五胡十六国プレゼンシート

ついったのほうで「五胡十六国時代を簡潔に紹介したい!」みたいな画像、すなわちプレゼンシートをアップしたところ、自分史上では類を見ない大反響を頂戴しています。ありがたいことです。今回、そのへんについて書きます。いわゆるあとがきってやつですね。


プレゼンシートはこちら。

https://twitter.com/satohkun_/status/1427610758628528132



○長い前置き そもそも何したいねん


以前このエッセイで語ったことの繰り返しにはなりますが、中国史のある時代をもっと人に知ってもらいたい、と考えたとき、初手は「三国志演義みたいなクソ名作よこせ」以外にないと思ってます。いまは無双や大戦からも新しい客層が流入していますが、それもこれも、まずは三国志の確かな人気あらばこそ。そこがなきゃなにも始まりませんし、つまり三国志以外の時代は、いずれにしても「知ってもらうためのスタートライン」にすら立てていないのが現状です。


自分がやりたいのは、「スタート地点を引ける場所を確保する」こと。つまり、作品が生まれるための下地、ですね。


五胡十六国。知らない人、聞いたことある人、なんとなく知ってる人、自分から調べてみた人、更に踏み込んだ人、それ以上。様々な人がいますが、間違いなく多いのは、はじめの二つでしょう。繰り返しますが三国志演義が、もっと言えば吉村英治、横山光輝がいない。全然知らない人たちが「おっ?」と思って、気軽に手に取れる作品がない。そこがあって、初めて興味の門戸が開かれると思うのです。こいつは「崔浩先生の五胡十六国講座」開始以降、一貫している認識です。


なら俺が作ればいいって? 知ってるわ! そのための勉強とかもしてるよ! けど、性分が致命的にメジャー向けじゃねえんだよ! 流通に堪えるだけの共感度を持てるやつは、そんな簡単に作れる気がしません。というかそんなんより劉裕やりたいですしね。なら、劉裕にまつわる勉強の余録を少しでも噛み砕いて吐き出す方がいい、それで誰かメジャーに堪えうる作品を作れる人の琴線に留まって、とんでもねー作品が産まれれば、俺も読者として楽しめる。そんな感じです。


脇道にそれました。悪い癖だ。


例えばね、ついったでは日常的に魏晋南北朝周りできゃっきゃしてる方と交流させて頂いてるんですけど、こういう人たちって、要は天才なんです。「魏晋南北朝周りを楽しむことにかけての」。だから日本人なのに漢文の史書にも行くし、なんなら中国メディアにも原語で踏み込みます。「楽しいから」。あえてこの言い方をしますが、「俺たち天才軍団」に取って、日本語を超えることは苦労でも、努力でもありません。だって楽しいんですもん。こんな奴ら、天才以外のどんな言葉で言い表せばいいんです?


ただ、大多数の方はそうじゃない。


世の中にある「〜を本当に楽しみたいなら一定以上の努力が必要だ」って言葉にはヘドを吐いてます。は? あなたの言う「努力」とやらは、原則「努力の先」が見えてますよね? 報酬が確定している努力のモチベーションは、当然ですが高くなります。けど、「努力しろ」と言われた相手はだいたい、その報酬に確信が持てません。だから努力が苦痛にしか感じられない。つまり誰かに何かを楽しんでもらいたいなら、「努力」と呼ばれる道筋そのものが報酬となっておらねば、投げ出す。そのへん履き違えてらっしゃらない? と申し上げたいのです。


誰に楽しんでいただけるか、のターゲットを広くしようとすればするほど、その表現はライトで、簡潔で、断定的であることが求められます。そんなん古代ギリシャのひとがもうとっくに言ってます。で、いまWEB 小説界隈で人気のある作品を見れば、大体がその原則どおりです。


もちろん、あくまで原則。人間がそんな単純だったらとっくに世界は一人の偉大なる王様の支配のもとで喜びとともに暮らすでしょう。しかし、そうではないですよね? 全員には届かない、しかし響く対象を可能な限り広げたい。そういう確率論でしか戦えず、なら確率論的最大を目指す。それが、自分の目指しているところなのです。



