ステップアップ――マズローさんに聞け

 はい、断り書きをぶち決めた上で、はじめのやつの続きです。


 はじめのやつでは「カク」ライフのスタートラインに立つためのメンタルセット、みたいなことを書きました。


 じゃあスタートしました、そのあとはどうなるんでしょうね。


 結論は「あなたに一番適したスタンスを見つけて、楽しめ」となります。わーいなんの答えにもなってない。


 以下、それにまつわることをぐだぐだと。


 ○


 まずはタイトル回収です。


 心理学とか、あるいは教育論とかに接した人なら聞いたことあるんじゃないでしょうか。マズローの自己実現理論。


 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/自己実現理論


 雑に紹介しますと、人間の欲求には五段階の階層があり、上層の欲求は下層の欲求が充足されていないとなかなか充足できない、というものです。これは、上層から順に


・自己実現

 他人といった外的要素にしばられず、思うがままの自分として完成している。

・承認

「あなたの存在は尊重されている」ことを理解し、受け入れている。

・社会/帰属意識

「あなたのいるべき場所がそこにある」ことを理解し、受け入れている。

・安全

 あなたの心身は危険によって脅かされない。

・生存

 あなたに差し迫った生命の危機はない。


 と、なっています。



 戦争や災害に見舞われてるときには、身を守ることが第一です。

 命に危険がなくても、いじめやパワハラ、セクハラなど人権の侵害にかかわる障害があれば、まともに思考も回りません。

 そういったものから解放されていても、自分の存在が受け入れられている場所が確保されていないのであれば、自尊意識は育ちません。

 居場所にあって、尊敬を得たり、尊重されていれば、自尊意識は高まるでしょう。

 そういった諸段階を経て、初めて人間は独立独歩の存在として振る舞えるようになる。


 ――というのが、その考え方です。まぁ異論もありますし、あんま杓子定規に飲み込んでも仕方ないんですけど。


 ただ、示唆には富んでると思うんです。ものごとについての関わり方が段階的であり、かつ段階ごとでのアプローチが変わってくる、ということ。


 例えば、生存欲求が満たされていない段階で必要なのは、安全の確保です。味方勢力が保持する軍事力の庇護下に入るとか、災害の影響範囲外から逃れるとか。ではこの行動によって、「自分はすごい奴だ!」って願望、満たせますかね?


 逆に言いましょう。「自分はすごい奴だ!」って気持ちを高めるのに必要なのは、より良い作品の完成、あるいは誰かからの承認、称賛。ところでこれらを受けとるとき、あなたの命が脅かされているとしたら、その承認は、あなたを守ってくれますか?


 各段階でのアプローチが全く違うにも関わらず、「より自分を高めたい」とひとつのアプローチで努力し続けても、先には進めません。また逆に、高い階層のアプローチを低い階層で援用してもマッチしません。いわゆる「ねっ、簡単でしょう?」とゆうやつです。世の中にはこの辺のミスマッチに気づかないままやり取りをしているせいで起こっている悲喜劇があまりにも多い気がしますが、まぁそこは余談。


 こんな感じの階層って、実は様々なところにあるんだろうな、って思うのです。算数数学なんかもそうだよね。足し算引き算がないと掛け算割り算がわかんないです。掛け算割り算がわかんないと方程式解けないです。方程式解けなきゃ微積分できないです。微積分できなきゃ現象解析できませんし、以後エンドレス。


 では、カク、は?


 ここ、間違いなくあるんです。が、マズローさんみたくくっきりとは色分けできそうにない。なので、少し考え方をアレンジして、切れ目のない帯状の分布に、深度の基準としての名前をつけておくといいのかな、って思いました。この基準を、マズローさんにならって五つ作ります。つまり、


・極めたい。(V)

 自分の表現を徹底的に磨きあげ、理想の表現形式を追求する。究極を目指す。

・高めたい。(IV)

 現状に満足したくはない。前よりいま、いまより次。できるだけ、速く。

・学びたい。(III)

 自分の文章に足りないものがある。そこを、少しずつ良くしていきたい。けど、そんなに慌てなくていい。

・楽しみたい。(II)

 文章カクオモシロ! これ趣味でやれてたら楽しくね! うっひょ!

・やってみたい。(I)

 文章カクのって面白そうだけど、どうなんだろ?


