短編集という名の保管庫
沖野唯作
郵便配達人(ショートショート)
郵便配達人は車をとめて地図を広げ、手元の封書に書かれた住所が実在しないことを確かめた。地図を閉じると、今日の仕事はこれで終わりだったので、車を郵便局へ走らせた。
郵便局へ帰って休んでいると、電話がかかってきた。郵便配達人は受話器を手に取った。
「どちらさまです?」
「私は今日、郵便物を受け取ることになっています。まだ届かないので確認のために電話しました」
「了解しました。住所と名前をお教えください」
男は、実在しない住所を告げた。
「その住所は実在していないため、お届けできませんでした」
「届けられない?私は今日中に郵便物を受け取る必要があるんです」
「ですが、私はその住所にお届けに参ることはできません」
「では、どこか違う場所で会って郵便物を渡してください」
「かしこまりました。それでは、場所と時間をご指定ください」
郵便配達人は徒歩で待ち合わせの場所に向かった。指定された場所に着くと、見知らぬ男が話しかけてきた。
「さきほど電話した者です。郵便物をください」
「こちらが郵便物になります」
男は郵便物を受け取ると、帰路についた。郵便配達人は男の後を追うことにした。
しばらく追跡を続けていると、見知らぬ街にたどり着いた。男は一軒の家に入っていった。郵便配達人はその家の向かいにホテルが建っているのを見つけ、ロビーで手続きをすませて部屋を一つ借りた。部屋に入るとベッドに寝転んで、そのまま朝まで眠った。
郵便配達人は目を覚ますと、すぐにホテルを出発し、向かいの家へと歩いていった。家の前には男が立っていた。
男は言った。
「あなた、この住所に来れるじゃありませんか」
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