番外編

ある日の収録①

それは、ある日の収録のこと。


***

奏絵「はい、おたよりです。『ラジオネーム、ハダカーニバルさんからです』」

稀莉「はい、次行きましょう」

奏絵「え、早すぎない?」

稀莉「何、そのラジオネーム!出禁よ、出禁!もう送ってこないでください」

奏絵「そう助長すると余計送ってきちゃうからさ~」

稀莉「何なの、読むしかないの!?」


奏絵「はいはい、いきましょう。『高校の頃は部活をやっていたので坊主だったのですが、大学に入り、モテたいために髪を伸ばしています。どうしたらモテるんですかねー。お二人は男性の好きな髪型ありますか?』、好きな髪型ねー」


稀莉「どうでもよくない?次、行きましょう」

奏絵「まあまあ。私はそんなにこだわりないけど、長髪よりはさっぱりしている方が好きかな。坊主まで行くとあれだけど、そうそう、ツーブロックとかいいと思う」

稀莉「ツーブロック?髪の毛の上にレゴブロックでも乗せるの?」

奏絵「何その発想!ツーブロックっていうのは……口で説明するのは難しい。よくスポーツ選手とかがやっている髪型!」

稀莉「雑!」

奏絵「ごめんなさい、語彙力無くてごめんなさい」

稀莉「よしおかんは大学出なのよね?」

奏絵「やめて!大学は悪くないの!それはそうと、稀莉ちゃんは美容院で髪切っている?」

稀莉「うん、そうね。マ、お母さんが通っている美容院に私も中学生の頃から通っているわ」

奏絵「中学生から同じ美容院って凄いね」

稀莉「そうなの?」

奏絵「東京には美容院たくさんあるから、ついつい浮気しちゃうのよ。一途にそこに通うなんて偉い」

稀莉「単に他に行くのが面倒なだけよ。それにずっと同じ美容師のお姉さんだから安心だし」

奏絵「ほえー、何だか大人」

稀莉「よしおばさんに言われたくないわ」

奏絵「おばさんやないし!」

稀莉「はいはい、よしおかんも美容院で切っているのよね?」

奏絵「うん。でも稀莉ちゃんとは違って、色々な店を転々としているかな」

稀莉「それって面倒じゃない?」

奏絵「だって、初回限定クーポンって安いんだよ。それを利用し、少しでも安く、安く……」

稀莉「ケチくさいわね」

奏絵「処世術よ」


稀莉「次、髪の毛関係のお話でもう一通」

奏絵「また髪の話してる」


稀莉「『波打ち際のたこたこさんから。お二人はどんなシャンプーを使っていますか、はあはあ』え、シャンプーのメーカー?」


奏絵「稀莉ちゃんストップーーー!」

稀莉「何よ大声出して」

奏絵「駄目、うかつにシャンプーの銘柄を答えてはいけないの」

稀莉「何でよ」

奏絵「飲むからだよ」

稀莉「は?飲む?シャンプーは飲み物じゃないわよ」

奏絵「それが飲むんだよ……。熱狂的なファンは飲むの」

稀莉「えっ」

奏絵「ドン引きだよ」

稀莉「飲んでどうするの?何になるの?」

奏絵「何になるんでしょうね。飲むのはいいすぎとして、同じシャンプーを使うと『私も稀莉ちゃんなんだー』、とか『稀莉ちゃんに出会えました』と疑似的に本人の気持ちを味わえたり、会えたりするらしい。声優さんを身近に感じられるんだって」

稀莉「怖っ」

奏絵「でしょ。なので、迂闊にシャンプーのメーカーを答えてはならないの。女子高生声優の稀莉ちゃんも使っているシャンプーです!とレビューが書かれて、爆売れしたら怖いでしょ?」

稀莉「わかった。社会の闇には突っ込まないわ」

奏絵「くれぐれもシャンプーは飲まないようにしましょう」

稀莉「当たり前のことなのに、今では忠告が恐ろしい」

奏絵「何々、植島さん。携帯なんか見せて。ふむふむ。あとはティッシュにシャンプーつけて、枕の側に置き、香りで添い寝気分を味わえる、らしいよ」

稀莉「飲むより健全だけど、やっぱり可笑しい!」

奏絵「ねえ、稀莉ちゃん、あとでこっそりお姉さんにだけシャンプー教えて?お姉さん添い寝気分味わいたいんだ」

稀莉「教えるか、馬鹿―!」

***


「いやー、今日もヤバい回だったね」

「知りたくなかった、シャンプーが頭髪洗う以外に使われているなんて」

 

 稀莉ちゃんががっくりと項垂れている。現役女子高生声優にオタクの深淵を見せすぎたかと若干後悔。面白い収録になったからいいのだけど。


「まあまあ、ネット情報だから、本当はいないかもしれないよ。盛った嘘かもしれないから」

「本当にそうだと嬉しいわ、でもやる人はやるのね」


 稀莉ちゃんに社会の闇を教えすぎた気がする。このまま闇落ちしないでね……!


「で、稀莉ちゃんはどんなシャンプー使っているの?」

「飲まないよね?」

「お腹が空いてもさすがに飲まんわ」

「ハンドクリームとかが有名な会社のとこのシャンプー」

「あー、あそこね。高くない?」

「それなりだと思うけど。お母さんが使っているから私も使っている感じ」

「なるほどねー、稀莉ちゃんはお母様と同じ香りなわけだ」

「その言い方何だか嫌だ」

「ごめんごめん」


 私は中学から色気づいて?、いや別に色気づいてはいなかったけど、何だか親と一緒なのが嫌で、母親とは別のシャンプーを使っていた。同じもの使っているのは仲良しでいいと思うけどなー。口にはしないけど。

 

「……よしおかんはどこのシャンプーを使っているの?」

「私?うーん、何だっけ。木蓮の香りの……」


 すぐにメーカー名が思い出せず、携帯で検索。


「あった、これこれ」


 そう言い、携帯を彼女に見せる。


「ふーん、良さそうなの買っているのね」

「髪は女の命ですから」

「アラサーになると必死ね」

「おい」


 ラジオの時も日常の時もこんな掛け合いが続く。収録の合間も変わりなく、ただ喋っているだけで楽しい。新鮮な気持ちだ。





「ただいまー」

「おかえりなさい、稀莉さん」

「晴子さんお願いがあって」

「何ですか、稀莉さんから珍しいですね」

「新しいシャンプーを買ってほしくて」

「シャンプー?」

「そう木蓮の香りのでね……」

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