○薄い本題


物語という「大きなパイを取り込めるもの」がない中で、何ができるだろうか? そしたら「歴史に興味がある人向けの、簡潔な情報」でしょう。


五胡十六国時代はキチガイ祭として有名ですし、そこを否定するつもりはありません。ただ、ひとりひとりのキチガイで笑ってると、結局そこまでにしかならないんですよね。「なんでそのキチガイが、そうまでキチガイだったのか」「そのキチガイの動きで、なにが起こったのか」。ここがうまく繋がってきてくれると、より全体が見渡しやすくなるよう感じています。


今の日本、五胡十六国を楽しむための気軽な取っ掛かりが動画とかブログで、次の取っ掛かりが、いきなり専門書なんですよね。絶版本では宮崎市定「大唐帝国」という最強の本がありますが、反応を見る限りだと、やっぱりあれもキツイっておっしゃる方がいる。ウィキペディアはかなり充実してますが、あそこも今度は「充実しすぎててキツイ」があったりする。WEBで気軽にアクセスできる、の次に横たわるハードルが、あまりにもやばい。そこをどうにか埋められれば、と考えてます。


また、その前の「そもそも五胡十六国時代ってなんやねん」も、情報としては正直、曖昧。キチガイパーリィー☆ 以上の端的な説明ってあんまりないんじゃないかな。なのでイメージとしては、今回挙げた画像で「時代的な位置づけと、枠組み」を見てもらい、「崔浩先生の五胡十六国講座」で枠内にもう少し踏み込んでいただき、更に気になる方には専門書や史書に飛んでいただければ、興味が募る方には楽しんでいただけるんじゃないかなって思うんですよね。


史書については同じカクヨムで翻訳とかもやってるけど、このへんは正直淝水の戦いのあとという「人気のない時代区分」(※ああだこうださん調べ https://twitter.com/ryoushin_16/status/1420383756062380032)しか扱ってないので、正直ニーズに答えられる気はしていません。ま、お気が向いたらということで。



○各画像の解説


一枚目 紹介編


 自分の体感的に、中国史への認識って三国志から一気に飛んで遣隋使だと思うんですよね。倭の五王とかあるけど、正直送った以上の情報がない。なので「三国志から隋までの間」をまず紹介。その中における胡十六国の位置づけとかを示しました。

 そして、この時代を把握するにあたってはどこがゴールか見えていたほうがいい。というわけで、新たな平和を現出させた唐太宗李世民の扱いを大きくしています。いや、まじでなんなの李世民……やば……。



二枚目 あらすじ編


 十六国を六国にまで絞ったよ!!けどそれでも三国志の1.5倍だし、ついでに三国志なら晋が天下統一した辺りで淝水とか終わってるよね!

というお話です。(どんなだ)



三枚目 南方(東晋)編


割と五胡十六国イコール東晋だ、ってイメージが付きづらいように思うんですよね。なのでそこの関係を把握していただければ、と。東晋との関係性なくして五胡十六国時代は語れませんので。



四枚目 人物編


歴史萌えは人物萌え。わかる。なのでそのあたりを一覧できるやつを作りました。この時代がゴチャ付いてるのは避けようがないのでゴチャつかせてますが、ただ煩瑣になりすぎないようには気をつけてます。あらかじめ紹介した国の人物以外は省きましたし、紹介した人物でも、結構エゲツねー省略をしています。劉曜、温嶠、苻生、慕容恪、王猛はどう考えても必要だと思ってるんですが、渋滞が激しくなりすぎるのでカット。あと東晋簡文帝(司馬昱)は東晋中後期のドンだと思ってるんですが、そのへんの注釈入れるのもごちゃつきがやばくなるのでカット。



以上、こんなことを考えてはいましたが、上にも書いたとおり「楽しめる範囲内で楽しんでいただけるのが一番」と考えています。そのサポートになるコンテンツを作れればいいな。そう考えてます。

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