24話 巨人の昔話

「待ちなさい!」


 美しい声が響く。

 声の主は、女神様の声だった。

 ただ、いつものように頭の中に響く声でなく、直接耳から聞こえた。

 何より驚いたのが。


「……この御声、ノアお嬢様ですか?」

 どうやら、巨人にも聞こえているらしい。

 ずっと無表情だった巨人が驚いている。

 俺を掴んだ、巨人の手に締め付けられる。

 く、苦しい。


「じい、やめなさい。その子は私の信者よ」

「……おお。……そうであったか。……すまなかったな」

 いきなり手を離された。

 空中に持ち上げられた状態で。

 当然、俺は数メートルを落下するわけで。


「痛て」

 無様に尻餅をついた。

 まあ、しかし。

 そんなことは大した問題じゃない。


「女神様」

 ふらふらと立ち上がり、呼びかける。


「ふふっ。感謝しなさい、まこと。私の信者でよかったわね」

「えーと、これは一体」

「……我々、タイタン族はティターン神族に仕えている。ノアお嬢様の信者であれば、我の家族も同然だ」

「……そ、そうですか」

 急な話でついていけていないが、この巨人のおっさんは、タイタン族という種族で女神様の仲間らしい。

 なので、女神様の一言で巨人はおとなしくなったようだ。 


 とはいえ、もっと早く助けて欲しかった。

 いつもなら、すぐ口出しはしてくるのに。


「女神様、ありがとうございます」

 しかし、まずは感謝しよう。

 マジで、死んだかと思ったよ。


「まこともびびりねー。タイタン族は、大地から生った物しか食べないわよ。人間なんて食べるわけないじゃない」

「え? そうなんですか」

「……うむ。……我は肉は食わんな」


 巨人は菜食主義者ベジタリアンだった!

 だったら、こっちを見て腹減ったとか言わないで欲しい。

 寿命が縮むって。


「でも、ニナさんを吹っ飛ばしたのはなぜです?」

「……急に攻撃してきたので、驚いてな。……軽く押したつもりだったのだが」

 それであの威力か。

 シルバーランクが、反応できずに一撃でダウンしていた。

 この巨人のおっさんは、相当規格外だ。

 

「あー、まこと、じい。私は時間切れみたい。じゃあ、あとはよろしくね」

 女神様は、そういい残して声が聞こえなくなった。

 何をどうしろっていうんだ。

 巨人のおっさんは、何かうなずいている。



「おーい、タッキー殿!」

「ちょっと! 巨人! まことから離れなさい」


 あれ?

 逃げたはずのふじやんや、ルーシーが戻ってきた。

 逃げろって行ったんだけどな。


「た、高月様!? その短剣で巨人の指を落としたのですか!」

 ニナさんが驚愕の声を上げている。

 あ、そーいえば。


「えーと、スイマセン。指を切ってしまって……。これってくっつけたりできますか?」

「……かまわん。……1万年もすれば生えてくる」

「そ、それは、よかった」

 気の長い話だが、どうやら許してくれるようだ。


「「「……」」」

 巨人と普通に会話する俺に、みんなが固まる。

 

「みんな大丈夫。この巨人は仲間だったよ」


 ◇


 驚くみんなに、女神様と巨人のおっさんの関係を説明した。


「なんと、このかたはタッキー殿の信仰する女神様のお仲間でしたか」

「ちょっと、まこと。私聞いてないんだけど、まことが邪神の信者なんて!」

「る、ルーシー様? そのように目の前で言うのは……」

 みんな驚いている。


「……我々タイタン族は、ティターン神族の守護者だ。……しかし、我らが主が戦争に負け、我々を含む巨神族が主をお助けするために神界に挑んだ」

「ギガントマキアですネ」

「なるほど、聖神様と戦った神族だったので邪悪な、と表現されたんですな」


 神話の話じゃん。

 このおっさん、いつから生きてるんだ。


「……石化の封印をされたのは、1500万年ほど前だ」

 心、読まれた。

 怖い。

 あと、長生き過ぎて想像がつかん。


「そういえば、空腹と言ってましたよね?」

 話題を変えよう。

 うしろでルーシーがびくっってなってる。

 大丈夫だよ、このおっさんは野菜しか食べないらしいから。


「ふじやん、パンとか果物ってないかな?」

「お、おお。ありますぞ」

 収納魔法で、適当に食べ物を出してもらう。

 

「……おお、懐かしい。……再び、大地の恵みを口にすることができるとは」

 巨人のおっさんは、パンやら林檎を嬉しそうに食べている。

 ワインをふじやんが渡すとそれも、美味そうに飲んでいた。


「……礼をせねばならんな」

 身体のサイズからすると、まだ食べ足りないんじゃないかと思ったが、満足したらしい。

 巨人がこちらを見下ろす。


「……獣族の娘よ。……先ほどはすまなかったな」

「い、いえ! 先に攻撃したのは私ですかラ!」

 ニナさんが慌てている。

 

