ビン詰のハチミツ

カゲトモ

1ページ

「夕方の空、見ました?」

「えぇ見ましたよ」

 偶然、扉を開いた時に見かけて急いで斉藤君を呼んだもの。

「とても不思議な色をしていましたね」

 赤い夕焼けじゃなくて、黄色と橙のマーブル空とまるでハチミツを溶かしたような空気が街を包んでいた。深呼吸をすると口の中に甘さが広がるんじゃないかと錯覚するくらいに。

 でも彼女はさらっと言ってのける。

「変な空でしたもんね」

「え、変、ですか?」

 俺の中ではすごく綺麗な空だと思ったけど?

「だって普通の夕方の空と違ったじゃないですか」

「確かに珍しいですけれど」

 あまり見かけない夕日だしね。でも普通じゃないからって変だって言うのもどうよ?

「とても美しい夕日でしたよ」

「普通美しい夕日って言うのは、真っ赤に燃えるような夕日を言うんじゃないんですか?」

 確かにね。一般的にはそうかもしれない。それじゃぁそれ以外のもので胸を打たれるようなものに出会ったらどう表現したらいいのさ?

「美しいに普通と言う言葉は必要でしょうか?」

 普通を“一般的”だと解釈するのか“枠に当てはめる”だと解釈するか。それならあの空を美しいと思った俺は普通じゃないのかい?

 彼女はそれを聞いて、ニッと口角を上げた。

「マスターならそう言うと思いました」

 そう、ふふふ、と笑う顔はおちゃめ、と言うよりは小悪魔的で。細めた三日月の瞳は色素の薄いカラー、オレンジのリップが彼女の元気の良さを表しているようだった。

「あたしもそう思ったもん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る