とあるババアの黙示録
ぶいさん
第1話
目を開けると視界が砂で埋まっていた。ここはどこの砂丘か砂漠か。明日は日曜日だからって夜ふかしをした。夕刻からずっと作業ゲーをして眠りに就いたのは空が白み始めた頃…つまり朝じゃった。季節は夏まっ盛りで、エアコンなしじゃあ、うっかり熱中症って感じの気温と室温で、そう、だからわしは、エアコンをつけた部屋で快適に(ここ重要!)ぐーすか寝ていたはずなのじゃー。それがどうだ…気づけば見知らぬ場所…というかここはマジでドコなのじゃ…!?!
眠りに就く前、自分の家の自分の部屋にいたのでもちろん裸足だし、家では裸族のケがあるので、ラフを通り越してほとんど裸みたいな格好でだらだら過ごしていたもんだから、悲しいことに肌着しか身につけていない。上からはカンカン照りの太陽がギラギラと照りつけてきているではないか。強烈な日差しにじゅわーと汗が体に滲む。うーむ、これは夢じゃ、そうあってほしい。うわーん。などと現実逃避していたい気持ちが汗とともに口から溢れていった。ううう。
ともかく、まずは現状を把握せねばと辺りを見回す。キョロキョロと見回してみても目の前は一面、砂、砂、砂と砂しか見えぬ。上も下も右も左も砂と埃と砂である。目や鼻や口に砂が入ってきて、飲み込みかけて咳き込んだ。遮るものがないので手のひらで口を覆う。片手でひさしを作り目を凝らせば、その昔は建物だったかもしれない大小さまざまな瓦礫や、金属の杭、雑多にレンガなども砂の上に転がっている。近づいていくと、今にも崩壊そうなボロボロの廃屋だ。周りには枯れ草に蔦が絡みついたような奇っ怪な植物も生えていた。ひとまず日差しを避けるため、壁が崩れたかろうじて建物の様相を呈している廃屋へと逃げ込んだ。
廃屋は石積みの簡素なもので、元は住居ではなく倉庫か何かじゃろう。壁の大部分が崩れており、屋根は半分近くなくなり空が見えている。扉もないので砂は入り放題だ。それでも壁に遮られていくらか日陰ができている。僅かな日陰へ体をすべり込ませると真夏日から夏日くらいに体感温度が下がったような気がする。ようやく一息つけた。
こんななりではどこへも行けない。なにか使えるものはなかろうか。廃屋内を物色しよう。使えるものは持っていこう。壁に貼られた地図は劣化しているが擦り切れた文字は知った世界の共通語だった。どこぞの昔語りのようにサイズの合う服や靴が都合よく落ちているような運のいい展開にはならなかった。一体どれだけ前から放置されていたかわからない、床に埃まみれで転がっている布の塊を広げた。バサバサと払うと虫の住処になっていた。羽虫や長虫には悪いが、こちらも死活問題なので大目に見て欲しい。欲しければわしから奪い返してみるがよい。うひひ。昔は誰かの衣服だったようだが、(不幸中の幸い?と言うにはハードルが低すぎるか?)ボロボロに劣化しているおかげで非力なわしでも難なく引き千切ることができた。ボロ布もいいところである。
無造作に晒している白い肌に、子供特有の丸みを帯びた凹凸のない体。水をはじく肌だ。うむ、羨むといいぞ。覆う場所は多くはない。長い布をちんまい体に巻きつけて、腰あたりで紐で縛れば筒状に体を覆える。長い袖ものはまくりあげて身に付け、千切った布で足や口元を覆う。落ちてすぐ屋内に避難できたのだから、この際汚いだとか織り目が粗いだとか細かいことはよしとしよう。
見知らぬ場所で目が覚めたにしては、妙に落ち着き払っている?「目覚めて見知らぬ場所にいる」ということは、わしにとっては、よくあることじゃ。慣れたくはないものじゃが、繰り返すことでいつしかこの難解な性質に慣れてしもうた。この厄介で難解な特殊能力は、範囲が無駄に広い夢遊病のようなもので、わしは残念ながらその能力をコントロールすることができない。わしはそれらを「落ちる」だったり「放り出される」と言う。誰かに呼ばれ、その誰かのお話が終わるまで、わしはその世界から逃れることはできず、自分の世界に帰還するまでわしの時間は流れない。その誰かは、人であったり人でなかったりする。これが大変面倒であり、落ちる上でよいことでもある。
