第12話 作戦遂行のじゃまもの

 僕の考えた計画がいよいよ実行されるときになった。

 まず僕と舞はケータイで宏樹が書いてくれた告発文の文章の写真を撮り、情報を広める準備をした。それから、僕と光太郎は校舎の屋上へ、舞と宏樹は校舎の一階へと向かった。


 宏樹の剣道の道具を持った僕と光太郎は屋上に着いた。遮蔽物が全く無い屋上に着いた僕たちは、まだ夕日とは言えない太陽の強い日差しにさらされた。そして、光太郎に道具を落とすための準備をしてもらいながら、僕は舞にケータイで準備完了のメッセージを送った。舞からも予定の場所に着いたとの返信があった。

 僕たちがこれを落とせば、作戦がついに始まる。そう思いながら僕は光太郎と準備を終えて、いつでもそれを落とせる状態になったのだ。


「じゃあ、落とすぞ」


「うん」


 光太郎に一声かけて、僕たちはそれを屋上から地面に落とした。地面に当たった時かなり大きな音がして、その近くに宏樹が倒れた振りをしているのを僕たちは上から確認した。前にも見たような光景だと思ったが、ボーっとして騒ぎを聞いた人にこの状態を見られては面倒なことになる。そのため、舞が倒れた宏樹を見つけた振りをする前に、急いで僕たちは移動を始めた。屋上から校舎に入る途中、舞の悲鳴のようなものが聞こえた。本当に何かあったんじゃないかと思わせるような声で、予想以上に頑張ってくれていた舞に対し僕はありがたいと思いながら、光太郎とともに屋上をあとにした。


 校舎に入った後僕はスマホのSNSを利用して、とりあえずクラスメイトなどの学校関連のアカウントに、宏樹が飛び降りたらしいということと、告発文のことを伝えた。舞もそのことを広めている様子が見れた。一通りスマホを操作し終えると、僕と光太郎は校舎三階のコンピュータ室に向かった。その途中で過去の自分たちに出会うとまずいため、教室から屋上までの最短距離になる階段を使わずに遠回りしていった結果、特に何事もなく無事にコンピュータ室に着くことができたのだ。


 僕たちは学校名義のパソコンを使って、新聞社などのマスコミに告発文の画像と共に、剣道部全国四位の生徒が飛び降りたという事件をメールで知らせた。それと同時に舞と僕が広め始めたSNSの様子を見ると、僕が思っていた以上にこの事件の噂は広まっていたようだった。


「光太郎、見てくれ。」


 そう言って、僕は光太郎にSNSの画面を映したスマホごと彼に渡した。


「へー、この学校の人以外にも意見してる人がいるんだな。学生じゃなさそうな人の意見もあるね」


 彼は僕のスマホのSNSアプリを操作しながら言った。もともとの宏樹の顔の広さに加えて、宏樹が剣道の全国大会で結果を残した生徒だという理由から、この学校の中はもちろん、他の学校の生徒やその保護者などにも伝わったみたいだった。そして光太郎はその内容を読み上げて僕に伝え始めた。


「『確かに、部活をやってるせいでできてないこともある』とか『部活の時間がもっと少なくなればいろんなことができるかも』みたいな隆之介の考えに賛成の意見もあるけど、『高校生は部活で厳しい指導を受けるべき。そういうことに耐えていくことで、社会で生きていくのに必要な忍耐力を付けるのだ』っていう反対の意見もあるよ。他にも『こんなことが起こりうるなら、部活の指導方法は一から考え直した方がいい』とか『自殺まではいかないにしても、僕たちも不満があるなら行動を起こすべきだ』みたいな考えもある。俺たちにとって良い意見ばっかりじゃないけど、この事件のことは結構広まってるみたいだよ」


 光太郎の言うとおり、この事件についてSNSにあったコメントの中には、部活をもっと楽にするべきだという宏樹の告発文の内容に対して、否定的な意見と肯定的な意見の両方があった。ざっと見た限りでは、高校生の意見には肯定的なものが多く、それ以上の人の意見では否定的なものが目立っていた。


「そうか。でもどんな意見であれ、その噂が広まっただけで今の段階での目標は達成された。あとはマスコミで良い取り上げ方をされれば完璧なんだけど、それはまだ分からないな」


 僕が彼の言うことを聞いてそう返すと、光太郎は僕のスマホを見ながら言った。


「そうだね。そればっかりは俺にも分からない。でも」


 彼が何か言いかけた直後、彼の手にある僕のケータイが鳴った。何かメッセージが来た音だった。


「誰からだ?」


 僕がそう聞くと光太郎はすぐに答えた。


「舞さんからだ。『私ができることはやったよ。これから部活に顔出して後輩にも話してみる。終わったら教室で待ってる』だってさ」


「そうか、舞の方も何事もなかったか。良かった」


 僕は彼と言葉を交わしながらも、舞のメッセージを聞いて、自分の中にデジャブのような違和感を覚えていた。


「ん?なぁ光太郎、舞が部活に顔を出すって話、さっきも聞いた気がしないか?」


「俺もそう思ってたけど、はっきり思い出せないから、気のせいかなって思ってた」


「そうだな。別にいいか。舞が何度も同じ話をしてるんだろう」


 光太郎にそう言ったが、実はその時、僕はこのタイムトラベルの裏で何が起こっているのかという事に気づき始めていた。光太郎と一緒にタイムトラベルしてきた時に彼が言った『過去はそう簡単に変えられるものじゃない』という言葉の意味も僕はこの時理解し始めていたのだ。


「もうここで出来ることは無いから、僕たちも教室に向かおうか」


 僕は座っていたパソコンがある席から立ち上がって、光太郎に言った。


「うん。俺はもう未来に帰ろうと思うけど、最後に舞さんに挨拶して帰るよ。長居してまた変な影響が出ても困るから、軽く済ませる」


 光太郎は僕に続いてコンピュータ室から出ながら言った。

 そして僕たちが廊下に出た時、近くの開け放たれた窓から聞き覚えのある声が聞こえたのだ。その声は一つ下の階から、誰かを責めているような、イラついたような声だった。僕はその声の主と責められている人物に覚えがあった。イラついた声の主は剣道部二年の高杉で、責められているのはきっと二時間前の僕自身だ。それに気づいた時、僕はこれから自分がするべきことを瞬時に理解した。

 嫌だと思いながらも、僕は高杉と向き合わなければならなかったのだ。


つづく

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