第四章 『太陽の国の王都』編

77話 高月まことは、思い出す

 夢を見た。

 めずらしくノア様のいる場所じゃない。ただの夢だ。


 ◇


 ――東品川の低層マンションの一室。

 あまりモノが無い、やや殺風景な俺の部屋だ。


「ねぇ、高月くんのご両親っていっつも居ないねー」

 中学の頃。

 さーさんと二人でゲームをしている時の夢だった。


「うちは共働きで、戻ってくるのは毎日深夜だよ。おかげでゲームはし放題」

「……それって寂しくない?」

「別に。ずっと、こうだから慣れてるよ」

 仮に両親が揃ってもあんまり、会話がないんだよね。

 一人のほうが気楽だ。


「さーさんのところは、弟が三人いるんだっけ?」

「四人よ。うるさいったら無いよ」

「でも、仲良いんだろ? 俺は一人っ子だからよくわからないけど」

「まーねー。でも前までは、お姉ちゃん子だったんだけど。最近は一緒にゲームしてくれないの」

 不服そうに、頬を膨らませるさーさん。


「それで、うちに来るわけか。女子でゲームする子って居ないの?」

「いるけど……。私の好きなアクションゲーム好きの子っていなくて」

「俺も、アクションゲームはそこまで得意じゃないんだけどね」

「いいでしょー、私も高月くんのRPGゲームに付き合ってるし」

「まあね」

 

 ずっと、一人でゲームするのが好きだと思ってたけど。

 こうやって、二人で並んでも楽しいんだなって、最近知った。


 隣のさーさんは、ポッキーをぽりぽり食べている。

 甘いものが好きなさーさんはいつもお菓子を持ってくる。

 俺はどちらかというと、ポテチとかしょっぱいのが好きで。

 お互いのお菓子を、分け合って食べている。


「ところで、高月くんってボス戦の前の準備に時間かけ過ぎじゃない? 武器も防具も、全部揃えてアイテムもそんなに買い込んで」

「そう? 普通でしょ」

「ええー、一回戦って先に強さを確認すればいいじゃない。全滅したらコンテニューすればいいし」

「そういうプレイは、嫌いなの」

「ふうん」

 

 俺はRPGゲームで極力ゲームオーバーにならないように進める主義だ。

 それが、さーさんは、じれったいらしい。

 まあ、アクションゲーム好きのさーさんは、コンテニュー前提のプレイスタイルだしねー。

 

「ねぇねぇ、このボス倒したら、次は私のゲームだからね」

「りょーかい」

 さーさんは俺の家にゲームを持って来る。

 お互いのやりたいゲームを、交互にプレイしている。

 中学一年から、なんとなく続いているルールだ。


 ゲーム内では、ダンジョンを進みボスの手前までやってきた。


『この部屋にボスがいるわ! 準備はできた?」


 はい 

 いいえ ←


 

 画面上で、アニメ風の可愛いヒロインが、主人公に語りかけてくる。

 目と胸が大きい。露出が多い扇情的な格好をしているヒロインだ。

 うーん、どちらかというと俺はキャラのイラストが強調されるRPGは好きじゃないんだけどなぁ。


「高月くんって、こういうキャラが好きなの?」

「……違います」

「でも、この子可愛いよねー。本当は好きなんでしょ?」

 くそー、からかってきやがって。

 やり返される覚悟はあるよね?


「うーん、俺は胸は大きくないほうが好きなんだよね」

 ちらっと、さーさんのほうを見て言った。

 中学二年の時のさーさんの胸は、非常に慎ましやかだ。

 高校一年でも、別に大きくは無かったが。


「……なんでこっち見るの?」

「俺って胸は大きくないほうが好きだからさ」

 ニカっと笑う。大事な事なので(以下略)

