凡人と天才

雪月雷奈

第1話凡人の物語

僕は凡人である。

 

成績は普通より下、運動神経も下の下で何かの、例えばピアノだとか小説だとかの才能もない。

漫画や小説で言うところのモブキャラだ。

さらに言うと、趣味もない。

ゲームは必ずと言っていい程序盤で死ぬし、漫画も親が厳しく禁止するから見れない。(携帯ゲームはいいのに、何故だろう)

たまに、なんの為に生きているのだろう、っていう気分になる。

勉強の為、将来の為、子孫繁栄の為だなんて周りは言うけれど、

今この瞬間を生きる意味がなくてはきっと皆生きていけないんだと思う。

なんの気なしに校庭が見える渡り廊下へ向かうと、校庭でクラスの男子がサッカーをしていた。そう、僕だけ、その輪の中にいない。

・・・端的に言うと、友達がいないのである。

ゲームや漫画などの共通の話題も無い為、誰も友達にしてくれなかった・・・というよりは、僕の気が弱いせいで話しかけられなかったのである。


「おい木村、そっち行った!」


暫くその様子を渡り廊下から手すりにもたれて眺めていると、中心人物の木村安都きむらやすとに目が行く。

彼は運動神経抜群で強豪校で有名な本校のサッカー部のエースであり、顔も良く愛嬌がある。

しかも頭脳明晰でテストでは毎回10番以内、人に愛される才能に富んでいる彼は僕が見る限り何時も人と一緒にいる。

彼は頭脳も性格も才能もすべてがトップクラスだ。

そして彼はシュートを華麗に決めて、友人とハイタッチしていた。


羨ましい。


僕はそんな彼がとても羨ましかった。


勿論彼も彼なりに努力をしていることは知っているが、凡人の僕からしたら友人が沢山いて、皆に愛され、運動神経が良くてイケメンでモテる彼が羨ましくて仕方なかった。

でも今は、羨ましいというより、嫌いだ。

密かに好きだった清田きよたさんが、彼の彼女になったから。

彼にしてみれば僕ごときに嫌われたところで何も支障は無いのだろうが、兎に角僕は彼を毛嫌いしていた。




でも血の滲むような努力をしている訳でも無い癖に嫉妬する醜い自分が何より嫌いで、渡り廊下を急いで渡った。

今日は運悪くお弁当を落としてしまい、(落としたというよりかは巫山戯てた男子にぶつかられて落としたのだが)ランチタイムに何も食べられなかったので、

購買のパンを買って食べる予定なのだ。



「ブルドッグパン一つとバナナチョコフルーツミックス牛乳ください」

「あんたよく来るねぇ・・・それにしても変な物ばっか買っていくね」

「食べてみれば美味しいですよ」

「いやだって名称があれだからねぇ」

おばちゃんが渡してくれる軽口と品物を受け取り、購買の横にあるベンチに腰掛ける。座ると同時にさっき購入したブルドッグパンを購買のマーク付きの袋から出してかぶりつく。

ブルドッグパンは名称があれなので美味しくなさそうだが、中にじゃがいもとたらこを和えたもの、外にはマヨネーズがどんと乗っかっているパンで、焼きそばパンより美味しいと僕は思う。

ブルドッグパンを食べ終わりバナナチョコフルーツ牛乳のストローぐちに付属のストローを刺す。

とそこでおばちゃんから声がかかり、

「ねぇちょっとチョコバナナフルーツミックス牛乳君、余っちゃったんだけど、いる?」

と幻のリッチバターメロンパンを手に載せてくれた。

このメロンパンは普通にコンビニでメロンパンを買うよりも安く、しかもパンがふわっふわでカリカリの皮と合わさる絶妙な味わいが実に絶品な一日20個限定の幻のパンなのである。(ちなみにリッチバターメロンパンを買いに来たら無かったので仕方無しに余っていたパンを買ったら意外に美味かったのが僕とブルドッグパンの出会いだったりする)


「うおぉ・・・ありがとうございます。でもなんで売り切れてないんですか?」

「今日は高等部がお休みだからね、一つだけ売れ残ってたんだよ。」

ウィンクをするおばちゃんに感謝を述べメロンパンをいそいそとスクールバッグに仕舞う。

しかしふと時計を見ると、休み時間が終了になりそうなスレスレの時間だった。

「やば、教室戻んなきゃ」

短い足を忙しなく動かし、教室に向かう。

次は移動教室で、3階から1階の生物実験室まで行かなければならないのだ。

そして教室に着いたとき。


(オーマイゴット、なんてこったい)


しかしそこには今会いたくないランキング第一位に堂々君臨する木村がいた。

しかも喧嘩をしているのか、何かを声高に訴えている清田さんと酷く煩わしそうに顔を顰める木村のセットだ。

このアンハッピーセットの喧嘩の最中にめちゃくちゃ入りたくないが、次の授業で使う教材と白衣を取らなければいけないのでなるべく気配を消して教室に入った。















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凡人と天才 雪月雷奈 @aunn

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