百日目

 百日目。僕は博士の隣にいた。


 博士は前に比べてよく僕を撫でてくれるようになった。それはずっと隣にいるからだろうけど、休憩する時や仮眠する時、それ以外にも僕と目があった時は必ず頭を撫でてくれた。


 それが嬉しくてずっと隣にいるのだけど、博士の邪魔にはなっていないだろうか。ただそれだけが心配だったが博士は相変わらず"ココロ"の開発に勤しんでいた。


 この頃になると、博士の疲弊ひへいは手に取るように分かった。博士の服はほつれ始め、体内に内蔵されている臭気検知器の臭気指数は高い値を指している。ディスプレイの光が博士の顔を照らし、目の下には濃いくまが確認できた。起動した時に見た博士とは大違いで、健康的な表情や体型の面影は無く、げっそりとせ細ってしまっている。


 そんな博士を見るに見かねて、僕は白衣のすそを引っ張った。


「大丈夫だよ。後ちょっとかもしれないから、待っててね」


 僕の言いたいことが分かっていたのか、博士は手を止めることなくそう言った。


 博士がいつものように「どうしたんだい?」と聞いてくれないのは悲しかったが、博士が大丈夫だと言うのなら、僕は従おう。


 これは博士の生き甲斐で、博士が選ぶ道なのだから。

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