218話 高月マコトは、聖女を手伝う

「「「「いただきます」」」」

 俺たちはさーさんの作った朝食を食べている。

 ルーシーと魂書ソウルブックを見てテンションが上がった俺たちが盛り上がっていたら、さーさんに「はやく来なさい!」と怒られた。

 水魔法の熟練度が999だった件は、あとでじっくり検証しよう。


 今日の朝食は、トーストと野菜のスープとハムエッグとサラダ。

 洋風なんだけど、どこの日本の食卓にもありそうなメニュー。


 俺はトーストにサラダとハムエッグを載せ、さらにマヨネーズを追加した。

 マヨネーズは、ふじやんの店から購入。

 やっぱり異世界にはマヨネーズだよな!(偏見)

 俺が即席サンドイッチをもしゃもしゃ食べながら、昨日の夢の話を仲間に共有した。


「というわけで、アルテナ様は良い女神ひと様だったよ。イラ様は残念だったけど」

「えー……イラ様って、そんな女神様だったんだ……ショック」

 俺の話にルーシーがショックを受けていた。


「太陽の勇者を部下にするって話、断ってよかったの? 高月くん」

「嫌だろ、さーさん?」

「うーん、確かに怖いけど味方になるなら居たほうがいいんじゃないかなぁ……」

 マジか、さーさんって結構タフだな。

 フリアエさんは、俺たちの会話をぼーっと聞いている。


「姫?」

「な、なにかしら?」

「調子悪い?」

「そんなことないわ!」

 そっかなぁ。

 あんまり食事が進んでないけど。


 俺たちが食事を終え、食後のお茶を飲んでいると足音が聞こえてきた。

 数が多い。

 はて、来客の予定あったっけ?


「勇者マコト! フリアエ! 居ますか!?」

 ソフィア王女だった。

 後ろには、護衛の騎士たちやふじやん、あと……運命の女神の巫女エステルさん? 


「おはようございます、ソフィア王女。何かありました?」

「おはようございます、勇者マコト。それに、フリアエも居ますね」

「な、なによ?」

 ソフィア王女が、険しい顔でこちらに近づいて来た。

 フリアエさんが身構える。


「太陽の国……、いえの魔人族たちが聖女フリアエに会わせてくれ、と押し寄せています」

「「「「え?」」」」

 フリアエさんだけでなく、俺、ルーシー、さーさんの驚きの声が上がる。

 た、大陸中の魔人族……?


「ど、どういうこと……?」

 フリアエさんの声が震えている。


「どうやら、魔人族の夢の中に『イラ様』が現れ、聖女フリアエが魔人族のための国を建国する、というお告げをされたそうなのです! それによって魔人族たちがフリアエ殿のもとに集まっているようでして……」

「イラ様が……?」

 ふじやんの言葉に、俺は皆の後ろにいる巫女エステルさんに胡乱気な視線を向けた。

 エステルさんは、さっと目を逸らした。


「イラ様……? 今度は何をやらかしたんです?」

 俺がそう言うと、周りの人たちがぎょっとした顔をした。


「勇者マコト、どういうことです? ここに居るのはエステル様で……」

「イラ様~? こっちを向きましょうか。アルテナ様に言いつけますよ」

「ヤメテ!!」

 俺の言葉に、エステルさんがこっちに飛んできた。

 やっぱ、イラ様じゃないか!


「で? 今度は何を失敗したんです?」

「失敗じゃないわよ! フリアエが聖女になって、建国をするなら人材が必要でしょ? だから、私が魔人族の夢で周知してあげたのよ!おかげで魔人族がいっぱい集まってきたでしょ?」

「イラ様が降臨されているのですかっ!?」

 ソフィア王女と護衛の騎士たちの顔が引きつっている。

 この女神ひと、常時降臨してるからなぁ。


「にしても、急過ぎるのでは? 準備してからじゃないと……」

「何を悠長なことを言ってるのよ、高月マコト。大魔王の復活よ? そうしたら『国家非常事態宣言』が発令されて、民の移動が難しくなるわ。このタイミングがベストなの」

「「「「「「「「明日!?」」」」」」」

 イラ様の言葉で、周りのざわめきが一気に大きくなる。

 なんで、そんな重要なことを伝えてないんですかねぇ……。


「あ、あれ? 言ってなかったかしら?」

 駄目だ、このポンコツ女神。

 まあ、大魔王の復活が数日以内であることは皆知ってるし、戦争等の準備は終えているはずだけど。 


「姫、大丈夫?」

「えっ!? えぇ……うん、大丈夫……よ」

 さっきから情報が多過ぎて、オーバーヒートしたフリアエさんの顔を覗き込んだ。


「顔、赤いよ?」

「だ、大丈夫だから! だから……ちょっと、顔が近いわ」

「熱あるんじゃない?」

「ひぅ」

 俺がフリアエさんのおでこに手を当てた。

 むぅ、ちょっと熱い気がする。


「はいー、ふーちゃん。ちょっと落ち着いてー」

「マコト、あんたはフーリから離れなさい」

 さーさんがフリアエさんの肩をぽんぽん叩き、ルーシーが俺をフリアエさんから引き剥がした。

 おい、俺は姫が体調悪そうだから心配してだな……。


「押し寄せてきた魔人族については商業の国キャメロンに任せなさい! 王都シンフォニアの外に、受け入れ用の仮設住居を作っているわ。食料なんかも、商業の国キャメロンが手配するわ」

