第10話 4人だけの作戦会議

 これから宏樹にやってもらいたいことを簡単に話すと、三人は困惑したような反応をした。だが僕は気にせず続けた。


「もちろん実際は飛び降りないけど、飛び降りたように見える姿を見せて、今の状況の深刻さを世間に伝えるんだ。もし、この部活の状況が続いたら、こんなことになるかもしれないという事を伝える」


 それを聞いた宏樹が答えた。


「なるほどね。注目を集めるために事件起こすってことか。でも、実際に怪我はしないんだからすぐばれないか?それに、どうやって世間に伝える?」


 彼の疑問に僕は答えた。


「そう、きっとすぐにばれる。もって一時間ぐらいだろう。それが人手が必要だと言った原因なんだ。詳しい説明をする前に一旦場所を変えようか」


 夏の日差しが暑いと思っていた僕はそう言って、屋内に入ることを彼らに提案した。三人は同意して、僕たち四人は屋上から、さっきまで光太郎と一緒に宏樹を待っていた空き教室に移動して僕は話を再開した。


「じゃあ、さっきの続きを話すよ。宏樹が飛び降りた振りをして地面に倒れた後、この中の宏樹以外の誰かがそれを発見したように装って、学校中に『剣道部の坂本 宏樹が飛び降りた』と言いふらすんだ。そうすれば、わずかな時間かもしれないけど、きっと宏樹が飛び降りたという噂は学校中に広まる。そして、世間に伝えるにはネットを使おうと思う。学校中に噂が広まり始めると同時に、新聞社とかのマスコミやSNSを使って世間に広めるんだ。そして、さらに情報の信ぴょう性を高めるために、宏樹には告発文のようなものを直筆で書いてもらいたいと思ってる」


「告発文ってどんなものだ?」


 僕がざっくりとした説明をした後、宏樹が聞いた。


「例えば、『自分は生徒に厳しすぎる部活が原因でこの行動を起こしました。これからは、指導者が指導方法をよく学んで生徒に無理をさせないような部活動になり、生徒の自由時間が増えていくことを望みます』みたいなことを書いて、剣道部の練習の実情を書いてほしい。剣道部については僕には書けない。でも嘘を書いたら意味がないから、本当のことを書くように気を付けろよ。それを写真にとるなりして、僕たちがそれを広める。インターハイで結果を残した宏樹の告発なら、騒ぎはより大きくなると思うんだ」


「それは結構な騒ぎになるだろうな。剣道部はもちろん、下手したらこの学校の部活全部がいったん停止するかもしれない」


「うん、それが狙いだからな。宏樹が責められることになったら、僕に命令されたと言っていい。きっと高杉にそう言えば信じてくれるよ」


「あいつは隆之介のことが本当に嫌いみたいだからな。でも高杉も努力家で悪い奴じゃないんだよ。そうか、あいつから剣道を奪うと考えたらちょっと気が引けるな」


 宏樹は後輩の高杉のことを話すと、深刻そうな表情を浮かべてつぶやいた。


「やっぱりやめるか?」


 僕はまた弱気なことを言い始めた宏樹にからかうようにそう言うと、宏樹は真面目な様子で答えた。


「しつこいぞ、やるよ。俺も今の部活の状態は変えたほうがいいと思っていたんだ。ほかにもそう思っている人はきっと少なくないと思う。俺も含めてみんなこの状況が変わればいいと不満に思っていながら、昔から当たり前のこの状況が変わるとは思えなかったり、自分から動くのが面倒だったりして、何もしなかったんだ。でも隆之介の言うとおり、何もしなかったら永遠に何も変わらない。高校生は不満を持ちながら卒業して、また同じ気持ちを抱く新入生が入学してそのまま卒業していく。その循環は多少の犠牲があってもなるべく早く断ち切るべきだ。なるべく犠牲は少なくしたいと思ってるだけだ」


