追憶の2000

奈名瀬

👟

「なあ、君」


 部活の帰り道、妙な老人に話しかけられた。


「なんだよ、じいさん?」


 亀のように歩く老人は手にボロボロのスニーカーを持ったまま俺に歩み寄る。

 そして、彼は俺の履く靴をまじまじと見つめ始めた。


 奇妙な沈黙。

 何がおもしろいのか、じっと靴を眺める老人に俺は告げた。


「シンデレラに出てくる王子だって、硝子の靴をそんなに見つめちゃいないぜ?」


 すると、老人は歯を見せて笑う。


「もし君の履く靴がガラスでできていたなら、声をかけなかったよ。ワシは速く走る靴が好きだ」


 この一瞬、俺はじいさんに興味が湧いた。

 だが、口を衝いて出たのは親しみのない言葉。


「へぇ、そんな亀みたいにのろいのに?」


 しかし、じいさんはにやりと笑って返す。


「ああ。昔は速く走れたからね」


 その後、じいさんは俺の靴から視線を逸らすと、手に持っていたボロを差し出した。


「なあ、一つ頼めるかな?」

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