2001年7月16日(月)

 昼休み。

 天ヶ瀬くんが、地下室への階段らしき場所を知っている、というのでみんなで行ってみた。

 すると確かに、それらしき階段と扉がそこにはあった。


 安愚楽くんはそれを見て大はしゃぎ。

 そして――私も、気持ちが高揚してしまった。

 だって、面白そうじゃない。過去に殺人が行われた場所が、学校の地下にあるかも、なんて。わくわくしたわ。


「このドア、なんとか開かないかしら。興味深いわ。安愚楽くんの言う通り、本当にそんな病院が、地下室がここにあるのなら……」


 私はそう言って、扉を触ったり、なんとか開かないか叩いたりしてみた。

 だけど、当たり前だけど扉は開かない。残念。


 ――そのときの集まりは、そこでおしまい。

 だけど私は、どうしても地下室のことが気になったから、教室に戻る途中、


「調べてみようかしら」


 と、言った。

 隣にいたのは、若菜だ。

 彼女は、羨ましいほど澄んだ双眸をこちらに向けて、問うてきた。


「調べるって、なにを?」


「あの地下室のことよ。本当に、あの地下が病院の跡地だというのなら、なにか手がかりが残っているはずだもの」


「手がかりって……。まあそうかもしんないけど、でも、どうやって調べるの?」


「地元の話だから、図書館の郷土資料コーナーに行くのが一番でしょうね」


 うちの学校の図書室は、前述の通り、品揃えが悪い。

 学校のこととはいえ、資料の量や質が期待できないのだ。


「今日は月曜日だから、図書館は閉まっているわね。明日、行ってみることにするわ。……どう? 若菜もいっしょに調べる?」


 私は、ちょっとイタズラっぽく聞いてみた。

 天ヶ瀬くんを巡るライバルへの競争心が、働かなかったといえば、たぶん嘘になる。

 若菜を少し怖がらせてやりたい……。なんて、そのときは思ってしまったのだ。嫌な女ね、私。


「わっ、わたし? う、ううん、そうだね~……」


 若菜は案の定、困った顔を見せる。

 その表情が愛らしくて、また軽く嫉妬。

 それにしてもこれだけ可愛い子が幼馴染だなんて、天ヶ瀬くんはなんていうか、幸せね。まるでマンガじゃないの。


 若菜があんまり困っているので、私も反省し、ごめんなさい、って謝ろうとした。

 だけど、そのときだ。


「うん、それならわたしも調べるよ。あんまり役に立たないかもしれないけど」


 若菜は、そう言ってうなずいたのだ。

 ちょっと意外。彼女がこういうことに興味を示すとは思わなかった。

 とはいえ、誘ったのは私だし、断る理由はない。これを機会に若菜もホラーとかサスペンスを好きになってくれたらいいな、とも思った。そうしたら、いっしょにホラー映画だって観にいけるものね。


「OK。それじゃ明日の放課後にでも」


 私はそう言った。

 若菜は、笑みを浮かべて首肯する。


「うん、それじゃ、そういうことで。……あ、ところで佑ちゃんたちはどうする? 誘う?」


 また、佑ちゃん、佑ちゃん、だ。

 気付いているのかしら。若菜はなにかあるごとに彼の名前を口に出している。

 天ヶ瀬くんだって、なにかあったら若菜、若菜って……。


 本当、妬けちゃう。

 心が苦しい。


 私はやっぱり、このとき、少し嫉妬していた。

 天ヶ瀬くんを誘って、3人で図書館に行って……。

 そして若菜とふたりで、また目の前でイチャイチャされたら――たまらないもの。


 だから、こう言った。


「やめときましょ。天ヶ瀬くんと長谷川くんは調べものなんてする柄じゃないし、キキラはこの話、怖がっているみたいだから。私たちふたりで調べて、面白い結果が出たらみんなに報告したらいいわ」


 その言葉に、若菜はあっさり納得したらしく、


「そっかあ、そうだね。じゃあ、まずはわたしたちだけで図書館へゴーゴー、だねっ!」


 ニコニコ顔。

 無邪気にうなずいた。


 こんな爛漫な友達を前にして、私は、自分の心の醜さに自己嫌悪する。

 若菜の純粋さに比べて、自分ときたら。……こんな私じゃ、天ヶ瀬くんが好きになってくれないのも当然よね。

 恋心が苦しい。――こんな気持ちになるのなら、最初から好きにならなければいいのに。




 それからしばらく眠れなかったので、パソコンをつけてインターネットをしてみた。

 これって本当に便利。検索エンジンを使って調べものをしたら、知らなかったことが次々と分かるようになる。まさに文明の利器ね。


 そこで私は、M高校の地下について、軽く調べてみた。

 すると、私の知らなかったことが次々と出てきて――正直それは、予想をはるかに超える真実だった。


 いまでも少し混乱している。

 まさかM高校の地下で、そんなことが起きていたなんて。


 まだ分からない。

 ネットはいい加減な情報も多いというから。

 明日、若菜と図書館に行って調査をして、先ほどネットで調べたことが事実かどうか、きちんと確認しよう。




 だって、信じられる?

 M高校の地下で、過去に3回も殺人事件が起きていたなんて。

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