「はったおすわよ、高月くん」

「暴力反対」

 仕返し完了したので、ボスに挑む。

 万全の準備をしていったため、危なげなく倒した。

 セーブをして、俺のプレイしてたゲームを終了する。


「じゃあ、次は私が今日持ってきたは○○ね」

「お! それ昨日発売したやつ?」

「弟が買って来たの。今日は高月くんの家に行くから!」

「……弟さん、かわいそうに」

 上の兄弟がいると、あるあるらしいけど。

 

 そんな、中学の時のいつもの光景。

 懐かしいな。

 あー、景色がぼやけて来た。

 そろそろ目が覚めそうだ。

 なんで、こんな夢を見たんだろう。


 ……今思うと、あのゲームのヒロイン、ルーシーにちょっと似てたなぁ。

 目が覚める直前に、そう思った。



「……」

 目を覚ました。

 ここローゼス王城の勇者(俺)の部屋だ。

 昨日からここに泊まっている。

 ベッドはキングサイズ? っていうのかな。

 ひたすらにデカイ。

 前の世界の俺の部屋くらいあるんじゃなかろうか。


「高月くん! 美味しいクレープ屋見つけたよ!」

 ベッドで目をこすっていると、さーさんがやってきた。

 相変わらず甘いもの好きだなぁ。

 夢の中と、あんまり変わっていないさーさんを眺める。

 実際のところは、魔物に転生しているわけだが。


 そうだ。夢で大事なことを思い出した。

 最近、俺は自分の修行ばっかりしてた。

 でも、違うよな。

 俺たちは、パーティーなんだ。

 だから、パーティー全員のベストコンディションを目指さなければ。

 今買える最高の装備と、可能な限りのアイテムを揃えないと!

 それが、俺のプレイスタイルだ。


「さーさん、買い物に行こう!」

「ん?」

 きょとんとした小動物のような顔は、やはり中学の頃から変わっていない。



 ◇



「なーんだ。デートのお誘いだと思ったのに」

「デートみたいなもんだろ?」

「ええー、武器屋はデートじゃ行かないよ! 高月くん」

 ぷんぷんと、口に出すさーさん。

 ちょっと、あざといですねー。


「で、どれがいい?」

 剣や斧や槍。

 王都の武器屋は、マッカレンと比べて武器が豊富だ。

 勇者の名前で領収書を切れば、ローゼス王家が支払ってくれるし。

 素晴らしいね!

 

「うーん……。私、刃物はちょっと……」

と言って難しい顔をするさーさん。

「え?」


 話を聞いてみると。

 元々ファンタジーが好きな俺はともかく。

 日本人の女子高生であるさーさんは、剣とかナイフを振り回すのは抵抗があるらしい。

 まあ、そりゃそうか。

 大迷宮生活の時は止む得なかったが、積極的に刃物を使ってまで魔物を切り殺したいわけでは無いと。

 血が出るし。

 なので、さーさんは基本素手だ。


「でも、忌まわしき巨人みたいに素手じゃ触れない魔物もいるからなぁ」

「そーだよねー」

 はぁー、と二人でため息をつく。


「じゃあ、装備品とかアイテムを見て回ろうか」

「うん、ごめんね。高月くん」

「いいって。無理して苦手な武器持っても意味ないし」


 さーさんは、格闘家用の服を一式と防御魔法効果があるアクセサリ。

 俺は、かさばらない回復アイテムを買い込んだ。

 領収書の支払先は、ローゼス王家だ。



 ◇



「まことさん、あやさんお戻りですか?」

 ローゼス城の部屋に戻る途中、レオナード王子と出会った。

「今日はルーシーさんと一緒に魔法の修行をしてたんです」

「うちのルーシーが迷惑かけませんでした……?」

 今日は一日魔法の修行をするっていうから、気にしてなかったけどローゼス城で魔法を暴走とかさせてないよね?

