第3話

 僕は今、音楽室にいる。あの日から僕は毎日音楽室を訪れていた。幸い音楽部や吹奏楽部には専用の部屋があるので、放課後は僕と利佳の二人きりだ。


「ねぇ、今度のコンクールではなんていうのを弾くの?」


「えっとね、ショパンの『ノクターン第2番変ホ長調op9-2』って言う作品だよ」


「へぇ〜 ちょっと弾いてみてよ〜」


「恥ずかしいからダメ」


「え〜 いいじゃん。少しだけで、良いからさぁ〜」


「じゃあ、ちょっとね。ほんの少しだけだよ。」


 利佳がピアノを弾き始めると、綺麗な音色のクラシックが流れてきた。曲名は分からないが素人目でも難しいと分る曲だ。さすが、利佳だと思った。



 利佳のピアノに魅了されていると、頭の中にあの悪夢の時と同じような光景が映った。

 写っていたのは、ピアノコンクールの後に俺と利佳が会場の前で記念撮影をしている姿だった。

 あれ? 僕がこの前見たときとは少しだが景色が違うぞ? どうなっているんだ? それに、俺が見た悪夢だと俺はそろそろ倒れて病院にいるはずなのに。

 おかしい。何が変わり始めてる。

 僕が頭の中で考えを巡らせていると利佳のピアノのが終盤に差し掛かっていた。僕は一旦考えを止め利佳の演奏に耳を傾けた。

 最後の部分を利佳が弾き終わると、僕は拍手をした。


「本当に、凄いよ! ずっと聴いていたいよ」


「ありがと! あと、偶然なんだけどねコンクールの日が9月2日でこの曲の番号も9-2なんだよ!」


「本当だね。その調子で頑張ってね!」


「うん!頑張るよ!」


 利佳は、見惚れるような満面の笑みで応えた。






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