離宮の客室

 瑞希はメリンダに連れられて、ロキの部屋から随分離れた部屋に案内されたのだ。




「ここが、ミズキ様のお部屋になります」


「・・・うわぁ~!!」




 メリンダが扉を開け支えてくれたので、瑞希はその開いた入口から中に足を踏み入れそして感嘆の声を上げる。




(す、凄い綺麗で広い部屋!!それに家具も調度品もこの部屋に合った素敵な物ばかりだし、所々花瓶に生けられた大輪の花のお陰か部屋の中に良い匂いが充満してる!!これはまるで・・・昔読んだ、ファンタジー漫画の中に描かれていたお部屋そのものだ!!)




 そう瑞希は漫画の一場面を思い出しながら、うっとりと部屋の中を見渡す。


 その瑞希に与えられた部屋は、リビングと寝室が別々になっており、寝室へと繋がる場所には扉が付いていたのだ。


 そしてそのリビングには、十代だと思われる明るい黄色の髪に緑色の瞳をした若いメイド姿の、可愛らしい侍女が二人並んで立っていた。


 しかしその顔は二人共全くそっくりだったので、どうやら双子のようである。




「あなた達、この方がシグルド様のお客様でミズキ様よ。精一杯お仕えするように」


「「はい!!」」


「え?いや、私一人で出来るから・・・」


「いえ!ミズキ様は女性で初めて、このシグルド様の離宮に住まわれる方なのです。ですから、シグルド様の為にも私共はそのミズキ様を、精一杯おもてなしすると決めているのですよ」




 そうメリンダは真剣な表情で力強く力説すると、二人の侍女も同じように真面目な顔で何度も頷いていたのだ。


 しかし瑞希は、その三人を見て若干引き気味で頬を引くつかせていた。




「え、えっと・・・」


「さあさあミズキ様、時間が有りませんのでさっそく準備に取り掛かりましょう!」


「え?何を?」


「「お手伝い致します!」」


「え?あ?ちょっ!何処へ!?」


「勿論、湯浴みからです!」


「へっ?いや、お風呂は確かに入りたいけど!とりあえずベッドで休ませて!!」


「いえ!まずは湯浴みからです!!」


「「さあさあ、行きましょう!」」




 そうして瑞希の抵抗虚しく二人の侍女に両腕をガッシリと掴まれ、メリンダの先導で風呂場に連行されていったのだ。












 そして今瑞希は、とてもぐったりした表情でドレッサーの前に座っている。


 結局あの三人に風呂場に連れていかれると、嫌だと拒否している瑞希を無視してあっという間に裸に剥かれ、そして隅から隅まで念入りに洗われてしまったのだ。


 そうしてその時点で既にぐったりしている瑞希を連れて部屋に戻ると、今度は沢山のドレスを試着させられそして漸く一着に決まると、次にその深緑のドレスに合うアクセサリーを身に付けさせられた。


 そしてそれも終わると、今度はドレッサーの前に座らされ軽く化粧を施された後、今は髪の毛をブラシで漉かれているのだ。


 その瑞希の髪を触っているは、あの若い二人の侍女。


 やはり双子の姉妹であり名前を、姉の方がレイラで妹の方がライラと言う。




「ミズキ様、とても櫛通りの良い艶やかで素敵な髪です!」


(・・・まああれだけ、色々なコンディショナーぽい物髪に付けられればそりゃそうだろうよ・・・)


「ミズキ様、お肌が艶々で張りがあって羨ましいです!」


(・・・そりゃあれだけ全身磨かれて、さらにマッサージまで施されればそうなるでしょう・・・)




