第八章 『戦争』編
172話 高月マコトは、仲間と語る
「元一年A組の再会に」「「「乾杯」」」
俺、ふじやん、さーさん、河北さんの四人は
河北さんが奴隷から解放されたので、元クラスメイトでお祝いをしようとさーさんが言ったのだ。
勿論、俺もふじやんも異論ない。
「ありがとう、みんな。結局、助けて貰っちゃったね」
河北さんは少し照れ臭そうに笑った。
「よかったよー、ケイコちゃんー!」
さーさんが河北さんに抱きついている。
しばらく女子トークをしていたが、河北さんが、ふと気づいたようにこっちを向いた。
「高月がこの国の偉いやつに掛け合ってくれたんだっけ? ありがとね」
「俺が将軍と話した時は、とっくに河北さんは解放されてたよ。ふじやんとさーさんの手柄だよ」
俺は苦笑しつつ、頬をかいた。
「でも、高月ってクラスじゃ全然話したことなかったじゃない。ミチオは昔から知ってるし、アヤは友達だからわかるけど。高月、いいやつね」
そう言って笑顔を見せる河北さんは可愛かった。
クラスの時は、ギャルっぽくて口調がきつくて、ちょっと怖かったけど。
話してみると案外いい子なんだなって。
「いやぁ、しかし助かりましたぞ。佐々木殿が火の国の聖剣バルムンクを壊してくれたおかげで、火の国に恩を売ることができましたからな」
「聖剣を直すほうが、大変だと思うけどね」
「はっはっは! 偶然、拙者の知り合いの知り合いが『聖級』の鍛冶師と親しい人物でしたからな。運が良かったですぞ」
ふじやんは、からからと笑っている。
が、俺は知ってる。
ふじやんに、何か無茶なお願いをしても『それなら、拙者の知り合いの知り合いが……』って言って大抵解決しちゃうんだよなぁ。
人脈広すぎぃ!
それから、しばらくはこの世界に来ての苦労話や、前の世界の話題で盛り上がった。
河北さんとさーさんは、異世界は甘いモノが少ないという不満で盛り上がっている。
そういえばノア様のところで貰ったアイスは、久しぶりに美味しかったなぁ。
ちなみに火の国の料理は、辛い物が多い。
酒場の料理も香辛料をたっぷり効かせた串焼きや、唐辛子のきいたスープが名物だった。
俺は結構好きである。
美味い食事をして、お酒を飲んで。
だいぶ、みんなの酔いが回ってきた頃だろうか。
「ねえ、ミチオ。あんたって彼女居るの?」
そんな会話が聞こえてきた。
河北さんは酔ったのか、ふじやんにしな垂れかかっている。
いや、あれは酔ってるというより流し目だ。
(おや?)
俺とさーさんは顔を見合わせた。
ついでに、ニナさんが居ないか周りを見渡した(居なかった)。
「……えーと、ですな。それはなんと申しますか……」
彼女は居ないね。
妻が二人居るけど。
何事も快活に話すふじやんにしては、もごもごと口ごもっている。
河北さんはその様子に気付かないようで、熱のこもった目でふじやんを見つめている。
「あのさ……私強がってたけど、本当は知らない貴族に買われるのが怖くて……。本当に感謝してるし、それに今はミチオも地方の貴族なんだよね……? 私いま、行くあてが無いから……」
「も、勿論、河北殿が気のすむまでいつまででも、居てくれて構いませんぞ。客人として歓迎いたしますから!」
「もぉー、そーいうことじゃなくて……。あと、昔みたいにケイって呼んでよ」
(あー)
これはいけませんねぇ。
ふじやん(既婚者)がガチに口説かれている。
ふじやんは目が泳いでいる。
ここは親友として助けねば!
