2001年7月15日(日) 前半
いろいろあった1日だった。
楽しいことも、ちょっと不気味だったことも、両方あった。
だがとりあえず、楽しいことから記してみよう。
そう、今日は予定通り、海に行った。これは文句なく楽しかった!
高校の裏にある砂浜に行ったんだけど、ここは海はキレイだし人もいないし、ほとんど俺ら5人のプライベートビーチ状態。こんなところにあるんだから、外の人はまだともかくうちの学校の生徒はもっと海水浴に来てもよさそうなもんだが、奇妙なくらい人の姿は見えなかった。まあおかげで俺たちは海を存分に楽しめたわけだが。
女子3人の水着は――
日記だからぶっちゃけてしまおう。スミマセン、最高っした。
みなもは清楚感溢れる白いワンピースに、長い黒髪がよく映えていて、その上、このカンカン照りが続く真夏だっていうのに真っ白な肌が麗しい。すらっとした長い脚に、高い腰の位置も素晴らしかったし、それと胸も……げふげふ。――歩くたびに上下左右に揺れていて、やばかったです。どうしたらあんな身体になるのかな。やっぱり社長令嬢は、食ってるもんが違うのかな。
キキラはどこで買ったんだっていうくらい、際どいビキニを着用していた。ピンクの上下で、みなもとは対照的なスレンダーボディを惜しげもなく披露していた。肉体的にはごく普通だと思うけど、ポイントは日焼けアトである。ふだん短いスカートを履いてウロウロしているためか、二の腕とふとももが浅黒く日焼けしていて、そのくせ水着周り、つまり肩とか、おへそとか、股ぐらのあたりとかは、みなもに負けないぐらい真っ白で――そのコントラストが、そそりました。ウェッヘッヘ。
「天ヶ瀬、アンタ、目がエロいよ? なに? うちの水着姿を見て、惚れちった?」
こちらを挑発するみたいに、ニヤニヤと笑うキキラ。
惚れてはいないが、見惚れてはいた。だがそんなことを口にするわけにもいかない俺は、あえて強気に返したのだ。
「ハッ、馬鹿を言うんじゃねえよ。そんなペチャパイボディをエロ目で見るほど落ちぶれちゃいねえなあ。俺はもっとこう、ぼん、きゅっ、ぼーん! なスタイルの女が好きだね」
「うわーっ、オヤジ臭い発言。なによ、 ぼん、きゅっ、ぼーんって。マジキモい。天ヶ瀬、アンタ、こういう言葉を知らないワケ? でかけりゃいいってもんじゃない――」
「いいや、でかいほうがいいね! キキラ、お前こそこういう言葉を知らんのか? 大きいことはいいことだー♪」
「知らねえし、そんな言葉! ……ふん、つまり天ヶ瀬はあれだ、みなもっちみたいな身体が大好物なワケ……?」
ちょっと、へこんだみたいにキキラが言った。
俺は、少し離れたところにいるみなもの、大人びた水着姿を見つめながら、ヒソヒソ声で告げる。
「あれは規格外だ。参考にするな」
「……うん、まあ、そう言ってくれるとホッとするよ。ヤバいよね、あのスタイル」
「普段からスタイルいいな、とは思っていたけど……想像以上に着やせするタイプだった」
「神様って不公平だわ。あれだけ金持ちで美人でスタイルもいいなんて……。みなもっち、マジ無敵……」
と、ふたりして会話をしていると、背後から、
「……佑ちゃん。佑ちゃんも、みなもちゃんみたいな感じのが、好き……?」
と、若菜の声が聞こえた。
キキラとふたりで振り返ると、そこには、スクール水着姿の若菜が立っていたのだ。
うちの高校にはプール授業がないから、スク水といえば基本的に中学時代のそれとなる。
「みなもちゃん、すごいスタイルいいし。キキラちゃんもすごい可愛い水着だよね。わたし、なんか恥ずかしいよ。こんな水着で来ちゃって……ううう……」
「そ、そんなことねえって」
俺は慌ててフォローした。
「水着だって買うとけっこうかかるしさ。中学時代の水着がまだ使えるなら、そのままでいいと思うぞ、うん」
「っていうか、若菜、アンタ、マニア受け狙いすぎっしょ……」
「ま、マニア受け?」
若菜は小首をかしげる。
