一発の銃弾に倒れた我に神はチャンスを与えた

奈名瀬

この世で一番いけないのは、お腹が空いていることだから

 一発の銃弾が脳天を貫き、我は死んだ。

 死に際に思い浮べたのは――腹が減ったという想い。

 すると、神が我に機会を与えた。


「貴殿に5分間だけ時間を与えよう。死ぬ前に何か腹に入れるがよい」


 そして、我の時間は巻き戻った。

 だが。




 ――5.00。

 ズドンッ!


 戻った直後、我死んだ。


「戻すって、死ぬ寸前か」

「応。がんばって避けよ」




 ――5.00。

 ズドンッ!


 銃弾の軌道を知る我、銃弾を避けた。

 だが。


 ――4.45。


「あと4分。何か腹に入れねば!」


 しかし、我思う。

 死を免れたのだから敵の追撃が来る前に逃げれば助かるのでは?

 やれやれ、何が5分か。

 我、自らをやれやれ奉る。

 急ぎ敵から逃げ、後でゆっくり摂食奉ろう。

 そう思った。


 ――4.30。

 コケッ、ゴッ!


 我、床の溝に躓き転倒。死んだ。


「ずるはいかん」

「本気で5分しか生きられぬのだな」


 我、真なる意味で現状を理解した。




 ――5.00。

 蘇生我、銃弾を回避。

 ――4.30。

 床の溝を跨ぎ転倒を回避。


 しかし、ここで問題発生。

 現状、命を繋ぎ止めるために30秒の時間を要した。

 つまり、実質我に与えられた時間は4分30秒。

 この間で何が食べられる?


 我、アジトを物色する。


 ――4.00。

 カップ麺を見つけた。


「完璧だな」


 人生最後の食事が即席麺というのは味気ないが、仕方あるまい。

 我は湯を沸かし。


 ――2.30。

 カップ麺にお湯を注ぐ。


 次の瞬間。

 ジュッ!


「熱ッ」


 こぼれた熱湯が体にかかる。

 我転倒。

 ゴヅンッ!

 後頭部を打ち、死んだ。


「何故だ!」

「カップ麺を3分待たず食べるは神への冒涜である!」

「……」




 ――5.00

 銃弾を避ける。

 ――4.30。

 こけない。

 ――4.15。

 カップ麺を諦め、我は外に飛び出した。

 走れば2分の場所にコンビニがある。

 そこで総菜パンを買って食べよう!


 我の決意は固い。次こそは空腹を満たせるに違いない。

 だが。


 ――2.15。

 コンビニ到着。


 ――0.30。

 我、店内で死んだ。


「時間がないのをわかっている筈なのに何故何を買うか迷った?」

「いや、コンビニの総菜パンって迷うのが普通では?」


 やれやれ。我の反論に神怒り奉る。静まりたまえ、マジ畏み申す。

 が! 今の失敗で我は学んだ。

 もう迷わない。




 ――5.00。

 銃弾を避け。

 ――4.30。

 こけず。

 ――4.15。

 我、外に飛び出す。

 ――2.15。

 コンビニに到着。

 ――1.45。

 総菜コーナーでコロッケパンを選択!

 ――1.00。

 会計、終了。


 店員から商品を受け取り残り50秒。

 袋、開封!

 香る油の香ばしさに歓喜し、最後の晩餐を口の中へ。

 ザクッ……。


 素晴らしい肉の触感。

 ああ、これぞ……メンチカツ。


 ん? メンチカツ?

 我、商品を間違う。


「し、しまったぁ!」


 だが、現実は非常である。

 神いわく。


「おいしかったでしょ?」


 Yes。


「なら、人生ごちそうさまだね」


 我、一抹のむなしさを胸に……合掌。

 直後、脳天をぶち抜く銃弾。


「お、お客様ー!」

 ぶち撒かれる血しぶき!

 だが。


「ごちそうさま」


 腹は満腹である。

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一発の銃弾に倒れた我に神はチャンスを与えた 奈名瀬 @nanase-tomoya

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