247話 高月マコトは、再会する

「どうぞこちらへ、高月マコト様とご一行」

 俺に声をかけた怪しいローブの人物は、街の奥へ奥へと俺たちを導いた。


「マコトさん……ついて行ってもよいのでしょうか?」

「罠……の可能性はないですか? 師匠」

「多分、大丈夫」

 勇者アベルと大賢者様モモが心配げに言うが、俺には心当たりがあった。


 俺に声をかけたローブの人物の手の甲にある紋章。

 それは、月の国ラフィロイグで信仰される月の女神ナイア様の

 その紋章は……。


水の大精霊ディーア、念の為戦闘の準備をしておいてくれ)

(はい、我が王)

 一応、水の大精霊ディーアに声をかけておいた。 


「なぁ、精霊使いくん。高月とは君のことか?」

「俺の名字ですよ。白竜メルさん」

「ほう……名字を持っていたのか。さては君の正体は、東の大陸の貴族の出か?」

「ハズレです」

「むぅ、違ったか」

 正体を言うなと言うが、気にはなるらしい。

 その会話に、モモが割り込んできた。


「師匠、名字をなぜ隠してたんですか?」

「まぁ、色々あってな。モモは今まで通りに呼んでくれ」

「は、はい……うぅ、師匠は謎が多いです」

「……マコトさんの知らない情報が……また、隠されてた……」

「アベルさん? 何か言いました?」

「い、いえ! 何でもありません」

 そんな雑談をしながら、いつしか俺たちは薄暗い街角――スラムのような場所に来ていた。

 

 月の国ラフィロイグの王都は、どこも明るい雰囲気だったが、全てがそうとは限らない。

 案内されたのは、廃墟のような建物だった。

 が、外見がボロボロなだけで中に入ると小綺麗に片付いている。

 ぽつぽつとロウソクが照らす廊下を進んだ。

 突き当りには、大きな扉があった。


「この先で主様がお待ちです」

 ローブの女性は、そう言って消えていった。

 勇者アベル、大賢者様モモは緊張した面持ち。

 白竜さんは、普段通りだ。

 俺は、ゆっくりと扉を開いた。




 ◇




「待っていました。勇者たち」


 扉を開いた先は、礼拝堂のようになっており最奥にある演壇に一人の女性が立っていた。

 年齢は十代の前半だろうか。

 小柄で整ったその容姿は、美しい人形のように見えた。

 やや冷たい印象を受けるその瞳が、こちらを見下ろしている。

 勿論初対面なのだが、俺はある人に似ている、と感じた。


「高月マコトです」

 俺はゆっくりとその人に近づき、名乗った。


「ええ、知っています。あなたのことは運命の女神イラ様から聞いています。私は運命の女神の巫女、エステルと申します」

「「!?」」

 アベルとモモが驚いた顔をしている。

 白竜さんも、僅かに驚いているようだ。


 運命の女神の巫女…エステル様……か。

 巫女の名前は千年後と同じなんだな。

 代々名を受け継ぐ、とかなのだろうか?


「どうぞ、おかけなさい」

 俺は着席を勧められ、礼拝堂の一番前の席に座った。

 隣に座った大賢者様モモが、緊張で身体を固くしている。

 さて、折角会えたのだから聞きたいことは山のようにある。


「あの……、ところで運命の女神イラ様と話したいのですが……」

「ちょっと待ちなさい、先に勇者からです」

 じろりと俺を一瞥した。

 巫女様は、演壇を降りて勇者アベルに近づいた。


「勇者アベル。大変な旅だったでしょう。よく無事にここまで来ました」

「は、はい……。危ないところをマコトさんに助けてもらいました」

「手を出してください」

 勇者アベルは、言われたとおりに手を出しだした。

 それに数秒、巫女エステルが触れる。

 あれは、何をしているんだろうか。


「ふむ、なるほど」

「あの、巫女様?」

 訝しげな表情のアベルを、エステルさんは無視した。


「次に、そちらの小さな賢者よ。あなたも苦労したでしょう」

「は、はい! でも、師匠が一緒でしたので!」

「師匠?」

「えっと、マコト様と白竜師匠です!」

 巫女様は、俺と白竜さんを不思議そうに見比べた。

 すぐに納得したように頷いた。


「良い師に導かれているようですね」

 そう言って、モモの頭に軽く触れた。 


そちらの白竜ヘルエムメルク」

「はい、巫女様」

 珍しく白竜さんが緊張している。

 てか、あれ?

