第7話 親友との再会の前に

 もう少しで授業が終わる時間になった頃、光太郎が僕に言った。


「あとちょっとで二時間前の俺が来るから、今の俺たちは隠れないといけないけど、具体的に隆之介はこれからどうしたい?」


「そうだな、宏樹が屋上に来るのなら、屋上で話したい。下手に教室に行って、過去の自分たちやクラスの人に見つかると面倒なことになるし、他の人に聞かれたくない話もあるから」


「そうか、じゃあそうしよう。隆之介が宏樹さんと話している間、俺は隠れて見てるから。いざとなったら力ずくで止められるように準備しておく」


「あぁ、頼んだよ。それじゃあ行こう」


 そんな会話をした後、僕たちは空き教室で授業が終わるのを待った。

 授業の終わりのチャイムが鳴った時、屋上に続く階段の方を見ていると、二時間前の光太郎が下りていく姿が見えた。ほとんど実感が湧かないタイムトラベル体験だったが、こうして二人の光太郎が存在しているのを見ると、確かに過去に来たんだなと今更ながら思っていた。

 それと同時に、もう少しで一度きりの宏樹を助けるチャンスが来ると思うと、少し緊張してきていた。僕がうまく説得できなかったらどうなる、そんなことを考えているとどんどん不安になってきたのだ。そんな気持ちを紛らわすために、階段の方を見張りながら僕は光太郎に話しかけた。


「そういえば、光太郎は何で今に来たんだ?」


「ちょっと隆之介や宏樹さんたちに聞きたいことがあったからだよ。それをするためにある人に、この日、この時間に行けばいいと言われて、送られて来たんだ。その時はまさかこんなことになるとは思ってなかったけどね。聞きたいことが聞けたらすぐ帰るつもりだったんだ」


「それは、最初に聞いてきた『僕たちがどんな関係か。』ってやつ?何でそんなことを過去に戻ってきてまでして聞こうと思ったの?」


「聞きたいことはそうだけど、なぜかは言えない。でも、安易な気持ちで俺が来たせいで、宏樹さんが大変なことになったのは本当に申し訳ないと思ってる。他人任せにするしかなくて情けないけど、隆之介にはうまくやってほしい。俺ができることならなんでもするつもりだよ」


「確かに宏樹が飛び降りることになった直接のきっかけは光太郎が来たことかもしれないけど、きっとそれだけじゃない。僕が宏樹の異変に気付けなかったせいでもある。逆にここで僕がうまく宏樹を止められればすべてハッピーエンドだろ、大丈夫。それに光太郎には、過去に連れてきてもらっただけで十分感謝してる。もし光太郎がいなかったら、宏樹を救うチャンスすらなくてきっと後で後悔したと思うから。貰ったチャンスを無駄にしないように、何とかやってみるよ」


 そう言い終わると、ちょうど宏樹が屋上に続く階段を上がってきた。三時間ぐらい前に見たはずの姿だが、彼のその姿を見て僕はずいぶん懐かしく感じた。タイムトラベル前に彼を見た時は、剣道の道具を持って教室を出て行ったので、剣道部に少し顔を出してから帰るのだろうと思って僕は何も言わずに見送った。彼がその後何をするつもりなのか知っていたら止めていただろうが、今考えてももう遅い。しかし、彼の行き先が分かっている今なら止められる。そう思って僕が空き教室から出る時、光太郎が僕に声を掛けた。


「ちゃんと見てるから、頑張って」


 その言葉に軽く返事をした後、僕はあの時後悔した未来を変えるために、走って屋上に行く宏樹を追いかけた。



つづく

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