「……そなたには大地の巨神の加護を」

「え?」

 ぽわっと、ニナさんが一瞬光に包まれる。


「ぉおお、何やら力が沸いてきますネ……」

 ニナさんが、自分の身体をきょろきょろ見ている。

「どれどれ……よっ!」

 ニナさんが、近くにある岩を軽く蹴った。


 ずぉぉお! とニナさんに蹴られた岩が、一瞬で大岩に姿を変え、周りの木々をなぎ倒しながら進んでいった。


「うわー、凄い」

「どうやったのですかな? ニナ殿」

「い、いや。ちょっと、試してみるつもりだったのですが。これは凄いですね」

 ぶんぶんと、回し蹴りを空中で放っている。

 空中でよく3回転もできるなー。

 あ、着地と同時に地面にクレーターができた。

 ニナさんが、自分の足技でびっくりしているようだ。


「……次は、食べ物を捧げてくれたそなたか」

 大きな眼がふじやんの方を向く。


「それでしたら、巨神様! その切られた指をいただけませんか?」

 ふじやんは、俺が切り落とした巨人の指が良いらしい。

 ルーシーとニナさんは、微妙な表情をしている。

 「趣味悪っ」とか思っているのだろうか。


「……そんなものでよいなら、やろう」

「感謝しますぞ!」

 ふじやんが意味のないものをもらうはずないから、多分理由があるのだろう。

 大事そうにかかえて、収納魔法に収めている。


「……次は、エルフの娘か」

「……は、はい」

 ルーシーが緊張した面持ちで俺の服の袖を掴む。

 まだ、少し怖いようだ。


「……そなた、魔法をコントロールできておらんな」

「わ、わかるの?」

「……その、暴風のような魔力をみればな」

 やっぱり、暴風なんだな。

 同調した時のことを思い出す。


「……杖を貸すがよい」

「これ?」

 ルーシーがいつも使っている木の杖を巨人に渡す。

 折れたりしないかね


 巨人は、自分の髪を一本引き抜くと杖に絡み付けた。

 巨人の髪は、一瞬で光の文字のようになり杖に吸い込まれた。


「……返そう。……これで土魔法が使いやすくなるはずだ」

「へ、へぇ」


 杖を受け取ったルーシーが恐る恐る、呪文を唱えはじめう。

「土魔法・岩弾」

 さっきのニナさんに負けないくらいの、大岩が杖から飛び出し。

「うひゃぁ」

 ニナさんのすぐ近くを通り過ぎて言った。

「ご、ごめんなさい!」

 ノーコンは直らないか。

 しかし、修行の時は一向に成功しなかった土魔法があっさり発動した。

 なかなか良いアイテムを貰ったのでは。


「ふわぁぁぁ……」

 ルーシーは、わなわな震えながら杖を見つめている。

 感動してるみたいだ。


「……さて、以上か」

「え?」

 ちょっと、俺は!?


「ちょっと! まことが一番大変だったでしょ!」

 ルーシーも一緒に怒ってくれた。


「……ノアお嬢様の加護を得て、神器までもらい、まだ望むか。……過ぎた欲望は身を滅ぼすが……」

 うーむ、そこまで言われると。

 現状で、満足しろということか。


「……助けが必要なときにノアお嬢様を通じて呼ぶとよい。一度だけ、助けよう」

 おお! お助けキャラってことか。

 今後、何かに困ったら助けてもらおう。



 願いを言う

 今は言わない←



 お。選択肢は久しぶりだな『RPGプレイヤー』スキル。

 今すぐ願いとか、無いけど

 いや、一個あったな。 



「ノア様を海底神殿から助けることはできませんか?」

「……それはできぬ。……ノアお嬢様が力を取り戻すには、信者が海底神殿までたどり着く必要がある。……我がお助けしても力は戻らぬ」

 なんか、決まりがあるらしい。

 女神様、俺その話聞いてませんよ?


 ここで巨人のおっさんんが、軽く笑った。

「……自分の望みより、主のことを願うとは良い心がけだ」

 褒められた。

 選択肢は正解だったらしい。


「……ひとつ助言しよう」

「助言ですか」

「……キサマの精霊語。あれは神の言葉だ。やめよ」

 え、ええ……。

 精霊語をやめると、精霊魔法使えないんですが。


「……精霊語はティターン神族が使ってこそ意味がある。ヒトの身で精霊の力を使いたいのであれば、精霊を見て、精霊と会話し、精霊と親しくなれ」

「見えないんですけど」

 それができれば苦労しない。


「……見よ」

 頭を鷲掴みにされた。

 身体に変な魔力が流れてくる。

 これ、『同調』か?


「え?」

 

 目の前に、光の濁流があった。

 緑、青、黄、白、さまざまな光に取り囲まれている。

 東京では見たこと無いが、何千匹の蛍に取り囲まれたらこんな感じなのだろうか?


 光が消える。

 巨人の手が離れていた。


「……見えたか?」

「は、はい」

 見えた。

 あれが、精霊か。

 凄い数だった。


「……才能が無いものには、見えぬ。……そなたは精霊に好かれているようだ」

「……精霊語は、ティターン神族から精霊への命令だ。……精霊は命令されることを好まぬ」

「……精霊を見て、話し、親しくなれ」

「……精進せよ」 


「ありがとうございます」

 色々ためになることを教えてもらった。


「……では、さらばだ」

 

 巨人は地面の中に消えていった。

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