レインベル
鹿苑寺と慈照寺
プロローグ
煌々と光を放つ都会のビル群に囲まれた会場には大勢の観客が押し掛けていた。
僕は大切に握り締めたチケットに記載された座席番号を確認し、席へと急ぐ。自分の座席を探し出し、ふうっとため息をつく。緊張感が拭えず、落ち着かなかった。まだ時間はたっぷりとあるのに。
陽が沈み、鈴虫が鳴いていた。
僕はただ鈴虫が奏でる音色に耳を傾けていた。彼らと出会ってからの約7年間が走馬灯のように思い出された。終わりという事実がまだ信じられずにいた。
ステージの照明がふっと消え、会場が静まり返る。そして、またステージが明るくなり、3人の男性が姿を現す。
相変わらず鈴虫が鳴いていた。心臓の音と鈴虫の鳴き声の波長が合わず、居心地が悪かった。
最後が始まる。その事実が会場を包む空気で伝わってきた。
1曲目の演奏が始まった瞬間、鈴虫の鳴き声は掻き消され、会場が震えた。
※
夜の12時になり、僕は布団にくるまった。充電中のスマートフォンからradikoのアプリを起動する。自分でも驚くほどごく自然だった。
しかし、定刻になっても、彼の落ち着いた、それでいて説得力のある声は聞こえず、見知らぬ女性の妙にテンションの高い声が聞こえてきた。
その場所に集えばいつでも、僕にははるか遠い存在の彼が僕の一番近くでそっと語りかけてくれた。永遠なんてないんだと、このとき改めて実感した。
そうだ、もう終わったんだ。
彼の声がもう聞こえるはずはなかった。握り締めたスマートフォンをそっと枕元に置き、眠りについた。
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