第172話日本から逃げなさい!

 そしてとうとう三月十一日の午後二時四十八分。のちに後世に語れ継がれ続ける『東日本大震災』が発生したのである。

 これにより福島第一原発を襲った津波によって、福島第一原発の全電源が利かなくなり、核分裂反応はなんとか止めることが出来たものの、核燃料の『メルトダウン』が起こってしまったのである

 福島第一原子力発電所の周辺の放射線のシーベルトが、マイクロからミリへと、どんどん上がっていくにつれて、人々の不安は、どんどん膨れ上がっていくばかりであった。

そして日に日に増す原発、とその周辺で起きている悲惨な状況が報じられるたびに、雪絵本人は不安の表情をつのらせ、その表情を隠し通せなくなっていった。それを見かねた雪絵の父親は、とうとう黙っていられなくなったのであろうか……。雪絵の父親は雪絵に対して、次のような提案というか、父親としての考えを、雪絵に言ってきた。

「雪絵。今はとにかく日本から離れなさい。これから原発がどうなるのか、今は全然わからないのだから、今はとにかく日本から逃げなさい!」

 それを聞いた雪絵の母親も、同じようにして雪絵に、

「雪絵。とりあえずは『留学』という形を取って、一刻も早く日本から離れなさい! もしかしたら一年経ったら、多少は原発の状況も、良くなっているかもしれないから!」

 両親のその提案の言葉を聞いた雪絵は、とても不安そうな表情で、

「でも私……留学なんてしたら……私……新卒扱いじゃなくなっちゃう…」

 そう、日本の新卒で就職活動が出来るのは、高校を卒業してからの寄り道は二年までであった。今ここで雪絵が留学をしてしまうと、雪絵にとっては三年間寄り道をしたことになってしまう。いくら慶応の学生であったとしても、新卒扱いにならないことが、どれほどの就職活動において『地獄』と化してしまうのは、雪絵は十分にわかっていたからだ。

 雪絵は父親にそう言った。すると雪絵の父親は雪絵に、、

「そんなことは慶応の学歴と、もしそれでも無理ならば、お父さんがどうにかするから! とにかく一刻も早く、早急に日本から逃げなさい!」

 こうして雪絵は両親の説得に応じて、カルフォルニア大学バークレー校へ『留学』という形で一年間、日本から離れて、逃げることになった。

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