第5話 過去への旅の始まり

 屋上に着いた時、太陽は西の空にあり、僕たちはまぶしい夕日に照らされた。

 僕は早くタイムマシンを使うところが見たかったが、どうするのか全然知らないので光太郎が腕組みしている姿を見て待っていた。そして光太郎は何かを考え終えたようなそぶりを見せた後、僕に言ったのだ。


「よし!隆之介、準備はいいね。とりあえず隆之介たちの授業が終わる一時間前、いまからおよそ二時間前に戻ろうと思う。授業が終わる直前だと、この場にさっき未来から来た俺が来てしまうし、宏樹さんに会いに行く前に、俺から隆之介に話しておかないといけないこともあるから」


「それでいいと思う。余裕があったほうがいいし、僕も考えをまとめるために光太郎に話したいことがある。それで、僕はどうすればいいんだ?」


「特に何もしなくていいよ。どこでもいいから俺の体に触ってるだけで大丈夫。念のため目を瞑っていた方がいいかもしれないけど、同じ場所でたった二時間戻るだけだから、問題ないと思う」


「どこでもいいと言われると、どこがいいのか迷うな」


「どうでもいいところで迷うなよ、時間ないんだから。腕でいいよ、掴んでて」


 光太郎にそう言われて僕が彼の腕をつかむと、光太郎は反対の腕についていた時計を操作し始めた。いよいよ待ちに待ったタイムトラベルかと思うと何だか不安になったので、光太郎が言ったように目を瞑った。

 すると、数秒が経ったころに彼が僕に声を掛けた。


「着いたよ」


 光太郎に言われて目を開けた時に見えた光景は、僕が目を閉じる前とほとんど変わらないものだった。まったくタイムトラベルをした実感がわかないので、光太郎に聞いてみた。


「本当に二時間前に来たのか?」


「本当だよ。太陽の位置も変わってるし、何よりまだ生徒のみんな授業を受けてて静かだろ」


 当たり前のように光太郎はそう言った。確かに彼の言うとおり、僕が目を閉じる前と閉じた後では少しだけ、状況が変わっていた。さっきまで夕焼けだった空が、今では完全に昼の空でついさっきよりも日差しが強く、ほかの生徒が部活をしている声も聞こえなかった。そして何よりもすごく暑い。二時間前という証拠はなかったが、授業中の時間に戻れたことは本当らしい。これで宏樹を救える可能性が見えてきた。


 せっかくのタイムトラベルだから、せめて十二時間前とかもっと分かりやすい状況にすればよかったな、ということを考えていると、光太郎が僕に言った。


「まず、隆之介に話しておかないといけないことがある。タイムマシンで過去に行った時のルールについて」


 それは大事なことである。僕は口を挟まず静かに光太郎の話を聞いた。


「前提として、さっき話した通りこの世界の時間というものは意外に曖昧なんだ。タイムトラベルをしてもよっぽどのことじゃない限り、過去はそう簡単には変わらないらしい。だから、タイムマシンを使って過去に行く人に禁止されていることは実はそんなに多くないんだ。ただし、それでも禁止されていることが大きく分けて二つある。一つは自分が生まれなくなるような行動をとること。それをしてしまうと、確実に時間の流れが変わるから。具体的には、自分が生まれる前の両親や祖先を殺したり、場合によっては親に自分が子供だと教える事も禁止になったりする」


 僕は早速、光太郎の説明の一部に疑問を持ったので質問してみた。


「禁止って言ってるけど、禁止事項をした場合はどうなる?」


「捕まる。禁止事項をしたからというよりは、意図的に未来を変えようとしたのが見つかったら、タイムマシンを管理してる人たちに捕まるんだよ」


「へー。でも二時間前に来ただけの僕には関係ないだろ。二時間前の両親に『僕があなたの子供です』って言ったって当たり前のことなんだから」


「そうだけど、俺には関係あるんだよ。誤魔化すのが面倒だから隆之介には知っておいてほしい。さっき舞さんと喧嘩し始めた時は、俺のことを言わないかと思ってひやひやしたから」


「光太郎の未来の両親に、光太郎が子供になるという事を言っちゃいけないということね。OK。それでもう一つの禁止事項っていうのは?」


「隆之介には言わなくても分かると思うけど、もう一つの禁止事項は過去の自分自身に会ってはいけない事。これは隆之介にも関係あることだよ。理由は一つ目と同じで、時間の流れが変わる恐れがあるから。ただし、過去の自分にばれなかったらとりあえず大丈夫」


「それは映画にもよくある展開だよ。僕と舞が好きな映画にも同じようなシーンがあるから大丈夫」


「だと思った。俺からの話はこんなところ。とりあえず、二時間前の自分には見つからないように行動してね。それで、隆之介からの話っていうのは?」


「あぁ。その前に暑いから場所を変えようか。この下の階に普段授業では使ってない空き教室があるんだ。そこで話そう。僕がこれから宏樹にしようと思ってる話を聞いてほしいんだ」


 そう言って僕たちは、校舎に入り空き教室に移動した。

 僕は宏樹や現代の学生が今抱えていると予想した問題について、光太郎に話そうと思っていたのだ。


続く

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