 そんな調子で僕がこの作戦に対しての宏樹がどんなものかを聞いていたら、舞が突然手を挙げて言った。


「はい、質問」


「どうぞ、舞さん」


 僕が彼女の発言を許可すると、舞がその疑問を口にした。


「坂本君が飛び降りた振りをするのは分かったけど、私は何をすればいいの?私の意見としては、最初に坂本君を見つけて、その噂を広める役がいいと思うんだけど。桜井君は他学年に知り合い少ないし、光太郎君はこの学校の生徒じゃないから自由に動けないでしょ」


 舞は僕が彼女にやってほしいと思っていたことを自分から提案してきてくれたのだ。ありがたいなと思いながら、僕は彼女の質問に答えた。


「うん。僕も舞にはそうしてほしいと思ってたんだ、ありがとう。よろしく頼むよ」


「それから、私がこの計画で変に思ったことがあるんだけど」


 僕が彼女にお礼を言った後、彼女はそう言ってさらに話を続けた。


「もし私が校舎の裏で、無傷で倒れている坂本君を見たとしても、多分飛び降りたとは思わないよ。病気か何かで倒れたんじゃないかと思う。飛び降りたんじゃないかって思わせるような何かが無いと、その状況を見た人は騙せないんじゃないかな?」


 舞に言われて僕は初めてそのことに気づいた。確かに一理ある。飛び降りた時の怪我が宏樹にない以上、他人が見た時に飛び降りたと思うとは限らない。かといって、比較的低いところから宏樹が落ちて傷をつけるわけにもいかないし、どうしようかと舞たちと悩んでいたところ、今まで大人しくしていた光太郎が僕に声を掛けた。


「はい!提案」


 彼はさっき舞がやったのを真似したように手を挙げて僕に言った。


「はい、光太郎くん」


 舞にやったのと同じように光太郎の発言を許可すると、彼はその意見を話し始めた。


「もちろん、宏樹さんが良ければだけど、宏樹さんが飛び降りた振りをして倒れる直前に、宏樹さんの剣道の道具を屋上から落とすっていうのはどうかな?それなら道具や周りの状況から屋上から落ちたんだなって察しがつくし、その道具には宏樹さんの名前も書いてあるから、噂も広まりやすくていいんじゃない?」


 僕には思いつかなかった発想でいい考えだと思ったが、そう言われた本人の宏樹は珍しくボーっとしていて反応が少し遅かった。どうやら、告発文に書く内容を考えていたようだ。少し間が空いて、自分に言ったのかと気付いた宏樹は、ハッとした後光太郎の意見に答えた。


「あぁ、もちろんいいよ。これから使う予定もないからどうしようかと思っていたところだったんだ。これからの高校のために使えるんだったら、それがいいと思う」


 それを聞いた僕は言った。


「宏樹、ありがとう。じゃあ、僕と光太郎が道具を落とすから、その直後に宏樹が近くに倒れて、舞がそれを発見した振りをして噂を流すという流れにしよう。ほかに何か気付いたところは無い?」


「特に無いよ」

「無いよ」

「無い」


 三人とも特に無いようだったので、僕はこの話し合いをいったん終わらせることにした。


「それじゃあ、宏樹が告発文を書き終わるまでここで一旦待機しよう。みんなの部活が終るまでに始めないといけないから、宏樹はゆっくりでいいんだけどなるべく急いで書いて」


 僕の冗談に宏樹は笑って答えてくれた。


「いや、ゆっくりなのか急ぐのか、どっちがいいんだよ。でも、もう内容は思いついてて、後は書くだけだからすぐ終わるよ」


「さすがだな、頼んだよ」


 そう言って僕は近くの席に座って、彼を待った。告発文を書いている宏樹に、その後光太郎が話しかけに行っていたのが、僕は少し気になった。だが未来からはるばる来た彼には、僕に聞かれたくないような積もる話もあるのかもしれないと思い。僕は気付かないふりをしてあげた。


 そして僕の隣の席には舞が座ってきた。彼女は少し遠慮がちに僕に話しかけてきたのだ。


「ちょっといい?」


つづく

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