5分間は僕の中

白川 夏樹

5分間は僕の中

ふぅ、終わった。

期末テストの試験時間中、周りのクラスメイトがまだ解答している中一足先に筆を置いた僕はため息をついて椅子の背もたれに背中を預け、くつろいでいた。


教室の時計が示す時間は、試験が終わるまであと5分となっていた。

5分をボーッと過ごすのも悪くないが、僕はもっと有意義な時間の使い方を知っている。

今日もまた、僕は5分を有限から無限にしてくれる妄想の世界へと入り込んだ。


今僕は特命を受けて指名手配者の女を追うエージェント。

何度もその顔を追うたびにいつしか恋に落ち、特命だけが追う理由ではなくなってしまう。

ある日ついに彼女を捕まえ告白をしてしまうが、その心のすきを突かれ銃で胸を撃ち抜かれてしまう。

それは初めて恋に落ちた衝撃と似ていた。



妄想を終え、時計を見る。

体感では3時間経っているように思えたが、まだ2分ちょっとしか経っていないようだ。

だから僕は、次の妄想を試みる。



今僕は小さな国の大統領。

着任当初は訝しげな目で見られることが多かったが、僕が誠心誠意この国のために死力を尽くすと、国民は自然と僕についてくるようになった。

国民と一体になった僕は、どこまでも進んで行けると思っていた。

だけどそう思った矢先、不治の病にかかってしまい、余命宣告をされてしまう。

それでもガムシャラに仕事をして、ついにその人生に幕を下ろしてしまう。

けど僕の顔は、笑っていたのではないだろうか。

こんなにも幸せな人生を歩めたのだから。


……キーンコーン


試験終了の鐘がなると同時に、僕は妄想から引き戻された。

良い充足感がたしかに僕の中にあった。

スキップでもしたくなるような気持ちを抑えて、答案用紙を提出しに行く。

けどそこで僕は信じられないものを見てしまった。

なんと、このテストの答案には裏にも記入するところがあったのだ。


こればっかりは、妄想でもどうにもならない。

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