 ルーシーのファイアボールなら、庭園の花を焼き尽くしそう。


「ははっ……、大丈夫ですよ。ただ、ちょっと魔力酔いしたみたいで、今はお部屋で休んでますよ」

 うーん、頑張りすぎだな。

 あとで様子を見に行こう。


「ところで、お二人は買い物帰りですか?」

「うん、服とかアイテムとかね。いっぱい、買ったよ!」

 さーさん、楽しそうですが支払ってくれるのは目の前の彼(王族)ですからね。


「本当は、武器を見たかったんだけど」

 俺がそう言うと、レオナード王子の顔がぱっと輝いた。

「であれば、王家の宝物庫を見ませんか? 勇者のまことさんとあやさんなら、使っていただいて問題ないですよ」

 マジで!?


「すごーい。見たい見たい」

 さーさんが、ぴょんぴょん跳ねている。

「では、こちらへどうぞ」

 最初からレオナード王子に相談すればよかった!


 俺たちは、王城の地下にある宝物庫へ連れられた。


 ◇


 大きな金属の扉を開き、薄暗い部屋に入った。

 

「なんか……カビっぽいね、この部屋」

「うん……でも武器や鎧の持つ魔力マナが凄まじいよ。どれもこれも、魔法武器ばっかりだ」

 広い石造りの部屋に、一見無造作に並べられている武器も、おそらく家が買えるくらいの金額がするはずだ。


「自由に見ていただて結構ですが、触る前に声をかけてください。特に、鎖や布で厳重に封印されているものは、『呪い』持ちの武器ですから、ご注意を」

「は、はーい」

 さーさん、さっそく触ろうとして!

 俺も気をつけよ。


 しばらく見て回って。


「レオナード王子、この剣は何ですか?」

「そちらは『聖剣アイスソード』です。使ってみますか?」

「こ、これがアイスソード……」

 ねんがんのアイスソードを……、いや止めておこう。


「持ってみてもいいですか?」

「どうぞどうぞ」

 ニコニコとレオナード王子に勧められ、剣を鞘から抜く。


 すらりとした刃は、青白く光美しい。

 これが聖剣か………………重い。


「高月くん、大丈夫?」

「ああ、ありがとう」

 ふらふらしてた俺を支えられる。


「少し……重かったですかね?」

 レオナード王子に苦笑された。

「俺には合わなかったみたいです」

 元の位置に戻した。

 はぁ……アイスソードは、てにいれられなかったよ。

 

「王子、これは何ですか?」

 さーさんが、何か見つけたらしい。

「さーさん、それ金槌?」

 形状は、大工が使うようなものではなく、ピコピコハンマーみたいな形。

 一見銅製のようだけど、ピンクゴールドみたいにも見える。

 さーさん、色で選んだだろ?


「なっ!?」

 レオナード王子が、驚愕の表情を浮かべた。

「どうしました?」

「あ、あやさん! それを片手で持てるんですか?」

「え? 何が?」

 さーさんは、ハンマーをぶんぶん振り回している。

 あれも、魔法武器なんだろうか?


「それちょっと、見せて」

「はーい、ちょっと重いよ」

「ふーん、どれど……うぉぁあああああ!」

 片手でひょいと渡され、受け取った瞬間、地面に引っ張られた。

 な、なんだこれ?


「ま、まことさん! それは『鬼神の槌』。千年前にとある勇者様が使われていたのですが、あまりの重さに千年間使い手のいなかった武器です」

「……重過ぎない?」

 見た目小さいのに、重量が100キロくらいありそうなんですが。


「そちらの武器の本当の姿を見せますね……、えーと、ここを回すと」

 レオナード王子が柄の端をくるくる回すと。


「わー」「おー」

 あっという間に、ハンマーが2メートル以上の馬鹿でかい物体に変わる。

 なるほど、大きさが自由に変えられる系の武器かー。

 これ100キロどころじゃないな。

 さーさん、片手で振り回してたのかよ……。


「へぇー、面白いねー。デザインも可愛いし」

「可愛いかなぁ」

 巨大になったハンマーを、先ほどと同じくぶんぶん振り回している。

 あ、危なっ。


「き、気に入ったのでしたら差し上げますよ。姉さまには、僕から伝えておきます」

 レオナード王子がちょっと、引いている。

 勇者をどん引きさせるって、どうなのよ?