 レイラに髪、ライラに肌を誉められていた瑞希だったが、その言葉を聞きながら心の中でツッコミを入れ、先程までのお風呂場での出来事を思い出し頬を引きつらせていたのだ。




「メリンダ様、ミズキ様の髪型はどう致しましょう?」


「そうね・・・ずっと三つ編みをされてた事で、髪にウェーブのクセが付いているようですから、それを生かして敢えて下ろしておきましょう」


「了解致しました」




 そうしてレイラに髪を綺麗に背中に流され、最後に花の髪飾りをライラに飾られて漸く終了した。




「うん、上出来です。ミズキ様、とてもお綺麗ですよ」


「「凄くお似合いです!」」


「・・・はぁ」




 三人其々に誉められた瑞希だったが、等の本人は気の無い返事を返し目の前の鏡に映る自分の姿を見て、苦笑いを浮かべていたのだ。




(う~ん・・・多分普通の女性なら、此処まで変わった自分の姿を見て喜ぶ所なんだろうけど・・・確かに今までの私からすれば凄く綺麗になってるのは分かるよ。ただ・・・此処までの過程が辛すぎて、あまり喜べないんだよね)




 そう瑞希は心の中で思い、自分の姿をじっと見つめながらため息を吐いたのだった。




「・・・やっぱりミズキって、変な反応するよな」




 突然そんな声が聞こえ、瑞希は驚いた表情で後ろを振り向くとそこには、長椅子に座って寛いでいるロキが呆れた表情で瑞希を見ていたのだ。




「「きゃっ!!」」




 その時そんな小さな悲鳴を上げたのは、レイラとライラであった。


 二人はロキの姿を見て、青い顔で小さく震えながらお互いを抱きしめ合っていたのだ。




「あなた達!その態度はいけません!あの方は、もう一人のシグルド様のお客様でロキ様ですよ!」


「「え?」」




 メリンダに注意されレイラとライラは、もう一度恐る恐るロキの方を見る。


 そのロキは、そんな二人に苦笑を浮かべながら指で頬を掻いていた。




「「も、申し訳ありません!!」」


「いや、べつにオレ気にしてないから良いよ」




 二人はすぐにお互いを離すと、揃ってロキに向かって頭を下げる。


 しかしそのロキは、そんな風に謝られてしまい困った表情を浮かべていたのだった。




「「し、しかし・・・」」


「本当に大丈夫だと思うから、気にしなくて良いよ」


「「ミズキ様・・・」」




 さすがに困っているロキと、まだ恐れているようなレイラとライラを見て瑞希が苦笑しながら声を掛ける。


 その瑞希の言葉を聞いて、レイラとライラは漸く安心したのか少し表情を緩めたのだった。


 そんな二人の様子にホッとしながら、瑞希はドレッサーの椅子から立ち上りロキの下に向かって歩いていく。


 しかしその動きは、馴れないドレス姿とヒールのせいでぎこちなかったのだ。




(・・・こんなドレス着た事無いし自分の世界にいた時は、基本運動靴かヒールの無いパンプスしか履かなかったから正直歩きにくい!!)




