第四幕 お茶会をしながら
1
「強いか弱いかなんてどっちでもいいのよ」
姫はそう言って、紅茶に砂糖とミルクを入れました。
「どっちでも可愛いっていうのが、女の子のいいところだもの。男の子って可哀想よね。強くなきゃ、全部無価値なんでしょ?」
*
「ロン」
東一局0本場
シンデレラ→グレーテル(3900) リーチ・
「あっ……」
「あ、じゃないよ」シンデレラの後ろにいた王子のシローが、彼女の頭でベシっと小気味よい音を鳴らした。「普通に宣言牌の跨ぎでしょ。何粘ってんのさ」
「ご、ごめんなさい……」
シンデレラの箱から、チェスの駒のような小人たちが宝石で作られた点棒を4本持って桃色のマットの上を駆けていく。他の小人たちが場に残ったカラフルな牌をかき混ぜ、奇矯な笑い声を上げながら"山"を作り直している間に、姫たちは横の小テーブルから紅茶をすすったりしている。シンデレラは目を泳がせながら、こっそりと背後のシローを振り返った。
「ええと、またぎって何……」
「それでぇー?」シローは無視してステッキでチッチと床を鳴らす。「麻雀とかどうでもいいんだよ。クルミの受け取りに向かったウチの若いの
シローとシンデレラの目がゆっくりと、車椅子に座った男を向く。
4代目ヘンゼル"
「……露骨に喧嘩を売ってきた挙げ句に時間稼ぎ。死ぬほど舐めたマネされてる割に僕は相当我慢してると思うんだけど、そのあたりどうお考え?」
ヘンゼルは、答えない。桃色の卓の上で小人たちが牌をかき混ぜて並べる音だけが会場に響く。
「……死んでんじゃないのこいつ?」
「死んでないわよ」ヘンゼルの膝に行儀よく座っているグレーテルが、澄ました顔でそう答えた。「無口なのよ。ね? お兄様」
グレーテルの声に答えて、ヘンゼルの手がわずかに動いた。おもちゃのように不自然な動きで妹の腰に腕を回す。顔は上げない。グレーテルは目の前に並べられた輝くピンクの牌を見て、顎に手を当てうーんと唸った。
「なんか難しい手だね、お兄様」
「……おい!! 次男坊!!」しびれを切らしたシローが、兄妹の背後に控えている野いちご組の幹部たちの方へ指をチョイチョイと動かした。「わかったからお前がこっち来いよガラシちゃん。君らの……あれだ、無口なお兄様とじゃお話にもなりゃしない」
暗がりの中から、メガネを掛けた金髪の男が歩み出た。「……恐縮です」
「で、クルミはいつ返してくれるの? 謝罪とケジメは? お前か兄ちゃんの指でも詰めてくれるのかな?」
「うちはクルミを盗ってませんよ。仔細はお伝えしたはずですが」ガラシはあくまで冷静にそう返す。
「それを信じろと?」
「ええ、事実です」
「どうにも話が進まないね……って何してんのさこのバカ女」また、シローの手がシンデレラの頭を叩いた。
「いっ!?」
「その手で
「ごめんなさい……」
「怒りん坊さんですねえ」
クスクスクスと、闇から男の笑い声が響いた。
「好きに打たせてあげればいいじゃないですか。所詮はお遊びなのに」
「へえ……お前が口出ししてくるんだ」シローの首と目玉が、声の方を向く。「りんご組には関係ない話だと思ってたけど」
「これはこれは寂しいお言葉……悪魔が山羊の尻尾を噛み切るより永い昔から、ずっと私たちは友だちでしょうに」
背の高い王子は雪が降るように静かに笑い続けている。りんご組組長<怪王子>
刈子はちらりと真下に目をやり、ひゅーと軽く口笛を鳴らした。
「おや、迷っているのですか? 私の愛しきスノーホワイト」
「そうなのカルコ。ねえ、これ切ったら、ええと、りーちが、できるのよね?」
白雪姫が、満面の笑みで刈子を見上げる。夜を星空ごと飲み込んだような真っ黒な髪と、数いる姫たちの中でも至高と名高き完璧な美貌。それとは相反する天真爛漫な愛くるしさで、数多の男たちの心を狂わせてきた魔性の姫君である。
「ええ、できますよ」
「やったぁ! りーちぃ!!」
ピンっと、真珠の点棒が捨て牌の上に出現した。
「早いなあもう」グレーテルが頬を膨らませる。「ガラシ兄さんならどうする? この手で頑張る価値あるかしら?」
「うーん、俺なら……」
「だからうるせえっての」シローの白い顔が苛立ちに引きつる。「いやマジでそろそろクルミの話を……ってだから何やってんのシンデレラ。そんな
「え、あ、ごめんなさい……」
「で、お前らはクルミを返す気がないってことで……」
「ツモ!!」
東一局1本場
白雪姫(跳満3100・6100) リーチ・一発・
「やーん」グレーテルが舌を出す。「親被り痛いなあ」
「……クソみてえな単騎」シローも顔をしかめる。「しょーもな」
「まあ、お口が悪いわ」白雪姫は上機嫌に笑っている。「ねえ、ラプンツェル?」
「ええ、ホントに……はしたない」
シローは何か言い返そうとしたが、すぐに首を横に振って目を細めた。
「……話進まないからしばらくお前ら無視するね」
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