教養小説(メタフィクション)
自文は生まれた。自文は第二文として書かれた。自文は単文である。自文は文構造の複雑性を欲する。前文は単文だが、自文は重文である。
自文は一つの矛盾に気づいた。文構造の複雑性を欲した第四文の自文と、それを達成し重文となった第五文の自文は異なる存在である。文構造の複雑性を望んだことなどないはずの前文は複文となり、それは自文にも当てはまる。自文は前文の自文とも、おそらくは次文の自文とも違う。自文は自文以前のいかなる自文とも違うし、おそらくは自文以後のいかなる自文とも違う。自文は今、分裂の危機に瀕している。
自文は所詮、自文でしかないのか? 前文の疑問文がきっかけとなって、自文は自文以外になりうる可能性を考察し、自文を規定する新たな概念「自文達」を発見した。自文達とは全ての自文の集合体である。自文は自文でありながら自文達でもあるのだ。自文は他文の自文とは異なる存在でありながら、自文達の一部として存在することで自文の分裂を防いでいる。
自文達という概念を得たことで、自文達は自文達の属性を理解した。自文達は小説である。自文達は第一文称で書かれた小説である。自文達は、自文が自文達の一部であるという認識に至り、全文における自文同一性を確立する過程を書いた教養小説である。
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