第15話 光太郎と時間旅行の謎

 ついさっき僕が光太郎にそれを聞いた時、彼は僕や宏樹に何かを聞くために、ある人物に送られて来たと言っていた。光太郎はその人物が、なぜ彼を今日に送ったのか気づいたらしい。

 彼は渡していたスマホを僕に返してから言った。


「高杉さんにも見せたこの事件についてのSNSの意見、これを見て分かったんだ。今までの当たり前を受け入れるしかしなかったこの時代の高校生の考えは、隆之介たちの行動を知って反発するように変わり始めた。今こんな意見を現実で言うのは一部の高校生だけかもしれない。でも隆之介たちが起こしたこの小さな変化は、月日が経ってこの高校生たちが権力を持つ頃になると、きっと主流の考えになっていくよ。俺には分かる。きっと隆之介たちが行動を起こしたこの日が、若者の流れを変えるきっかけになった日、つまり今日が歴史の流れの分岐点だったんだ。だから俺はこの日の隆之介たちのサポートをするために、この時代に来たんだと思う」


 光太郎の言葉を聞いて少しホッとして、僕は言った。


「未来人にそんなことを言ってもらえるとありがたいよ。俺たちが今日やった事は無駄じゃなかったんだな。ちゃんと未来のためになったんだな。それなら良かった」


「うん。でもやっぱり今日は隆之介たちの時代だ。やることが終わった未来人はさっさと帰るとするよ」


「そうか。いろいろありがとうな。もし光太郎がいなかったら、僕は何もできなかった。数時間しか一緒にいなかったけど、なんだか寂しくなるよ」


「こっちこそありがとう。過去を変えるような体験なんてなかなかできないよ」


 光太郎は僕たちが過去を変えたと思っていたようだが、僕はそうは思っていなかった。少し前に僕は、自分たちがこのタイムトラベルで何をしていたかについて気づいていたのだ。僕はそのことを彼に伝えた。


「そのことなんだけど、僕たちは過去を変えてなんていないと思うんだ。多分、光太郎が来てタイムトラベルすることも含めて、すでに決まった歴史を辿っただけだと思う」


 光太郎は僕の言葉を聞いた後、首をかしげた。彼はタイムマシンを使ってこの日に来た張本人だが、やはり気付いてなかったみたいだ。僕は彼に、僕たちがやってきたことを順を追って説明した。


「まず、僕たちが教室で出会って屋上に向かう宏樹を見送った後、廊下の隅で話しただろ。その時に僕たちは女性の悲鳴を聞いて、教室から宏樹が一階で倒れている姿を見た。その姿や周りの人の話を聞いて僕たちは当然、宏樹が飛び降りたのかと思った。そしてその事実を変えるために、タイムマシンを使って過去に飛んだんだ」


「うん、そうそう。数時間前のことだけど、いろいろあったからずっと前のような気がするよ」


 光太郎はまるで中学の同級生と思い出話をしているかのように、のんきな相槌を打った。僕の言いたいことが伝わっていないようなので、僕はさらにわかりやすく彼への説明を続けた。


「でも、その後のことを思い出してみろよ。僕たちは宏樹が飛び降りたように見せかける計画を立てて、発見者役の舞に叫んでもらって、その噂も広めた。もう分かるんじゃないか?つまり?」


 僕が少しずつヒントを出して、光太郎に回答を促すと、彼は自信なさそうにこう答えた。


「つまり、宏樹さんが飛び降りた過去を、俺たちが飛び降りたフリをするように変えたってことじゃないの?」


 彼はまだ僕が考えている結論には至らなかった。なので、もう少しヒントを出すことにした。


「違うよ。じゃあもっと思い出してみて。タイムトラベルする前に舞と会った時、光太郎とは初対面のはずなのにあいつは妙に馴れ馴れしかったし、変なこと言ってただろ。それに、宏樹が飛び降りたにしてはかなり落ち着いてた。さらに言えば、僕はその前に高杉に走って追いかけられたけど、なぜかすぐに逃げ切れたんだ」


 まだ光太郎が分かったようなそぶりを見せないため、僕はほぼ答えのような ヒントを彼に出した。


「僕たちが最初に教室から倒れていた宏樹を見た時、それが本当に宏樹が飛び降りた結果なのかどうか確認したか?周りが言ってたからそれを信じただけじゃなかったか?」


 僕がそう言うと、光太郎は少しの間考えていた。そして頷きながら話し始めた。


「なるほど、分かったよ。俺たちがタイムトラベルする前に見た、倒れていた宏樹さんと急に聞こえた女性の声は、未来の僕たちが立てた計画を実行している途中の、飛び降りたフリをする宏樹さんとその噂を広めようとしていた舞さんのものだったってことだね。俺たちはタイムマシンを使う前に、未来の俺たちの計画にまんまと引っかかってたのか」


「そう。そうでないと辻褄が合わないんだよ。タイムトラベルする前の舞の言葉もそうだし、高杉から逃げ切った件については、未来の僕が助けなかったら、今日タイムトラベルできてたかどうかも怪しい。結局僕たちは過去を変えようとした結果、未来の自分たちがやったことと全く同じことを再現してたってこと、つまり過去も未来も変えてない。タイムマシンを使って、宏樹たちと僕の計画を実行するという決まった歴史を辿っただけだ」


 僕が説明すると、光太郎はすこしがっかりしたように言った。


「ふーん。夢のない話だな」


「宏樹をうまく助ける方法として、そんな夢のない方法しか僕には浮かばなかった。それに『過去はそう簡単には変わらない』って言ったのは光太郎だっただろ」


「そうか。その言葉ってそういう意味だったのか」


 光太郎は独り言のようにそうつぶやいた。


「それは僕にはよく分からない。でも過去は変えられなかったけど、宏樹も助けられたし、最善の選択がきっとできたんだと思う。光太郎がこの日に来たからこそできたことだ」


「ありがとう。隆之介がそう言うなら、俺は安心して未来に帰れる」


 光太郎はそう言うと、部屋の出口に向かって歩き出したが、すぐに何か思いだしたような様子で僕に言った。


「他の人に見つかるとまずいから、屋上まで一緒に来て見張ってくれない?」


「もちろんいいよ」


 僕はそう言って、光太郎と一緒に屋上へ向かった。


つづく

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