34話 高月まことはミノタウロスと戦う
ミノタウロスの身の丈は5メートルほど。
いつかの
手に持った大斧には、てらてらと血で濡れている。
悲鳴の主は、逃げ切れたのだろうか……。
「ま、まこと。だ、大丈夫かな?」
ルーシーは早くもびびっている。
「折角だから、強くなった精霊魔法を試そう」
短剣を構え、
RPGプレイヤー視点では、周りを青い光が無数に漂っている。
うん、いっぱい
「こんにちは、精霊さん」と呼びかける。
大迷宮の精霊たちは、会って間もない。
印象を良くするには、挨拶を元気よくしないと。
「ちょっと、遊ばない?」ざわっと、精霊たちの興味が俺に集まるのを感じる。
大迷宮の精霊は、ノリが良さそうだ。
「ね、ねえ! もうミノタウロスがすぐ近くにいるわよ! 岩石弾!」
焦った声でルーシーが魔法を放った。
杖から発射された岩石が、ミノタウロスへ迫る。
猛スピードの岩石はミノタウロスを直撃して、砕け散った。
ただ、あまり効果はなさそうだ。
「う、うそ」
ルーシーがつぶやくが、いつもの隕石落としよりはるかに小さい岩だった。
手加減し過ぎたな。
「グォォォオオオオオ!」
ミノタウロスが怒りの声をあげ、斧を振り上げ飛びかかってくる。
あと数秒で、大斧に頭をかち割られるかもしれない。
「ねぇ! まことぉ!」
ルーシーは涙目だ。
そろそろいいかな。
「水魔法・大水牢」
「グォ?」
俺の足元を中心に、水が吹き上がる。
あっという間に通路中が水に満たされ、ミノタウロスと
「ん~~! んんっ~~!」
あ、しまった。
ルーシーは『水魔法・水中呼吸』が出来ないんだった。
慌てて、手をつなぐ。
これで、魔法の効果が連動するはずだ。
「グオ! ゴボッ! ガボッ!」
ミノタウロスが、水牢から逃れようともがいている。
まあ、無理だろうけどね。
(水魔法・水流)
「ほい、ほい」
指をくるくる回す。
洗濯機のように、渦を作ってミノタウロスはきりもみ回転した。
巨大な牛の魔物は、目を回してそのまま静かになった。
呼び出した水を捌けさせて、精霊にお礼を言う。
「はぁ、はぁ、……」
ルーシーは、息絶え絶えだ。
いくら水中呼吸の魔法を使っていても、急に水の中はびっくりさせたか。
「わ、悪い。大丈夫?」
「大丈夫……、ねえ、凄いじゃない! さっきの上級魔法でしょ?」
「ああ、うまくいったな」
「どうしたのよ! 上級魔法が使えるようになったの?」
「違うよ、あれは精霊に手伝ってもらったんだ。精霊は無限の
おかげでさっきは、俺もルーシーも巻き込まれてしまった。
「ところでこいつをどうしようかね」
倒したミノタウロスを見下ろす。
折角倒した、大物なのだが。
「運べないわよね」
「こういう時に、収納魔法が欲しいな」
ふじやんがいないのが悔やまれる。
「おーい、おまえら。ミノタウロスを倒したのか!」
「た、助かった……」
「ありがとう、ありがとう!」
なんだかボロボロの冒険者が出てきた。
さっきの悲鳴の人かな。
聞くところによると、ミノタウロスから逃げる途中、ルーシーを見てミノタウロスはターゲットを変えたらしい。
赤色に反応したんだろうか?
「ルーシー、本当に魔物に好かれるな」
「全然、うれしく無いんだけど……」
「なあ、この魔物を運ぶので困ってるなら手伝うよ」
おお! それは助かるな。
ついでに、色々と迷宮のことを教わりながら帰路についた。
「じゃあ、みなさんは大迷宮に来て半年経つんですね」
「ああ、俺たちはアイアンランクに成り立てだから、上層でじっくり修行をしてるんだ」
「でも、最近は魔物が活発化してなぁ」
「ああ、すこし様子が変だよな」
「噂によると、下層には忌龍が現われたとか」
「忌龍?」
「忌まわしき龍。千年前に大魔王が従えてた邪龍よ。身体から瘴気を放ち、口から呪いを吐く。近づくものは命を吸い取られるとか。本当に出たの?」
ルーシーが説明してくれた。
「俺たちみたいな、中級冒険者には関係ない話だからな。詳しくは知らないよ」
「しかし、きみらは凄いな。たった二人でミノタウロスをあっさり倒してしまって」
「シルバーランクか? まさか、その若さでゴールドとか?」
「いえいえ、俺たちもアイアンランクですよ」
「へぇ! そりゃ将来有望だな!」
わいわい話しながら、出口まで戻った。
入り口のギルド職員に戻ったことを伝え、魔物を引き渡す。
倒した獲物の査定結果は、あとでギルドで教えてもらえるらしい。
それより、気になることが。
「なんか、騒がしいな」
「何かあったのかしら」
「ああ、なんでも
ギルドの人が教えてくれた。
「へぇ、太陽の国ってことは
「やっぱり忌龍討伐かな」
「しかし、冒険者の町に軍がでしゃばるってのは、どうなんだ?」
「しかも、他国のな」
一緒にいた冒険者の人たちも気になるらしい。
「見に行くか」
「行きましょう!」
俺たちはぞろぞろと、町の入り口へ向かった。
◇
「これが太陽の騎士団か……」
町の入り口付近の森が伐採され、軍の駐屯地になっていた。
数多くのテントが張られている。
その周りには、軍馬と飛龍が少し離れて繋がれていた。
騎士団と呼ばれているが、騎士、戦士、弓士、魔法使い、僧侶、その他様々な職業がいる巨大なパーティーのようだ。
彼らの胸には、大きな太陽とフェニックスの紋章が輝いている。
皆、強そうだ。
冒険者の町の人々も気になるようで、見物客はどんどん増えている。
「キャー! 見て光の勇者様よ!」
「ああ、凛々しい……」
女の冒険者から声が上がる。
「凄い! あれが光の勇者! 初めてみたわ!」
ルーシーまで一緒にはしゃいでいる。
なんだかなぁ。
そこにいたのは、1年半ほど前に別れたクラスメイトの桜井くんだった。
隣には、同じくクラスメイトの横山さんがいる。
あれ? もう一人いなかったっけ?
二人とも、周りの人たちと比べて着ているものが数段立派で、高価そうだ。
チートステータスとスキルを貰って、順調そうだね。
別に、羨ましくはないからな。
女神様、まさか良い出会いってこれじゃないですよね。
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