「おおー、流石イラ様」

 外見はエステルさんなイラ様が、ふんと薄い胸を張る。


「フリアエ、集まってきた魔人族から建国に必要な人材を見極めなさい。順番に面談を出来る場所を準備しておくわ」

「わ、私が……?」

「建国は一人じゃできないでしょ。商業の国キャメロンに支援させるから、その間にあなたを支える人材を揃えなさい」

「わ、わかりました。やってみます」

 イラ様の言葉に、フリアエさんは不安そうながらも力強く頷いた。 

 これは……俺も何か手伝わないと。


「ふじやん。姫のサポートしてくれないか!」

「む、なるほど。了解しましたぞ」

 俺の言葉に、ふじやんがすぐ理解をしてくれた。

 今のフリアエさんには、色んな思惑を持った人たちが集まっているだろうから、ふじやんの『読心』で信頼が出来る人を判断してもらおう。 


「姫、ふじやんに手伝ってもらってもいい?」

「それはいいけど……私の騎士は?」

「俺も勿論、手伝うよ」

「そう、ならいいわ」

 姫の表情が、徐々に落ち着きを取り戻してきた。


「なにやら、勝手に話が進んでますが……私も手伝いますよ、フリアエ」

「私たちにできることってあるのかしら……?」

「きっと、あるよ。ふーちゃん、困ったことがあったら何でも言ってね!」

 ソフィア王女、ルーシー、さーさんも協力してくれるようだ。


 俺たちは魔人族が集まってきているという場所へ向かった。




 ◇




「疲れたわ、私の騎士……」

「今日は出前にしようかなぁ……」

「よかったじゃない、フーリ。大人気で……」

 夕方頃。

 宿泊宿のリビングで、姫、さーさん、ルーシーがぐてっとしている。


「みなさん、疲れていますね」

「忙しかったですから……」

 ソフィア王女が心配そうに、俺に話かけてきた。

 今日だけで、百人以上の魔人族との面談を終えたのだ。

 

 魔法使いの能力は、ルーシーがチェック。

 戦士は、さーさんが実技試験。

 人柄は、『読心』でふじやんがチェック。

 最終面談を、フリアエさんが行った。


 フリアエさんが直接面談をするのは、集まった人たちの中で特に優秀な人たちだけだ。

 既に千人近くの魔人族が集まっているので、一般人(魔人族)はソフィア王女やエステルさんの部下が、手分けして名簿を作っている。


 とりあえず、土木と農業の経験がある人材の確保を急いでいるらしい。

 あとは、月の国跡地は、魔物も多いので戦闘技能がある人材。

 もっとも、魔人族は魔法使いが多いので、戦闘に関しては問題ないんだとか。

 などなどを、ソフィア王女やふじやんたちが、テキパキ仕分けていく。

 

 俺?

 フリアエさんの隣で見てるだけでした。

 やることないねん。 


「では、私はこれからノエル王女と会う約束があるのでハイランド城へ向かいますね」

 ソフィア王女が名残惜しそうに、俺の手を掴んだ。

 俺はその手を握り返す。


「ソフィア、ありがとう」

「そう思うなら、もう少し構ってください」

 つんとした表情で、頬をつねられた。

 えーっと、どうしようかな。

 よし! 困ったら、抱きしめておこう。


「きゃっ」

 俺がソフィア王女を抱きしめると、可愛い悲鳴を上げ「ズルい人ですね」と言われた。

 表情は優しくなったので、きっと正解ルートだったはずだ。


(いいわよー、グッジョブよ、マコくん)

 エイル様が視てた。


「「「……」」」

 ルーシー、さーさん、フリアエさんも見てた。

 そっちには、視線を向けないようにしたけど、無理でした。




 ◇



 夜になっても、俺は宿の自室で修行をしていた。


 ついに、明日は大魔王の復活……。

 異世界にやってきてから、度々言われてきた史上最大の事件イベント

 これは……テンションが上がる。

 さて、大魔王戦に備えて魔法の修行でもするか!


(いつも通りじゃない)

 普段通りが大事なんですよ、ノア様。

 そんな会話をしていた時「コンコン」とドアがノックされた。


 ルーシーが修行を誘いにきたのか、さーさんが喋りにきたのか……。

 俺はどちらかだろうと予想した。


「どうぞ」

「は、入るわよ……」

 予想は外れ、入ってきたのは寝間着姿の聖女フリアエさんだった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る