と思っていたら。
「ケイコちゃん、ケイコちゃん」
さーさんが先に動いた。
河北さんの耳元に口を持ってきて、小声で話した。
俺は『聞き耳』スキルをそっと発動した。
別に聞かなくてもいいんだけど。
「藤原くんって、もうお嫁さんが二人も居るよ?」
「……………………え?」
あ、河北さんが固まってる。
うん、そうだよね。
ふじやん、言ってなかったのかぁ。
ちらっと親友の顔を見ると。
気まずそうにしていた。
だよねー。
「へ、へぇ……! そ、そうなんだー! なんだー、そっかぁ!」
河北さんの顔は、真っ赤だ。
若干、涙目だ。
可哀想。
「高月、何よその目は!」
「何でもないっす」
怒られた。
怖っ。
昔の河北さんだ。
「アヤ! 今日は飲むわよ! 付き合って!」
「え? う、うん! 付き合うよ!」
河北さんが、恥ずかしさを紛らわすようにエールを一気に飲み干している。
さーさんもそれに合わせて、
さーさん、ワインとエールはアルコール度数が全然違うよ?
俺はふじやんの肩に手を乗せ、すみっこでちびちびとグラスを傾けた。
宴会は、朝まで続いた。
◇
……頭が痛い。
昨日は飲み過ぎた。
でも、久しぶりの元クラスメイトとの会話は楽しかった。
結局、あのあとは河北さんがふじやんに「嫁二人ってどんな女なのよ! 会わせなさいよ!」
って絡んでいた。
強いなー、あの子。
河北さんとあんなにしゃべったのは初めてだけど、色々知れて面白かった。
話してみないとわからないもんだな。
そういえば、他のクラスメイトたちは元気だろうか?
桜井くんの顔も久しく見てない。
一回くらい遊びに行こうかなぁ、なんて思いながら宿の窓から外を眺めた。
雨粒が窓を叩いている。
最近はよく雨が降る。
せっかくの天気だから、出かけようかなー。
ふと宿の窓から外を見ると、赤い服の魔法使いの後ろ姿が見えた。
俺は窓から外に出た。
「ルーシー、こんなところで何してるんだ?」
雨の中、身体を濡らしながら杖を構えるルーシーが居た。
「魔法の練習。ママに毎日やるように言われてるの」
「家の中でやればいいだろ?」
「失敗したら、周りを吹き飛ばしちゃうのよ」
「……そっか」
そりゃダメだ。
「外でやったほうがいいな」
泊っている宿は、ローゼス王家の御用達。
壊した時の弁済額を考えると恐ろしい。
「でも、雨が止んでからでもいいんじゃないか? 晴れさせようか?」
俺は右手を空に掲げた。
それを見て、ルーシーが怪訝な顔をする。
「天気を変えるなんて、大賢者様じゃなきゃ無理でしょ?」
「そっかなぁ、なんかできそうな気がするんだけど」
一度ノア様に見せてもらった。
今の『精霊の右手』に宿る魔力なら、なんとかなりそうな気がする。
「うー……、マコトならやりかねないから怖いんだけど……。アヤは勇者になっちゃうし。私だけ取り残されてるから」
ルーシーがしょんぼりと俯き、うじうじとつま先で地面をいじっている。
「ルーシー?」
なんか元気が無い?
「ねぇ、私って役に立ってる?」
不安気にこちらを見て、聞いてきた。
おいおい、アホなことを聞くなよ。
「ルーシーが居ないと俺は今ここに居ないよ」
「そ、そうかな……?」
ロザリーさんや木の女神の勇者マキシミリアンさんと、面識ができた。
ルーシーは、救世主アベルの仲間であった伝説の魔法弓士ジョニィの曾孫で。
そして、現役の英雄にして、紅蓮の魔女ロザリーさんの娘でもある。
木の女神の勇者マキシミリアンとは、学校の先輩後輩の間柄。
木の女神の巫女は、義理の姉。
太陽の国では、大賢者様の弟子入りまでしている。
(よく考えると、とんでもないエリート家系だよなぁ)
正直、水の街マッカレンで仲間探しに苦労してたのは、おかしい。
でも、ルーシーは自己評価が低いのと、家族のことをアピールに使わないからなぁ。
不器用さんめ。
仲間が落ち込んでいるなら、褒めて持ち上げないと。
「ルーシーならそのうちロザリーさんみたいになるよ。で、何の修行してたの?」
「ママに追いつける気がしないわ……。そのママに教えてもらった
おお! いいじゃないか!