 俺は?

 

「巫女様。私はかつて運命の女神イラ様に助けていただいたことがあります」

「ええ、そのことを運命の女神イラ様は覚えています。かつての幼竜が立派になったと女神様は喜びです」

「ありがたい、お言葉です……」

 白竜さんの声は少し震えていた。


 そうか、白竜さんは運命の女神イラ様の知り合いだったのか。

 それなら運命の女神イラ様の話をすればよかったか。

 巫女エステルは、アベルと同じように白竜さんの手を一瞬だけ握った。


 そして、再び演壇に登った。

 俺のところにはこなかった。


「あの~、エステル様?」

「だから、ちょっと落ち着きなさいって、あんたは」

「は、はぁ……」

 怒られた。

 そんな不機嫌な口調で言わんでもいいやん、と思いつつこの巫女ひともしかして……。


「さて、これから魔王に挑むにあたりあなた達の今の装備では心許ないでしょう。ここにあなた達の武器を準備しました。好きなものを選びなさい」

 そういうや、何名かのローブの人たちが出てきて次々に武器や盾、鎧を並べ始めた。

 おお……、なんだこの贅沢な展開は。

 俺たちの目の前には、ミスリル製と思われる武器や、幻獣素材の武具が輝いている。


「うわぁ……」

「わわっ! キラキラしてます、師匠!」

「ほぉ……、これは」

 勇者アベル、大賢者様、白竜さんが目を見張った。

 

 いいなぁ、俺も選んで良いのかなぁ。

 ふらふらとそっちに行こうとした時、くいくいと袖を引っ張られた。

 振り向くとそちらに居るのは。


「エステル様?」

「……高月マコト。あなたに個別に話があります、こちらに来なさい」

「俺だけ、ですか?」

「そうよ、あなただけ。早くしなさい」

 そう言って運命の女神の巫女様は、奥の部屋へ消えていった。


「わ、このマントには四属性の防護魔法がかかっています!」

「それは、天獅子のタテガミを織り込んだものだな。伝説の一品だ。もらっておけ勇者くん」

「こ、これがっ……」

「白竜師匠、この杖から凄い魔力マナが……」

「それは世界樹の枝から作った杖だな。半端な魔力マナのものには扱えんが、ちびっ子にはいいんじゃないか?」

「せ、世界樹ってあの神話に出てくるっ!?」

「浮遊大陸には、世界樹の苗木があるからそこまで珍しいものではないぞ? むしろ加工の方が大変なのだ」

「なんでも知ってますね! 白竜師匠!」

「なんでもは知らん」


 楽しそうな声が聞こえる。

 解説役は白竜メルさんだ。

 あの人の知識、半端ないな。

 俺もあっちで、武器や防具が見たいよう……。


「高月マコト様、こちらへ。巫女様がお待ちです」

「……はい」

 ローブの人にぐいぐい押された。


 仕方なく奥の部屋に向かう。

 そこは小さな窓の無い部屋だった。 

 後ろ姿の運命の女神の巫女が、立っている。


「扉を閉めなさい」

 巫女様が告げた。

「はい」

 ローブの人が、分厚い扉を閉めた。

 バタン、と大きな音がして扉が閉まった。


 これで、この部屋は完全な密室になった。

 随分、厳重なんだな……。

 まさか、これが罠、じゃないよな?

 少しだけ不安になった。


「あの、巫女様。ご用件は……」

「高月マコトーー!!!」


 次の瞬間、運命の女神の巫女様が俺に

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