ところで、わしは人の子供に模した体を持っているのだが、これは本来の姿とは異なる仮の姿である。普段、どこにも属さないとある異次元に作った安心安全なホームで、多くの
とはいえ、若い時分はわしも、子供を連れて異世界へ冒険へなーんてこともしたものだ。ドラゴンを殺して解体して売り飛ばしたりな?まあそれはわしがまだぴちぴちだった頃のことじゃし、今は忙しいので昔話はまた今度。
ぶち壊れ枠だけになった窓辺で砂嵐を眺め、感慨に耽けるわしの顔に、風に飛ばされた大量の砂がぶっ掛かったので、ぺっぺと口の中の砂を吐き出す。苦い。こうしていても何も始まらないが、体をなんとなく覆っただけのボロ布とこの非力な体躯ではどこへも行けぬし、めんどくさいのでどこにも行きたくない。果てしなくめんどい。誰か通りかからないものか。思案して長いため息を吐いたわしは、仕方なくまた歩き出したのじゃった。
暑い。砂が熱い。熱気に包まれて暑いっていうかこれはもう痛い。水分を含まない乾いた空気が熱風となって体を襲う。口元を頭をと覆ってはいるが、体中の水分が持っていかれて干からびそうだ。じりじりと頭上から突き刺す陽射しと、白い砂に反射する照返しでまるでわしは鉄板の肉。じゅうじゅう焼けたら美味しく食べて欲しい。
むむ、あれはなんだ、視線の20mくらい先に何かが見える。人か?砂漠に人が?全身砂と同化しているような色だが、ローブやマントというような服装ではない。周辺住民とは言い難い。目を凝らしてよく見ると風に乗った砂が目に入った。痛い。
あれは迷彩服のような、戦闘服のような…土と草の色を模した柄物のメットにゴーグルに口布、ジャケットにトラウザー、それにショートブーツ。肩には子供を入れて運べそうな大きなサック。それも一人や二人ではない。ここはどこなのかわからないからアレだが、ガバガバな推測ならばわしにもできる。おそらくはここにおいての軍隊かなにかなのじゃろう。十数人の歩兵とその背後からは車体の高い装甲車両だ。タイヤが分厚く妙にでかい。身を潜めようにも歩き出した場所のように瓦礫が重なっているわけでもなく、この辺りには身を隠せる場所が見当たらないため、このままここにいれば見つかってしまうだろうと想像がついた。
いやしかし、わしは家でのんびり過ごしたい派で、活動的ではないし、人より長く生きてはいるがだからといって博識でもない。たーだ、長いこと死ねず生き続けているだけだ。飯は食べなくてもいいが、美味しいご飯は大好きじゃ。それに寝るのも大好きだ。歩くのが面倒だから普段は抱っこで移動している。この体はコスパが悪い。四の五の言わずに甘やかすのじゃー!可愛らしい女児だぞ(`・ω・´)フンスッ!
そういうわけで、わしはめんどいがため、彼らに発見されることを選んだのじゃよ。
「あれれー?どうしてだろー?わしはなぜ拘束されているのかなー?」
軽装の子供が一人きりで、街から数十キロも離れているらしい砂漠の真ん中から現れたわけなので、怪しまれても当然っちゃ当然で、手足だけなく胴までしっかり拘束されて固定されている。息苦しいなー。息が詰まるなー。ガチムチの男達にしっかり脇を固められていた。うーむ、暑苦しいが砂漠と比べればまあまあマシじゃろ。とりあえず仔牛よろしくドナドナ運ばれてみるか。
ちょっとそこのお兄さん、水を恵んでくれんかのー。わしは喉が渇いて仕方ないのじゃー。
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