第6話



 そして、短くない時間をかけてレベル99まで上り詰めた我らは、ついに旅の果てにで勇者達と相まみえる事になった。


 お嬢様は我らの旅の目的を知らない。

 我らの事はただ、冒険者としての夢を手助けしてくれているだけなのだと思っているのだろう。

 そんなお嬢様を苦しい立場に追いやるのは申し訳なかったが、こればかりは譲れなかった。


 我らは勇者の姿を見かけた時に、連中の前へ飛び出し立ちふさがって見せた。


「コケッ!」

「コケケッ!」

「コッケコ!」


 魔王打倒の目前、殺気立つ連中を前にして私怨を優先させる我等は、かなり滑稽なのだろう。


 あの日から新たに加わった新たな勇者の仲間達は、我らに道化でもみるような視線を向けて来た。


 だが、我らは今更止まらない。

 堂々とした姿で勇者達の前に立つのみだ。


 テイマーに勝負をふっかけられた形となった勇者達は、我らの姿を見て大いに笑い転げた。


 ただの家畜風情が、ニワトリ風情が人間の……それも勇者の前に立ちふさがるのか、と。


 そして、連中は勝負にならぬとでもいった様子で、我らを無視して先に進むもうとうする。


 勝負すら成立しないという状況に我らは危機感を抱いた。

 我らは悪党ではない。

 連中があの日にしたように、卑劣な行為で相手を打ちのめしたいわけではないのだ。


 だから、これまで勇者達とまみえた時は、不意打ちでもなく正々堂々と正面から渡り合おうと決めていた。


 だが、それだというのに、勝負すら行われないのだとしたら……。


 連中はそもそも我らを敵としては認識していなかった。

 ただ喋って騒ぎ立てるだけの路傍の石ころだとしか、思っていなかったのだ。


 ここまで血のにじむ様な思いをして努力してきた道のりを思い出した我らは、ままならぬ現実に、打ちのめされたような気分になる。


 かくなるうえは卑怯とそしられようと、背中を狙って連中に敵がいる事を認識させようか、我らはそんな事を考えるまでとなっていたのだが……、


 お嬢様がその場に伝説の生物、フェニックスを召喚して勇者達に啖呵を切ったのだった。


 悠然とした姿で空をたゆたうその守護獣は、レベル80ほどになって酸素の薄い山岳地帯で三日三晩かけて仲間にした生物だ。


「私はこの伝説と謳われるフェニックスですらも仲間にしたテイマーです。ですが、貴方達なんかをやっつけるのは友達のコッココちゃんで十分です。貴方達が世界中の人々の、貴方達の馬鹿にするコッココに怖気づいて逃げたのだと思われたくないのなら、この勝負を受けてください」


 その時我らは理解した


 お嬢様の悔しそうな顔。

 悲しそうな顔を見て。


 ああ、お嬢様は全て分かっておられたのだ。

 

 我らが何の為にここまで努力してきたのか、どういう気持ちで勇者達の前に立ちはだかったのか。

 そんな我らの意を組んで、言葉にできぬ我らの代わりに勇者に決闘を言い渡してくださったのだ。


 辺境の村にいた、ただの娘だった少女。

 しかし、ただの村娘だったその少女は、眩しほどに立派になられた。


 その時我らは、彼女は我らの主人で良かったと、心の底からそう思った。


 ここまでずっと勇者との戦いは、我らだけで相手をするつもりだった。

 だが、お嬢様はどこまでも我らと対等だったのだ。

 そうと知らなかった初めの頃から。


 ナインフィードお嬢様は、この世界に見渡してこれ以上ない我らの同士である。

 お嬢様とならどんな相手でも負ける気がしなかった。


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