ビン詰のハチミツ
カゲトモ
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「夕方の空、見ました?」
「えぇ見ましたよ」
偶然、扉を開いた時に見かけて急いで斉藤君を呼んだもの。
「とても不思議な色をしていましたね」
赤い夕焼けじゃなくて、黄色と橙のマーブル空とまるでハチミツを溶かしたような空気が街を包んでいた。深呼吸をすると口の中に甘さが広がるんじゃないかと錯覚するくらいに。
でも彼女はさらっと言ってのける。
「変な空でしたもんね」
「え、変、ですか?」
俺の中ではすごく綺麗な空だと思ったけど?
「だって普通の夕方の空と違ったじゃないですか」
「確かに珍しいですけれど」
あまり見かけない夕日だしね。でも普通じゃないからって変だって言うのもどうよ?
「とても美しい夕日でしたよ」
「普通美しい夕日って言うのは、真っ赤に燃えるような夕日を言うんじゃないんですか?」
確かにね。一般的にはそうかもしれない。それじゃぁそれ以外のもので胸を打たれるようなものに出会ったらどう表現したらいいのさ?
「美しいに普通と言う言葉は必要でしょうか?」
普通を“一般的”だと解釈するのか“枠に当てはめる”だと解釈するか。それならあの空を美しいと思った俺は普通じゃないのかい?
彼女はそれを聞いて、ニッと口角を上げた。
「マスターならそう言うと思いました」
そう、ふふふ、と笑う顔はおちゃめ、と言うよりは小悪魔的で。細めた三日月の瞳は色素の薄いカラー、オレンジのリップが彼女の元気の良さを表しているようだった。
「あたしもそう思ったもん」
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