Sicilian Kiss

「やっと二人きりになれた」


 カチャリという音のあとで泪が溜息混じりでそう言うと、いきなり首筋に顔を埋めて耳を噛まれ、舐められる。


「ん……、あ……っ」


 抱きしめていたはずの泪の手はいつの間にか私の胸を掴み、円を描くように回しながら揉んでいた。


「あん……、や、あ……」

「しばらく堪能させてちょうだい」


 そう言ってしばらく無言で胸を揉んでいたのだけれど、突然手を止めて私を抱き上げると、奥の部屋に連れて行かれた。泪はそのままベッドに腰を下ろすと、横抱きのまま膝に乗せられた。


「ねぇ……お圭ちゃん」

「なんですか?」


 再び胸を揉まれはじめ、唇にチュッ、とキスを落とされる。


「敬語になってるし……。お仕置きはあとでするとして……」

「お仕置き?! 緊張してたんだから仕方ないじゃない……、あんっ、んんっ」

「確かにそうよね」


 顎を持ち上げられて口を塞がれ、キスをされる。服の上から胸を揉んでいたはずの泪の手はいつの間にか服の中に入り込み、じかに触っていた。


「あ……っ」

「御節、ホントににいいの? 無理しなくてもいいのよ?」

「あ……っ、どのみち作るつもりでいたし……んっ、泪さんに食べてほしかった、から……ひゃぁっ!」

「そんな可愛いこと言って……。御節より先に、お圭ちゃんを食べちゃうわよ?」


 服を捲り上げた泪に胸を舐められた時だった。コンコン、とドアをノックする音がしたかと思うと「泪ー、開けてー」と瑠香の声がした。


「ったく……これだから実家はヤなのよ……。でも、もうちょっとだけ」


 そう言って両方の胸を吸われたあとで開放された。


(は……恥ずかしい……!)


 瑠香がいることを思い出し、慌てて服を直してベッドから立ち上がる。


「姉さん! 恋人同士の語らいを邪魔しないでちょうだい!」


 一足先に行っていた泪が叫び、ドアを開けると瑠香と瑠璃が大量の紙袋を持って立っていた。


「る、瑠香さん、瑠璃さん、その紙袋は……?」

「「んふふ♪」」

「あ、あの……?」


 質問しても二人は笑うだけで、何も答えてくれない。


「泪、お圭ちゃんを借りてくわね」

「は? え?」

「やっと二人きりになれたのに……」


 ブツブツ言う泪に「いってらっしゃい」と背中を押されて部屋から出され、瑠香と瑠璃に両腕を掴まれる。泪を振り返りと、「あとで迎えに行くから」と言われてしまった。わけがわからないままに、二人にズルズルと引きずられるように別の場所に連れて行かれた。

 連れて来られたのは瑠香の部屋で、大量の紙袋を下ろすと中身を取り出し始めた。


「遅くなっちゃったけど、アタシとかよちゃんと麻ちゃんからの、クリスマス・プレゼントと婚約祝いよ♪」

「えっ?! で、でも、これ……」

「もちろん、例のオーダーメイドの下着もあるから」


 遅くなってごめんなさいねと言う瑠香に、そういえばサイズを計られたんだっけと今更ながら思い出す。


「で、私からはコレ」


 瑠璃からはビロードの細長い箱を差し出され、焦る。私は何も用意していないから、気が引けるのだ。


「え? で、でも……」

「いいから、開けてみて」


 そう言われてしぶしぶ箱を開けると、縦に無色、薄茶、ブルーの順に三連に並んだペンダントが入っていた。


「――っ!」

「あら、素敵!」

「でしょう? お圭ちゃんのイメージで作ったの。私もお圭ちゃんて呼んでいいわよね?」


 ペンダントのあまりの凄さに言葉も出ないまま、瑠璃の言葉に首を縦に振る。


「一番上はダイヤモンドってわかるけど、他の二色は?」

「うふふ……。実はこれ、全部ダイヤモンドなのよ♪ カラーダイヤって言って、真ん中はブラウン、下はブルーなの」

「あら、ブルーなんてよく手に入ったわね」

「知り合いに小さな欠片を一粒もらっただけよ」

「こ、こんな高価なもの、いただません! いただく理由もないです!」


 二人の会話に恐ろしくなる。ダイヤモンドなんて高価なものはもらえない。恐る恐るパタンと箱の蓋を閉め、震える手で瑠璃に突き返すと「理由ならあるわよ」と言われた。


「あの日、お圭ちゃんたちが帰ったあとで、お圭ちゃんに教えてもらった守護石の話を店の皆にしたの」


 瑠璃曰く、私から聞いた守護石の話を従業員にしたところ、やはり守護石というものを知らなかったらしい。誕生石意外の宝石で、しかも『自分を守る』と言われる守護石と聞いたなら、デザイン次第ではお客様は買うのではないか――。

 そう考えた従業員たちはきちんとしたデザインは後日売り出そうと考えたそうだ。クリスマスだからということで、とりあえずは各星座の守護石を嵌め込んだ十字架クロスのペンダントトップを徹夜で仕上げ、店頭に並べたらしい。


「実はこれが大当たりでね。『違うデザインはないのか』『指輪はないのか』と問い合わせがすごくて」


 結局、出来上がったら後日ダイレクトメールを出すからと話を付け、とりあえずはということでそのペンダントトップを買って行ったと言う。


「だから、従業員からのお礼と言うか、アイデア料だと思って受け取って。ね?」

「で、ですが……」

「いいから受け取っておきなさいな」


 本当にいいのだろうかと二人を見るけれど、二人は笑顔で頷いている。だから私も覚悟を決めた。


「瑠香さん……はい。瑠璃さん、ありがとうございます。皆さんにもよろしくお伝え下さい」

「はーい」


 ニコニコ顔の二人に根負けした形で、箱をそっと抱き締めながらお礼を言うと「可愛い!」と言われ、両側から二人に抱き締められた。


「さて、次はアタシよ♪ さあお圭ちゃん、脱いで♪」

「え? え?」

「もちろん、上半身裸よ?」

「あ、あの……」


 既視感デジャビュを感じつつも脱ぐ……脱ぐってなに?! と慌てる。

 だから脱ぐことを躊躇い、ぼんやりとしている間に二人がかりで上半身裸にされてしまい、着せ替え人形の如くオーダーメイドのブラをとっかえひっかえ付けられて行く。

 最後のほうに出てきたランジェリーを見て、「無理です! 恥ずかしい!」と拒否したけれど「泪は絶対に喜ぶから」と二人に押しきられ、泪が喜んでくれるならと結局着用の仕方を教わり、他の下着と一緒に紙袋に入れた。


 服を着たころに泪が迎えに来て、歩きながら瑠璃にペンダントをもらったことと、瑠香に服をもらったことを話終えたあたりで泪の部屋に着いてしまった。そのまま部屋に押し込まれたかと思うと、最初に部屋に来た時と同じように「カチャリ」という音と共に胸を掴まれて揉まれ、抱き上げられると先ほどとは違う場所に移動し、さらに奥の部屋に連れて行かれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る