最高の後悔

トドタリアン

第1話

 8月の中旬、ちょうど夏休みの真ん中あたりの事だったと思う。

「なぁ」

「何?」

「今俺たちって夏を満喫してるのかな?」

「して無いんじゃない?」

「だよな、よかった」


 最高とはなんだろう。

 考え始めたらキリがなかった。

 最高とは1番良い事。バカな俺たちにはそれしか分からなかった。


 じゃあ、その先は?


 最高を目指して追いかけて、そしてそれを叶えることができてしまったのならば。


 最高の先にある«何か»が怖くて、それを知りたくなくて。


 俺たちはこの時、確かに背を向けたはずだった。


「それで、どうするつもりなの?」

「そうだな…、とりあえずダラダラしてればいいだろ!」

「またそんなこと言って、いつもダラダラしてるくせに」

「バカだな、いつも通りだからこそいいんだよ」


 そう、いつも通りだった。なんの変哲もない、ただの1日。


「お前だって、ダラダラしてるじゃねーか」

「ゴロゴロしてるのよ」

「ならよし」

「いいんだ…」


 こんな事を40回ほど繰り返した頃に夏休みが終わり、秋がすぎ、冬と春がすぎて、また夏が来る。


 俺たちは何かを求めない、変えようとしない


 そしてまた、40日程が過ぎて、しばらく待つと再び夏が来た。


「あんた最後の夏もこうやって過ごす気?」

「まあな」

「・・・楽しい?」


 楽しい…んじゃないのかな?


「多分ね」

「なにそれ」


 俺たちは変わらない、夏を楽しんだりなんかしない。


 季節は巡る。

 巡り巡って夏は終わる。

 夏が終わって時は経ち、俺は今桜の下で立っている。


 何で変えようとしなかった?

 何で何も求めなかった?

 答えは簡単だった。


「楽しかったな・・・」


 最高だったから、楽しかったから。だから他には何もいらなかった。


「見えなかった…」


 幸せが


「見えなかった…」


 未来も過去も


「…見たくなかった」


 俺が背を向けた、今を


「気が付きたくなかった・・・」


 最高だった、あの日々を


 それを懐かしむ事しかできない、惨めな自分を


 あの時、最高を探して何かをしていたら、何か変わったのだろうか。

 今のこの気持ちをどうにかすることが出来たのだろうか。


「何しけたツラしてんのよ」


 振り向くとそこに彼女はいた。

 彼女は、いつもと変わらない。


「楽しかったね」

「…ああ」

「後悔してる?」

「…」


 後悔…か。

 俺は後悔してるのかな?


「分からない」

 今の自分が分からないから

「何気ない日々が最高だったって気づいた」

 気づきたくなかったのに

「俺はこうなりたくなかった」

 悔やむ事しかできないから

「いつだって最高は自分より過去にある」

 だから俺は否定した、最高を追い求めることを。




「何バカなこと言ってんのよ」

「…は?」

「バカのクセに変な事で悩みすぎなのよ」

「変な事って…」

「どうせあんたの事なんだから何日か経つとそんなこと忘れて遊んでるんだから」


「だからこれからも変わらず、2人でダラダラしながら過ごすわよ」


「……そうだな」

「じゃあ、帰ろっか」


 これからもずっとダラダラし続けよう

 だって今のこの何気ない日々が最高なのだから














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最高の後悔 トドタリアン @todotarian

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る