絶版サイト

6でなしヒーロー

第1話

 あれは視界が眩むほどの雨が降っていた日だった。

 中学生だった頃の俺は学校からの帰り道に雨にやられてしまった。勿論傘なんて持ってなくて近くのシャッターで閉じてあった文房具店の屋根に非難させてもらった。

 下着まで濡れていて気持ち悪かった。くしゃみも出た。

 体を震わせながらタオルで拭くが、雨風が強く屋根の下に立っていても濡れてしまうので意味がない。


 仕方ない、近所のコンビニで傘でも買おう。そう決めたのだが周りにコンビニの影も形がなかったのだ。

 中学というのにケータイも持たされいない、親は仕事で忙しく迎えに来てはくれない、家まで走っても15分くらいの距離がある、こんな中走るのは馬鹿のする事だろう。

 敵の駒に囲まれた王の気持ちがわかった気がすると少し笑ってしまった、いやいや笑っている場合じゃない。どこかここよりも雨をしのげる場所を探さなければいけないと考え、近くに神社がある事に気がついた。

 今すぐに神社まで走り、鳥居をくぐって本殿の入り口前の階段に座らせてもらった。


 雨は強い。空に神様がいたとするのなら彼女にフラれたのだろうか。

 雨が止んで欲しいと空を見上げた頃、何か音がした。女性が泣き叫ぶ声だった。一瞬俺は神社の祟りか何かと思って逃げ出そうとしたがそれ声は男の声も混じっている。


「黙ってろ!」

 この大雨の中、ハッキリと聞こえバキりと骨が砕ける嫌な音がして神社の裏に何かが起きている、そう確信した。

 逃げ出したい、誰かが襲われている。中学生だった俺でもそれは理解できた。

 誰かを呼んでくると心の中で言い訳をしてここから走って向かった先は文房具店。

 さっきの文房具店のシャッターを手が赤く打撲してしまいそうなほど叩くと、眠たそうにしている店のおばちゃんが何のようだと言わんばかりに顔を出した。

「あそこ、あそこの神社で誰かが襲われてるんだよ!」

 突然の事におばちゃんは首を傾げて冗談だろと笑って返したが、俺の必死な顔を見て旦那と自分より年がいくつか上の息子を呼んで案内をさせるよう言われた。

 あそこの神社だと指を指して傘をさした大人達は警察を呼ぶ前にまず確かめに走った。

 無事であってほしいと祈った自分に帰ってきた情報は、襲われたのはクラスメイトの碇優花、その少女は間に合わなかったという現実だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る