。ザルクが新たな魔王を発動させる前に討たねばならない」

「…わかったわ。お願い!私にその魔法を教えて!」

「なら儂からも問おう。汝はなぜ魔法に引っかかった?」

「それは……」

「うむ。答えは『言えない』か。それも一つの答えだ。これ以上追跡はせぬ。すまぬな」

「……ごめんなさい」


 神様なんて言えないもんな。

 ましてや神様が神の使いなんて。

 話が分かる人、ドラゴンでよかったね。


「言えないならもちろん条件はある」

「…わかったわ。何かしら?」

「こやつ、ジルと一緒にいろ。それが条件だ」

「ええ!それなら誓うわ!」

「うむ。いい返事だ」


 即答!?

 ああ、条件としても楽だからか。

友達、神様と一緒にいられるからうれしいけどさ。

 なんか運とか上がりそうだし。


「話は以上だ。ではさっそく修行といこう。クーリア」

「はい」

「まずは小手調べだ。二人とも、クーリアと戦ってみろ」

「「はい!」」


 まずは小手調べ!

 修行の開始だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る