ふつおたはいりません!【Web版】

結城十維

第一部

第1章 タイトルコールは突然に

第1章 タイトルコールは突然に①

***

奏絵「始まりました」

稀莉「佐久間稀莉と」

奏絵「吉岡奏絵がお送りする……」

奏絵・稀莉「これっきりラジオ~」

奏絵「はい、記念すべき第1回目です」

稀莉「1回目です」

奏絵「売れっ子声優の稀莉ちゃん、17歳。17歳!? 若っ! えー歳の差にすると10歳も違う、凸凹コンビが、悩める皆の悩みをばっさばっさ斬っていきます」

稀莉「はい、斬ります」

***


 会話が全く盛り上がらない。

 目の前の女の子をちらっと見るも、特に表情の変化はなく、淡々としている。

 「私、モブ役の人の名前と顔いちいち覚えていないんですよ」とさっきの言葉を思い出し、イラっとするも、その気持ちを抑え、にこやかに振舞う。


***

奏絵「それにしても10歳差って……。現役女子高生ですよ。肌ぴちぴち! いやー、若いって素晴らしいですね」

稀莉「はい」

奏絵「えーっと、うん、稀莉ちゃんにとって27歳ってどうかな?」

稀莉「年上ですね」

奏絵「うん、その、27歳なんておばさんだよね」

稀莉「そうですね」

***


 自分をネタにしても、さほど反応がなく、苦笑いするしかない。

 「せいぜい私の足を引っ張らないように頑張ってくださいね」と偉そうなこと言っていたくせに、どっちが足を引っ張っているんだ。本当にムカつくな。


***

奏絵「稀莉ちゃん肯定しない! 私はおばさんじゃないよ。お姉さん、お姉さんだからね。まだ30になってないよ、アラサーだよ」

稀莉「そうなんですか?」

奏絵「稀莉ちゃん、収録終わったら楽屋でお話しようね」

稀莉「どういうことですか?」

奏絵「えーっと、うん、じゃあ、はい、じゃあ早速コーナーに行きましょうか」

***

 

 つまらない放送になったのは言うまでもない。

 こうして私と女子高校生声優の、ぐだぐだすぎるラジオ番組が始まったのであった。

 吉岡奏絵の行く先はどっちだ? 

 完!


 って、『完!』じゃないから、打ち切りじゃないから!

 私、このラジオ番組が終わったら仕事なくなるから! 食っていけなくなるから!!

 

 目の前の女の子はムカつくし、上から目線だったくせにトークスキルは無く、会話も弾まない。


 でも今の、私にはこのラジオ番組しかないのだ。

 かろうじて声優と名乗っている、ほとんどバイトが中心の私の、最後の命綱。

 ここで絶対に終わらせてたまるか! 声優として生き残るためにやれることは何でもやってやる。たとえラジオの相方が生意気でも、10歳差の売れっ子高校生声優でも、彼女の発言にイラっとしても私は屈してはならない。

 売れない負け続きの人生をここから、ラジオから逆転させるんだ。



 ラジオの話を受けたのは、少し前のことだった。

 話は遡る。ぐーるぐる。

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