鉄腕エミリーの隣のワタシ
長月 有樹
第1話 開幕宣言レーザービーム
「あーなんかセカイとか救いたいなー」
シャクリとソーダ味のアイスキャンデーをひと噛みしながら。私の隣を歩くエミリーがポツリと呟いた。ジンジンと熱が降り注ぐ夏の日、見渡す限り緑、緑、ミドリの田んぼ道の途中で。変わりばえしない風景、代わり映えしないお喋り。エミリーは登校中、いつもと同じ事を呟いた。
「エミならできるでしょ」
これも私の代わり映えのしない返し。これに続けてエミリーは「えぇー?無理だよー、こんな何も無い田舎じゃ」と返すのがいつもの変わらぬ日常であったのだけれども今日は違った。
「うん……。できると思うし、やらなくちゃいけないのかもね」
エミリーはそう言って、さっきより大きく口を開けジャクリとアイスキャンデーを食べきり、ボリボリと噛みつつ棒をポイっと道に投げ捨てる。「あっ、ヤバヤバ、頭痛い、マジキーンッとするー」と言いながら頭を叩く。はしたない。
「よしっ!、世界救ったる!!!」
気合を入れたのか片腕を空に掲げて宣言する。エイエイオー。日本人の父とイギリス人の母から生まれた。金髪ツインテール。赤と青のオッドアイ。とエミリーは漫画じゃんってツッコミを入れたくなるオンナノコ。けれどもそんなエミリーの漫画じゃんはさらに加速してる。
「よっしゃ!!昨日のアタシとオサラバするぜい。」
空に掲げたエミリーの右手がガショガショっと音を立てながら変形し、掌の部分が筒状になる。キュインキュウイーンとそのエミリーの手であった筒の先から青い光が漏れ出してきた。私はそれに対してどうもする事はなく、ただエミリーを見ている。登校中の同じ高校の生徒達も立ち止まって、何が起きるかとエミリーをザワつきながら見ていた。キュインキュインがギュウウンへと音が変わり、それ同時にエミリーが「イックッッッッヨーーーーーー!!!」と叫んだ。
ギュオンと大きな音で鼓膜を揺さぶられる。
刹那。青い光が青い空と白い雲を切り裂いた。近くにいた衝撃で私は3メートルくらい軽く宙に舞い、田んぼの中へドボンとホールインワン。いや池ポチャか?何を言ってるんだろ、私。
顔に髪の毛が張り付き、夏服が泥まみれになって田んぼから起き上がる。サイアク。ベトベト。登校中の生徒や近所の家からも何の騒ぎか?と辺りが喧しくなる。
アスカチャーン、ダイジョーブと。喧騒の中心から私の所へとエミリーが近づいて来る。
「飛鳥チャン、私ホントにセカイを救うよ。」
陽の光で陰となっている親友の宣言を見上げる私。心の中では漫画じゃん。つかコブラじゃん、サイコガンじゃん、古くない?で埋め尽くされて、何も頭に入ってこない。
私はエミリーの両腕に目がいく。黒く。鋼鉄の。オンナノコとは遠くかけ離れた両腕。
私、葉山飛鳥の親友、喜多岡エミリーはサイボーグになっていた。そして手からレーザービームを放てるようになっていた。
そしていたってフツーの女子(黒髪ロングでそこそこ男子に人気がある)私、葉山飛鳥は、ベトベトになった制服を着替えるために一旦家に帰って洗濯をしている最中、そもそもセカイを救うってそもそも何?と親友の言葉に今更疑問に思いつつ、お気に入りのパンツの汚れの染みが取れず。その事がショックで、他人に唯一自慢ができる(した事は一度もない)皆勤賞の記録が途絶える。やってられるかー!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます