双子と双子の恋と愛
ムーン
一日目 昼 妹
昨日から双子の姉が行方不明になっている。
成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能……etc. 姉は完璧を擬人化したような人だ。
対する私は何をやっても中途半端で、双子の出来ない方なんて呼ばれ方をする。親も私には何の興味もないようで、私が一晩帰らなくったって何とも思わないだろう。
だが、今回居なくなったのは姉だ。誰も彼もが大騒ぎして、好き勝手に話を作っていく。私の耳によく届くのは「妹の方が居なくなればよかったのに」という話だ。親もそう思っていることだろう。
不貞腐れて、道端の小石を蹴る帰り道。目の前に現れたのは見慣れた顔。
「やっほ、元気?」
この話し方に、第二ボタンまで外したシャツ、何よりもこの人を苛立たせる嫌らしい笑い方。
同級生にはもう一組双子がいる、かなり珍しい事だと思うし、何より私達と同じように上が完璧で下が出来損ないという奇跡の一致。で、これは私の好きな兄の方ではなく嫌いな弟の方。
そっくりな見た目が余計に腹立たしい。何の因果か私に話しかけるのは決まって弟の方だ。兄の方は私に目を向けたこともない。
「元気なわけないでしょ、馬鹿なの?」
「いやいや中間テストは5番目だったよ、馬鹿じゃないって」
なんの断りもなく横に並ぶ。
「下からでしょ」
「よく分かってらっしゃる! 超能力者かな?」
「鬱陶しい、あっち行ってよ」
「方向一緒じゃん、仲良く帰ろーよー」
そう、誠に遺憾ながらこの男とは家が隣同士。いわゆる幼馴染、とても不本意ながら。勿論兄の方は大歓迎だ、なんなら同じ家がいい。
「あ、なんなら寄り道しない? 兄さん落ち込んじゃってて帰りづらいんだよねー。一杯くらいなら奢るからさ、ねっ、行こ?」
「……嫌に決まってんでしょ?」
「あー! そのゴミを見るような目! 君ってホント僕のこと嫌いだよねー、きーずーつーくー!」
わざとらしく大声を上げて抗議する。本当に、本っ当に嫌いだ、この男。
兄の方はもっと大人で、優しくて、紳士的で……彼の誘いならどこにでもついて行くというのに。
「仕方ないなー、今ならもう一杯奢ろう!」
「……もう一声」
「うーん……パンケーキ!」
「早く行きましょ」
「うっわぁ現金、まぁいいけどね」
駅前のカフェ、このド田舎で唯一スイーツが楽しめる場所で女子の憧れの的。学校でも同級生の女の子達は皆ここの話をしている。姉もよくここに来ていた。
私は……姉と違って友人が少ない、いないと言ってもいい。だから、このカフェにはいつもこの男と一緒。誠に不本意ながら、ね。
「新メニュー出てるよ、えっと……うわ、高い」
ぼったくりじゃん、なんて小さく呟く。
確かに、他のメニューと比べるとかなり高い。
「で? どれ頼むの? 僕としてはこのトッピング無しのしょぼいヤツにして欲しいんだけどー」
「新作がいい。コーヒーはいつもの」
ダメ元で頼んでみる、どうせ断られる。ちょっとした冗談のつもりだから、ちゃんと他のものを別に選んでいる、いつも頼んでいる苺ソースのパンケーキ……値段は中ほど。
「えー、高いのに。まぁいいよ。奢るって言ったもんね」
「え? いいの?」
「いいってば、早く頼みなよ」
本気で言ったわけではなかったが、新作には興味がある。奢ると言っているのだから甘えてしまおう。
この男とはいつも他愛もない話をする、だからいつ何を話したかなんて覚えていないし、気分を悪くすることもない。私達にとって最も嫌な話題は勿論、姉 兄の話。だからこの日も、姉が行方不明になっている今日も、姉の話はしない。
あちらから話を振ることもない、その辺はわかっている男だ、だからこうやって放課後の寄り道に付き合うことも少なくない。バイトの愚痴だとか、先生の悪口だとか、そんな話。
カフェを出て、舗装もされていない砂利道を歩く。
もう日も傾いて、どこもかしこも真っ赤だ。
「夕日、綺麗だね」
「そう? 僕はあんま好きじゃないな、血の色みたいで気味が悪いよ」
せっかく人が感傷的になっていたのに、雰囲気をぶち壊してくる、こういうところが嫌いだ。
「人が綺麗だって言ってるんだから同意しなさいよ、だから友達出来ないのよ」
「綺麗だって思わないわけじゃないんだけどね、不気味さが隠れてるっていうか……薄気味悪いって感じ? そう、まるで…………僕の、兄さんみたいな」
少し声を低くして、小さくして、人に聞こえないようにしてるみたいに呟いた。私にはしっかりと聞き取れた。
お兄さんのどこが気味が悪いっていうの、と反論が喉まで出かかって、また引っ込んでいった。
赤い景色を眺める彼の目は睨むようで、横顔はとても冷たかったから。
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