MIN的SF短編集

MagicalInnocentNerd

メイドロボと少年

20180年 日本、徳島県。


田舎の町の薄汚い塗装が施された家。

の、中。


都会の町では当たり前のオゾン層ドームは田舎にはなく、午後1時のギンギラギンな太陽が照らしている。



そんな中メイドロボットは掃除をせず懐かしのノイズ・ミュージック特集を1000年もののビンテージ物理モニタでみていた。


「やっぱりノイズはデジタル式じゃないと駄目ですねぇ」

なんて言いながら煎餅をかじる。


もぐもぐと幸せそうに整った口もとをゆらす。


余談だが

20180年のメイドロボはバイオノイドが主流でロボロボしいメイドロボットはマニア向けである。



メイドの主人である少年はその一連の様子をみながらぼーっとしていた。


「どうしたんですか、ご主人様?」


メイドは首をかしげて聴く。


「別に、幸せそうにせんべー食べてるなぁって思っただけだよ」


「欲しいですか?」


「別にいらない。食事はデスクトップキッチンで自分が作ったものが一番おいしいんだ」


「ご主人様は素材をつかわない本格派閥ですからね、面倒です」


「均等なのが好きなだけさ」




※デスクトップキッチン(DesktopKitchen)、通称DTKとはその名の通りパーソナルコンピュータ上で食べ物を製造する行為である。

19990年台では宗教学者や飲食店経営者、その他もろもろに否定された行為であるが、人は便利には勝てないし、新しい技術にも勝てない。

少年の言う均等な味は俗にDTKっぽい食べ物と言われ嘲笑の的となってはいるが、そういうものを好む人間もいる。




「お前は人工的なのは嫌いなのか、その煎餅」


「嫌いではないですけど、なんというか、バイオノイドの誇り? せっかく意識をもってナマの肌で酸素を二酸化炭素に変えて動作しているのですから、私は米から育てて醤油をかけて焼いた煎餅を食べたいのです」


「のわりにノイズ・ミュージックが好きだよな、お前」


「一応ロボですから……あっ」


「ん?」


「イチオウロボデスカラ」

言い直した。


「何時代のロボだよ、お前は」


「うふふ、思考デザインは万年ほど前のものですが?」


「そうか。威張れることなのか?」


「いいえ、別に。普通なことです」

にへへ、とメイドロボットは笑った。


それにつられて少年もはにかむ。


「そういや、今日なにか面白げな事はあるか?」


「私がですか? ご主人様が?」


「オレがだよ。まあお前と楽しめるものでもいいけどさ」


「夏祭りがあるらしいですよ」


「物理的なやつで?」


「うーん、半分物理的なやつ」


「VRか? まだあんなんやってるやついるのか?」


「いるみたいですね。現実で十分だと思いますけど」


「まあそれは良いやオレ、VRの周辺機器はそんなにもってないし」


「DTKに仕送りのも使っちゃいましたしね」


「そりゃあ時代についていきたいじゃん」


「安っぽい感じがすきなのにねー」


「喧嘩売ってんの? メイドロボさん?」


「別にそうではないです」

非人工的な太陽に照らされたメイドロボットは、にやにやと小悪魔的に笑う。


「お前、かわいいよな」


「そうですかぁ? 知ってますよ」


「はあ、そうか。」


「ねえねえ、ご主人様ぁ、たまには手料理も食べたいですー!」


「洗い物が面倒だし……」


「ううむ、困りましたね……」


「お前、メイドロボットだよな? 「そういうことは私がやりますご主人様ぁ(はあと」とか言わないの?」


「私はえっちな事に特化したメイドロボットですからね、そういう行為に関してはアレの外です」


「アレってなんだよ」


「なんというか……えーっと専門的な?」


「サポート外ってことか」


「そういうことです……」


「前にメーカーに問い合わせたら持ち主の行動パターンに合わせて人工知能が勝手に判断してあらゆることに特化したメイドロボットになるって答えが帰ってきたんだけど?」


「うーむ……それはですね……、ご主人様が私を甘やかすからですね、間違いない」

汗の漫符をつけて切羽詰まったメイドロボット苦笑いを浮かべている。


「はあ……まあ、良いよ、たまにはガスコンロも使わないとな」


その主の一言でメイドロボットははにかみを取り戻しまた煎餅を手に取り、かじる。


「おいしいです!」


「よかったな」


「ねえ、ねえご主人様ぁ、えっちな事はしないのですか?」


「……」


「照れちゃってますー?」


「違うよ」


「じゃあなんです?」


「お前、男だからなー」



メイドロボットは男だった。





「でも心も男!」


「じゃあ男じゃん」


「男の娘モデルですからね、私」


「あー、深夜に調子乗って買い物するんじゃないよなまさか性別の種類が2つだけじゃないとは……」


「えー、悲しいこと言わないでくださいよぉ」


「ごめんごめん」


「まあ良いですけど。業務しなくていいから楽ですし」


「もう一度聴くけど体だけ交換したりできないんだよな?」


「物理的には可能ですが……最近ロボットの権利向上団体がアレなので、メーカーは自粛している状況なのです」


「……バイオノイドの交換ってどうするんだ?」


「普通にグロい事になりますけど聴きます?」


「じゃ、いい」


「私は男の娘モデルですがそこらのモノホンと違って衛生的ですよ? 排泄物も食用でー……」


「だから良いってグロいのは」


「……そんなに否定されると悲しいですね……」


「……別に、否定なんてしてないよ。お前のことは好きだよ、メイドロボ。Likeの方でな」


「……えへへ、存在理由抜きで好きで居てくれるのは嬉しいですね」


「ああ、嬉しめ、嬉しめ」


「私も好きですよ、ご主人様」

メイドロボは少年に抱きつく、


「……どーも」

少年はそっとふりほどく。


「なんで若干距離が?」


「おまえはLikeじゃないような気がしてさ」


「ご主人様Loveです!」


「まあ良いけどさ」






おわり


















「……いや、オチはないのか?」



「やまなしおちなしいみなしです」


「そういうもんか」


「はい、そういうもんです」

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