57話 高月まことは王女ソフィアと話す
大賢者様の話を聞いて、気が滅入っているのに。
よりによって、あんたかー。
「高月まこと。今よろしいですか」
凜とした、よく通る声。
冷たい湧き水のような清涼感を感じさせる。
そして、相変わらず、愛想の無い冷たい表情だ。
ソフィア王女が、なぜか俺たちのテーブルに来ていた。
護衛の騎士はいるが、さきほどの偉そうな騎士ではない。
「何でしょうか?」
王女を無視するわけにもいかないので、しぶしぶ伺う。
「彼には守護騎士を辞めてもらいました」
最初何を言っているのかわからず、少し間を空けて、あの傲慢な騎士のことだと理解した。
って、え?
あいつクビにしたの?
「大迷宮を救った勇者様を不快にさせた罪です。これで許していただけますか?」
「許すも何も……そもそも俺は勇者じゃありませんが……」
「異世界から来た、勇者のお一人です。ですからあなたには、引き続き
驚いた。
ここまで
俺はただの魔法使い見習いなんだけど。
「ねぇ、ねぇ」
ルーシーが袖をくいくい引っ張る。
わかってるって、変な意地張らないから。
「……俺はマッカレンの街が気に入ってますから、引き続き
それを聞いて、ソフィア王女がほっとした表情を見せた。
が、一瞬で元の表情に戻る。
「何か望みはありますか? 私にできることでしたら……」
おっと、気前がいいな。
ただ、俺は特に望みとか無いけど……。
そうだ、ここはいつも世話になっている友人に譲ろう。
「実は、こちらが俺の親友の藤原くんと言ってですね」
「た、タッキー殿!?」
突然、引っ張られたふじやんが驚いているが、俺の考えは伝わっているはず。
「我々の更なる活躍のため、彼の商売のバックアップをしていただけないかと。彼も異世界から来た勇者の一人ですから。俺の活躍は彼のサポートのおかげなんです」
「……なるほど。具体的に何をすれば?」
ふじやん、無茶振りスマナイ。
ふじやんからは、聞いて無いですぞ、という目で見られる。
が、さすがだ。
何か思い付いたようにしゃべりだした。
「では、
「良いでしょう。私の名で許可証を与えます。のちほど、王都まで取りに来てください」
「「ありがとうございます」」
俺とふじやんは、頭を下げた。
こんなもんでいいかな。
「それでは、またお会いしましょう」
ソフィア王女は、足早に去っていった。
◇
「タッキー殿、急に話を振られるとは思いませんでしたぞ!」
ばしばし叩かれた。
「いやー、ごめんごめん。でも、あんな感じでよかったよね?」
「素晴らしいですな!
おー、ふじやんが悪い顔している。
「た、高月様。恐ろしいことをなさいますネ……」
ニナさんが、引きつった笑みを浮かべている。
「何か変なこと言いました?」
「まこと……、普通は王族に何が欲しいかとか聞かれても、一度遠慮するものよ」
「ご主人様も怖いもの知らずですネ」
なるほど、そういうマナーがあるのか。
「でも、知らん。俺は異世界人だから」
「それにしても、さっきの王女様。随分、高月くんに国に残って欲しいんだね」
さーさんが、ぽつりと言う。
「ああ、それな。あんなに無礼な態度だったのに、よくここまで色々聞き届けてくれたよね」
「おそらく、ソフィア王女も
「……」
ふじやんが言うなら間違いないな。
どうやら、ソフィア王女は心の中ではブチ切れてたらしい。
「ソフィア王女が
へえ、そうなんだ。
「それって、俺たちのクラスメイトも入ってる?」
「そうですな。どうやら、水の国の王宮暮らしが肌に合わなかったみたいですな」
「おかげで、ソフィア王女は人を見る目が無いと噂されてるのですヨ。かたや、ノエル王女のところには優秀な人材が豊富に集まっている」
ほうほう、それは不名誉な噂だ。
「だから一度は見限った魔法使い見習いまで必死で引き止めているわけか」
「結果としては、マッカレンを追い出されなかったんだから良かったじゃない!」
そうだな。
ルーシーの言う通りだ。
「じゃあ、帰るか。マッカレンに」
「うん!」
帰って大将の串焼きを食べたい。
こうして、俺たちの大迷宮へ挑む冒険は終わった。
しかし、心は晴れない。
大賢者様に言われた言葉。
女神様への疑惑が、残っている。
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