 そう瑞希は心の中で文句を言いつつ、苦戦しながらロキの下まで辿り着く。


 そんな姿をロキは、呆れた表情で見ていたのだ。




「・・・歩き方は要練習だな」


「うるさい!!」


「だけど・・・」




 ロキはそう呟いて、繁々と上から下までじっくりと瑞希を見てきた。




「ミズキってやっぱり・・・そんなに素材悪く無いよな。その格好、凄く似合ってて綺麗じゃん!」


「そうかな?ハッキリ言って、服に着られてる感が凄いんだけど・・・」


「そんな事無いって!自信持てよ!」


「う~ん・・・」




 瑞希はロキの言葉にも、あまり納得してる様子が無かったのである。


 するとその時、突然ノックも無しに扉が大きな音を立てて開き、そこから険しい表情のシグルドが部屋の中に入って来たのだ。




「ミズキ!ロキが部屋からいな・・・・・」




 シグルドは部屋に入ってくるなりそう叫ぶが、全部を言い切る前に驚愕の表情でその場に固まってしまった。


 何故ならシグルドが突然入ってきた事に、驚き振り向いた瑞希の姿を見たからだ。




「シグルド様?」


「っ!・・・ミ、ミズキなのか?しかしその姿は・・・」


「あ~何故だか、強制的に着せられたんだけど・・・」


「そ、そうか・・・」




 そうシグルドは呟くと、そのまま黙ってじっと瑞希の顔を見つめる。




「・・・シグルド様?どうかしたの?・・・まあ良いや。それよりも、いつもの服に戻させて貰えるようシグルド様からも言って欲しいんだけど!」


「・・・駄目だ」


「え?」


「ミズキにはこの離宮にいる間、ずっとドレスを着るように」


「ええ!?何で!!!」


「何ででもだ!」


「いやいや、私この格好全然似合って無いからさ!それに動きにくいし、いつもの格好の方が良いんだけど・・・」


「・・・よく似合っている」


「え?」


「な、何でもない!!」




 瑞希は不思議そうな顔でシグルドを見ると、シグルドは手で口を隠しそっぽを向いてしまった。


 しかしそのシグルドの耳がほんのり赤くなっているのが見え、どうやら照れている事が伺い知れたのだ。


 そしてそのシグルドを見て、瑞希もなんだか恥ずかしくなりほんのり顔を赤らめながら下を向く。


 そんな二人の様子を見て、メリンダは微笑みながら腰の辺りで小さくガッツポーズをしていたのだった。


 するとそんな何とも言えない雰囲気を割るように、ロキが席を立って瑞希に後ろから抱き着いたのだ。


 ロキは瑞希より年下だったが、背は瑞希より頭一つ分高かったので、頭を瑞希の頭の上に置き両手を後ろから首の横を通して両肩を抱いていた。




「ロ、ロキ!?」


「ほら~オレの言った通り、皆似合うって言うだろ?」


「そ、そうだけど!何で抱き着くの!?」


「ん~なんとなく?」




 ロキはそう言って、ニヤニヤとしながら瑞希の目の前に立っているシグルドを見る。


 するとそのシグルドは、最初驚いた表情でいたのが次第に眉間に皺を寄せ険しい表情でロキを睨み付けたのだ。




「ロキお前!何故、お前がここにいる!!」


「え~ミズキに後で、部屋に遊びに行くって約束してたからさ」


「だが部屋の前にいた兵に気が付かれず、どうやってここに!?」


「ん~オレに掛かれば、こんな所何処でだって行けるよ。まあ、この城は外から入るのは苦労するけど、一旦中に入っちゃえば簡単なもんだったよ。それにここ・・・結構警護の穴多かったから、気を付けた方が良いと思うな」


「なんだと!?」


「ここにはオレの主も住むんだから、警護はしっかりしてくれよ。・・・まあ、殆どオレが守るから良いけどさ」




 そう言ってロキは、ニヤリとシグルドを見ながら笑ったのだった。




「っ!・・・警護の件は至急対応しよう。だが・・・いつまでミズキに抱き着いている!」


「いや~思いの外ミズキ抱き心地良くってさ~」


「いい加減離れないか!」


「嫌だね!」


「離れろ!」


「ちょ、ちょっ!二人共!!・・・ぐぇ」




 シグルドはロキを睨み付けながら、瑞希に回してあるロキの手を外そうと手を伸ばすと、それよりも早くロキが瑞希を抱いたまま後ろに下がったのだ。


 そのせいで、二人を止めようとしていた瑞希の首にロキの腕が食い込み、潰れたような声が瑞希の口から漏れる。




「おいロキ!瑞希が苦しがっているだろう!」


「そう思うなら、シグルド様が手を出さなければ良いじゃん!」


「そう言う訳にいくか!」


「くっ・・・ふ、二人共いい加減・・・ぐうぇ」




 そうして暫くこの二人の攻防と、瑞希の呻き声が部屋にこだます事になったのだ。




「・・・やはり、あのようなシグルド様は初めて見る」




 そうシグルドに遅れて部屋に入って来たジルが、そんな三人の様子を見てうっすら笑い可笑しそうに呟いていたのだった。

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