「どーする、さーさん?」

「うん、私これにするね」

 すすっと、ハンマーが小さくなった。


「一番小さいサイズになると、アクセサリーくらいの大きさになって軽くなります。武器として使わない時は、そうやって持ち運んでください」

「はーい」

 へぇ、それはちょっと便利かも。

 ただ、使える人は本当に限られるな。 

 さーさんが、気に入ったようでよかった。



 ◇



「ルーシー、大丈夫?」

「まこと……?」

 さーさんと別れ、自分の魔法の修行をしようかなと思っていると、ふらふらしているルーシーと出会った。

 なんか、いつにも増して服が着崩れてる……。

 肩出しすぎじゃない?


「魔法を使いすぎて、魔力酔いしたって聞いたけど」

「うん……、しばらく寝てたから平気」

 ぽーっとした目で、こちらを見てくる。

 まだ、寝ぼけてるな。 


「ほどほどにな」

「まことは、ずっと修行してるじゃない」

 むー、という顔をされる。


「俺は部屋に戻って修行するけど、ルーシーも来る?」

 ちょっと、ルーシーと話したい事もあったし。

「まことの部屋!? う、うん。行く」

 なんで、そんなに驚くんですか?

 借り物の部屋ですよ。


 ◇


「ルーシー。魔法の修行より先にスキルを覚えない?」

「え、なんで?」

「この前の忌まわしき魔物が出た時、魔法使いはみんな魔法が使えなくなっちゃっただろ? 『明鏡止水』スキルを覚えれば、次に戦う時に役立つと思ってさ」

 てか、これはルーシーだけじゃなくて、王国の魔法使いや冒険者もやったほうがいいよな?

 あとで、ソフィア王女かレオナード王子に相談しようかな。


「まこと……『明鏡止水』スキルってレアスキルよ?」

「え?」

 あれ? そうなの?


「精神安定系のスキルは色々あるけど、まことの持ってるスキルは上位のスキルよ。私が覚えられるとしたら『冷静』スキルかしら」

「そっかぁ。色々あるんだな。あと、俺は『明鏡止水』スキルを一日中使ってるんだけど、集中力が落ちない気がするんだ」

「……一日中使ってるの?」

 変態を見る目で見られた。


「たぶん、それは『集中』スキルと同じ効果だと思うけど……。そっか、スキルを使って修行したほうが効果的なのかしら」

「あんまり意識してなかったけど、そうかも」

 俺は、水の神殿時代にクラスメイトたちがどんどん居なくなって行く不安を抑えるために、スキルを使ってただけなんだけど……。

 思わぬ効果があったのかな。


「うん、でも、まことの言う通りかも。今までがむしゃらに魔法を鍛えようとしてたけど、先に『冷静』や『集中』スキルを覚えてからのほうが、いいかもね! ありがとう、まこと」

「どーいたしまして」

 これで次に忌まわしい魔物が襲ってきても、ルーシーも一緒に戦えるな。


 さーさんは、武器を手に入れたし。

 うん、やれることは色々ありそうだ。


「じゃあ、スキルの練習するか」

「うん!」



 ◇



「……zzz」

「寝ちゃったか」

 しばらくは頑張っていたが、スキルの練習って眠くなるからなぁ。

 俺のベッドで寝てしまったルーシーに布団をかけて、そのまま寝かせた。

 起すのも可哀想だし。


 ルーシーは、気持ち良さそうに寝ている。

 その寝顔をずっと見ているとおかしな気分になりそうだったので、修行に戻る。


「精霊さん、精霊さん」

 俺は、『明鏡止水』スキルをOFFにして精霊魔法を使う。


――ふふっ


 また、声が聞こえる。

 これは、あれか。

 精霊の声なんだろうか?


 俺の精霊魔法は、進歩したんだろうか?


 うーん……わからん……


 部屋の中なのものあって、大きな魔法は使えず。

 

 ……眠い。


 俺もいつしか、ベッドに倒れこんでいた。 

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