生まれてきてくれて、ありがとう

moe

プロローグ

海辺にて

 ―――私は、幸せになれない。なる資格もない。


 それなのに。そう思っていたのに。 



「あなたを大切に思ってくれている人は絶対にいるんです」



 そう言って、目の前の彼女は私の両手をぎゅっと握った。とてもあたたかい手だった。


 彼女のはしばみ色の瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。


 夕日がその頬を照らして茜色に染め上げていく様は、とても美しくて―――。


 砂浜にざー、ざー、と流れる静かな波の音と、鼻腔をくすぐる潮の匂いを鮮明に感じる。


 どこからともなく吹いてきた、人の体温のような穏やかな風が、彼女のまっすぐな黒髪を揺らした。



 私たちを撫でてくれている、そんな優しい風だった。

 その風は、私の涙さえも飛ばし、その雫は海に消えていく。

 嗚咽が静かに流れる。その声の主は、私だった。



 ―――ねえ、私は幸せになってもいいのかな。愛されても、いいのかな。

 





 その時流した涙と、胸焦がしたこころを、私は一生忘れないだろう。


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