「今の成功率は10%くらいだっけ?」
「うん……、もう少し成功率上げないと使えないじゃない?」
しょんぼりとルーシーがうな垂れている。
もともと高難易度の魔法だ。
そんなすぐ出来なくて当たり前だと思うんだけど。
何か、気分転換をさせたほうがいいかも。
「じゃあ、俺と一緒にやってみよう。ルーシーの
俺はルーシーの手を握った。
「二人で? 一人でも上手くいかないんだけど……」
と言いつつ、握り返してくる。
「詰まった時は、気分を変えて色々試したほうがいいだろ」
「うーん、そうかしら」
ルーシーは首を捻っているが、やる気にはなったらしい。
「じゃ、いくね」
ルーシーが右手に杖を、左手に俺の手を握る。
『金』属性の超級魔法――
同時に、恐ろしいほどの
が、使い手がほとんど居ない。
理由の一つが、燃費の悪さだ。
とにかくバカみたいに
だから、生まれついて莫大な魔力を持つエルフ族とは相性がいいそうだ。
ルーシーが呪文を唱え終わった。
俺たちの周りに、巨大な魔法陣が何個も浮かんでいる。
(ルーシーの魔力って底なしだよなぁ……)
一緒に冒険して、魔力切れを起こしたところを見たことが無い。
魔法が使えなくなるのは、集中力が切れた時だけだ。
「マコト、行くわ」
「ああ、きっとうまく行くよ」
「
俺たちは、光に包まれた。
――次の瞬間、目の前の景色が一変した。
さらに、顔面に強風がぶつかった。
「ルーシー! うまくいっ……あれ?」
「ま、マコト! なんか私たち落ちてない!?」
転移先は、空中だった。
しかも、ちょっとした高さではない。
地上から(多分)千メートル弱。
雲の上に跳んでいた。
みるみる地面に近づいていく。
「きゃあああ! どうしよう、どうしよう、マコト!」
ルーシーの悲鳴と焦り声が、風の音に混じって聞こえる。
「ルーシーって飛行魔法使えなかったっけ?」
ポピュラーな中級魔法。
比較的誰でも使える。
魔法使い見習いの俺は無理だけど。
「れ、練習中だけど、うまく飛べない!」
「そっかぁ」
そっちを先に覚えたほうがいい気がするな。
「ま、マコト! 落ちちゃう! 落ちちゃう!」
ルーシーの声が泣き声になった。
いかん。俺だけ『明鏡止水』スキルで落ち着き過ぎた。
――へい、精霊さん
俺は右手を前に突き出し「水魔法・不死鳥」を放った。
瞬く間に、巨大な水の不死鳥が姿を現す。
俺はルーシーの手を引きその巨大な水の鳥の背中にダイブした。
落下の衝撃を、水魔法でなんとか分散する。
「え? ええっ! ええええええ!」
「悪い、ルーシー。さっさと魔法使えばよかった」
「マコト! これ王級魔法でしょ。なんで簡単に使えるの!?」
「こいつのおかげ」
俺は『精霊の右手』を見せた。
右手を通して、精霊の魔力をすぐに引き出せる。
便利な世の中になったなぁ。違うか。
俺とルーシーは、水の不死鳥の背に乗ってゆったりと火の国の王都ガムランの上空を飛んだ。
宿屋の場所を上空から探す。
しばらくは、のんびりと空を飛んだ。
が、急にがくんと、水の不死鳥がバランスを崩した。
「おっと」
「きゃ」
高度が下がり、一瞬落ちそうになる。
「も、戻れ!」
それを制御して、落下を回避する。
危な。
まだ、上手く扱えないなぁ。
「悪い、ルーシー。大丈夫?」
「うん、大丈夫。珍しいわね、マコトが水魔法の制御をミスるなんて」
「難しくてさ、この精霊の右手の扱いが」
青く光る腕を見せた。