俺はキキラの背中を軽く小突いた。いて、とキキラは小さくうめくが……知ったことか。お前はいらんこと言うな。純朴な少女をえげつない世界に誘い込むな。
「っていうかさ、どうせ俺らしかいない海水浴なんだ。細かいこと気にすんなって。少なくとも俺は気にしてねえよ。若菜が楽しけりゃ、それでいいのさ!」
これは本心だった。
キキラも「ま、天ヶ瀬の言う通り、ウチらだけだしね~」と優しげに言ったので、若菜も自身のスク水を気にすることはやめて、うん、うん、と何度もなついてくる犬のように笑顔でうなずいたのだった。
それから俺らは遊びまくった。
砂浜にお城を作ってみたり、海をひたすら泳いでみたり、長谷川(そうこいつ、最初からちゃんといたのだ。どうでもいいからここまで登場させてなかったけど)が持ってきたスイカを使ってスイカ割りをしたり、若菜が作ってきたサンドイッチをパクついたり、みなもが持ってきたデジカメで写真撮りまくったり。
今日知ったけど、みなもって、けっこうハイテクなのが好きなんだよ。
家には新しいパソコンがあって、インターネットもバリバリやってるらしい。
学校の授業でパソコンは少しやったけど、正直俺はよく分からない。今度、みなもの家でパソコンやらせてくれよって頼んだら「いいわよ」ってOKしてくれた。これは本気で楽しみだな。
で……。
ここまでは楽しい話。
ここからはちょっと不気味な話だ。
「やあ、天ヶ瀬くん。御堂さんたちも。……こんなところでなにをしてるの?」
昼下がり。
一通り遊び終わって、ちょっと休憩ってモードになった俺たちの前に、男が登場したのだ。
それは
そのカナリア好きの質問に対して、俺は、
「見りゃ分かるだろ。海水浴だよ」
と、ぶっきらぼうに返した。
というのも俺は、クラスの男子の中でも、安愚楽とはふだん、特に距離を置いていたからだ。
別になにか悪いことをされたわけじゃない。むしろ安愚楽は初めて話したときから俺に好意的だったと思う。いつもニコニコ笑っていて、穏やかな口ぶりで、俺の言うことにすべてタイミングよく相槌を打ってくれた。まだ俺ら5人が完璧なグループになっていない春先のころは、いっしょに昼飯を食ったりもしていた。
ただ……。
ある出来事をきっかけに、俺は安愚楽から距離を置いた。
そのきっかけってのは、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
そういうことだ。
安愚楽は悪いことはしていない。
ただ俺が勝手に、彼を拒否しただけなんだ。
悪いやつじゃない。いまでもそう思っている。
ただ仕方がなかったんだ。若菜のためにも、俺は彼と距離を置くしかなかったんだ。
その安愚楽は、あくまでも穏やかに笑いつつ――
俺たち5人を、その綺麗な瞳で見つめながら言った。
「海水浴とはいいね。僕も海に入りたいよ」
「アグっちも一緒に遊ぶ? 家、確か近くっしょ。水着、取ってきたら?」
女子3人の中では、比較的、安愚楽と親しいほうのキキラが言った。
安愚楽は微笑を浮かべつつ「ありがたいけど、やりたいことがあるから」と言って、やんわりとキキラの誘いを断った。
「やりたいことって、なんだよ。女の誘いを断るほどのことなのかー?」
長谷川が、からかうように言った。
頭の中がエロいことだらけのこやつにとって、女子の誘いを断るのは信じがたい行いらしい。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
その長谷川の疑問に、答えなくてもいいのに、安愚楽は回答した。
「断るほどのことなのさ。僕はこのM高校の秘密をいま、調べているんだよ」
「秘密? なんなの、それ~」
若菜の問いかけに、安愚楽は答えた。
「M高校で昔、人が死んだって知ってるかい?」
(筆者注・■部分は、黒マジックで塗りつぶされている部分。何度も丁寧に塗られており、本来そこに書かれてあったであろう内容は読むことができない)
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