 ね。この辺の境界って、切れ目作りようないっすよ。けど、いまの自分がどんくらい、また目指したいところがどんくらい、みたいのが可視化されるのって、いざ高いところからこけました、ってときに大ケガや、最悪死ぬ(=筆を折る)リスクも減らせると思うんです。なので、このくらいの高さ、みたいな目安はあった方がいい。


 そして、ぼくは厨二だからね。こう言うのに、嬉々としてそれっぽい名前つけて乱用しますよ。その趣向に対する入れ込み具合を、切れ目なく分布させる。また、分布、その深度に対して、ある程度の区分をつける。よってこいつに、って名を与えます。


 フゥ! シュコウシンドスペクトラムゥ!


 例えば上記でいう「楽しみたい!」なら、趣向深度スペクトラムの深度IIです。そして「カクヨム・スタートアップ」は、深度Vを目指す深度IVが推測した、深度0を深度Iに持っていくための思考実験。


 深度IVを深度Vにするための方法論は、決して深度0を深度Iにする役には立ちません。これはもうどうしようもない。生まれてはじめて物語としてまとまった文章を書いた人に、ベテランさんが「自分の基準で」酷評決めるようなもんです。そんなんされたら、ほとんどの人が、一発で折れます。


 0からIになるのに必要なことは、書ききること、楽しむこと。そして大なり小なりの達成感を得ること。そういう推測から、「カクヨム・スタートアップ」は成り立っているわけです。


 ただ、ここで例外を挙げておく必要があるんですよね。世の中にはIの段階に踏み込んだ時点で、いきなりIVレベルのツッコミ喰らっても嬉々として肥やしにする輩がいるんですよ。まーあれです、そういうのについては天才だと思っといた方がいいよ。


 そして、もしあなたがそういう人だったんなら、「おっ、自分って割と天才じゃん?」って思っちゃえばいい。自尊感情なんていくらあってもオッケーです。客観視も同じくらい必要だけどね。


 脇道にそれました。


 ともあれこの趣向深度スペクトラム、あらゆるところにいます。「ヨム」だとか、イラストだとか、漫画だとか。音楽がらみなら作詞、作曲、編曲、ミックス、マスタリング、演奏、歌唱エトセトラエトセトラ。動画文化隆盛のこの世の中なら映像系も近くにいます。ゲームならプレイするのも、作るのも。っつーかあなたが触れるものの数だけ、そこには趣向深度スペクトラムが存在する、といっていいでしょう。


 で。ある程度の傾向はあるであろうにせよ、体験者個々で、各スペクトラムに対する没入深度は違います。今ここで語っている「カク」も、カクマンヨムマンのすくつであるカクヨムであるから、ともすれば絶対化されがちです。が、所詮我々が触れる広大な知覚の一部でしかないです。


 あなたが「カク」に対してどんな深度で接しようとも、それは誰が咎めるものでもありません。っつーか、咎めてくる奴は「俺に従え」って言ってます。逃げましょう、そんな奴からは。あなたはあなたのために存在しています。他人のために存在してやる義理はありません。


 あなたが感じていることは、あなただけのものです。「誰誰さんがこう言ってたし…」と思うのもまた自由ですが、「誰誰さん」はあなたじゃありません。なので、あなたの没入深度に適合した言葉を使っているとは限りません。あなたが動けたのは、その方の言葉をあなたに最適化する形で翻訳し、取り込めたから。もちろんその方の功績も大きいです、けれども、それ以上にあなた自身を褒めるべき。


 あなたはまず、あなたにとって最も羽を伸ばせる没入深度を探るべきなのです。そこに留まりたいのか、更に深みに行きたいのか。これを選ぶのも自由。っつーか「深い方がいい」なんてこたー、ありません。あなたがあなたであることを満喫できる深さ、がベストなのです。


 人間が深海魚のいるところに潜ったら、水圧で潰れます。逆に深海魚が水面近くにまで浮かんできたら、浮き袋が破裂して死にます。深度なんてな、そんなもんです。


 あなたに適した深さを、ぜひ見出してください。



 あー。ちなみに「他者へのリスペクト」もまた重要ですよ。


 尊敬する人、すげえ人がいる。あの人の見ている景色を見てみたい。なので、そのひとの横に行きたいがために頑張る。これは深度を上げるためにも重要なモチベーションです。ここについては否定するつもりありません、というかこれなしで深入りしてける人間なんてそうはいないんじゃないかな。


 ただし。それでも結局、その人なりの上限と、あなたなりの上限は違います。そこは見誤らない方がいい。まぁやってみたら、あなたの上限のほうが圧倒的に高かった……なんてこともちょくちょくありますしね。「ものすごく重要なマイルストーン」としてその人を見ておきましょう。


 最終目標みたいにしてしまうといろいろまずい。

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