それを見て、ルーシーが顔をしかめる。
「マコト、痛くないの?」
「痛くない、というか、感覚が無いよ」
「ええ……、それはそれで心配なんだけど」
「おかげで細かい制御がたまにミスるんだよね……、まあ、でも今のほうが良いけど。こんなこともできるし」
俺は上を見上げた。
空には灰色雲が広がり、パラパラと雨が降っている。
俺は右手を空に向けて伸ばす。
――精霊さん、雲を散らせて
ズズズズ……、と雲が渦巻き上に広がりながら広がっていく。
ちょうど、俺たちが居る真上には太陽が顔を見せた。
「……ま、マコトがやった……の?」
「ああ、便利だろ? 水の精霊が多い、雨の時しかできないけどね」
「……」
「ルーシー?」
絶句された。
宿に到着して、じゃあもう一回空間転移の練習しようぜ、と言ったらダメと言われた。
どうも一緒に跳ぶ人の魔力によって、空間転移先に影響が出るらしい。
俺の精霊の右手のせいで、雨雲に引き寄せられた可能性があるとか。
だから、上空高くに跳んだのか。
難しい魔法だな、空間転移。
ルーシーは修行を頑張っているので、邪魔しちゃ悪いと思い、俺は別の場所に行くことにした。
「マコト! すぐ追いつくから!」
去り際。
やけくそ気味に宣言された。
「あんまり、無理するなよ」
「マコトは無理ばっかりしてるでしょ!」
……そうかな?
元気づけるのが成功したかどうか、イマイチわからなかった。
◇
朝早く目が覚めた。
じゃあ、朝食前に修行するかということで、俺は右腕の包帯を解いた。
――青く光る右手を眺める。
精霊化して以来、戻っていない腕。
自分の腕なのに、自由に動かせず……どこか遠くに繋がっているようなおかしな感覚。
ドクドクと血管のように魔力が脈打っている。
そして、肘の少し上あたり。
薄ぼんやりと赤いアザが光っている。
チカチカと電池切れの電球のような光なのは、ノア様が海底神殿に封印されているからだろうか。
しかし、エイル様曰く、これは『神気』というものらしい。
……『明鏡止水』。
落ち着け。
俺はまだ、精霊の腕も、ノア様の『神気』も制御できていない。
いないんだが……
(最近、俺強くなった?)
昨日は、天候も少しだけ操れたし。
口元がニヤける。
今日は、何をしようかな、と考えていると。
「勇者マコト! 起きていますか!?」
ノックもせずに突然誰かが部屋に入ってきた。
ルーシーかさーさんなら文句を言ってやるのだが。
「そ、ソフィア。おはよう」
王女様だった。
俺は、慌てて表情を戻した。
「あら、修行中だったのですね」
ソフィア王女は、俺を見て微笑み、すぐに真剣な表情浮かべた。
何か事件だろうか?
「北征計画の決行日が確定しました」
ソフィア王女が静かに告げた。
「北征計画……魔大陸へ向けて魔王討伐に向かう計画ですね。いつですか?」
前々から言われていた話だ。
「いまから約一ヶ月後。獅子の月の最初の日に作戦を開始します」
「一か月後……、そんなに時間がありませんね」
驚いた。
少なくとも三か月は先かと思っていた。
大がかりな軍事作戦にしては、連絡が急過ぎじゃなかろうか。
俺の言葉に、ソフィア王女も小さく頷いた。
「私もそう思います。何か不測の事態が起きたのではないかと……。そのため
――ソフィア王女が告げたのは、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます