ファラオ発掘5分前

ヤミヲミルメ

ファラオ発掘5分前

 一九二二年、エジプト、王家の谷。


 ツタンカーメンのミイラが自分の王墓の玄室で不審な巻き物パピルスを眺めて深き想いにひたっていると、急に外が騒がしくなった。

 アメリカの考古学者のハワード・カーターがやってきたのだ。


「ヤバイ! 発掘される!」


 ツタンカーメンは飛び上がって大慌て。

 エジプトの古き闇たるこの禁断の巻き物パピルスを、他者に見られるわけにはいかない。


 外からの声は、扉を早く開けたいとか、写真を撮りたいから五分だけ待ってくれとか言っている。

 ゴフンって何だ!? ゴハンのことか!?

 だったらゆっくり食べててくれ!!


 ああ、どこに巻き物パピルスを隠そう。

 ベッドの下にしようか?

 ライオンの飾りがついた、黄金のベッド。

 ダメだ。ここじゃあすぐに見つかってしまう。


 真面目ぶった学者達が何か話してる。

 もしもあいつらに極秘の巻き物パピルスを見られたらと、想像するだけで顔から火が出そうになってしまう。

 ノロってやる! この巻き物パピルスを見られたら、全員、ノロいコロしてやる!


 カノポス壷に入れようか?

 カノポス壷は、ミイラを作る際に、腐りやすい内臓を取り出して、特別に保存するための容器だ。

 これなら中を覗いてみようとするヤツなんてそうそう居るまい。


 普通はカノポス壷のふたの部分には神様の像がついていることが多い。

 けれどツタンカーメンのカノポス壷は特注品で、ツタンカーメンを模した人形になっている。


 人形が、主の顔を見つめてきた。

 やだ、恥ずかしい。

 この恥ずかしい巻き物パピルスを、自分に似せた人形の中に入れるなんてとてもできない。

 これをここには隠せない。


 だけど時間がない。

 ツタンカーメンは絶対ナイショの巻き物パピルスをにぎりしめてジタバタした。

 学者どもにこんなのを見られたら、王としての威厳があああっ!!


 どうしよう! どうしよう! どこにしまおう!?

 衣装箱の隅でも矢筒の奥でも、すぐに見つけられてしまいそうな気がする。


 石の扉が重い音を立てて開き始める。

 もうダメだ! ヤツらが入ってきた!


 玄室は地下にある。

 入り口から、階段を下りてくる音がする。

 ツタンカーメンは大きく振りかぶり、玄室の奥の宝物庫へ、自分のあらぬ想いをあらわにしてしまう巻き物パピルスを力任せに投げ込んだ。


 ガタガタ! ドサドサ!


 うずたかく積み上げられていた金の神像や宝石の装身具などの宝の山が崩れて、巻き物パピルスもその中に巻き込まれる。

 これでもう巻き物パピルスは、ちょっとやそっとでは見つけられまい。


「前室も副葬室も、すっごい散らかってるけど、ま、いっか」

 ツタンカーメンのミイラは棺に戻り、ふたをして、タヌキ寝入りを決め込んだ。






 少年王ツタンカーメンの財宝は、あまりに数が多すぎて、なかなか研究が進まず、発見から百年近くが経った今でも、すべてを調べられてはいない。


 ツタンカーメンのポエムノートパピルスが発見されたとの発表はまだない。

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ファラオ発掘5分前 ヤミヲミルメ @yamiwomirume

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