第122話ラウド・ゼロその3

「まさか……。今日子はもしかして『解離性同一性障害』って、いわゆる『多重人格』の持ち主なのか?」

 そう『ラウド・ゼロ』という人格に問うと、

「そういうことになるわね」

 といった、簡潔な返事が返ってきた。

 その『ラウド・ゼロ』という人格は、これまでの今日子の歩いてきた道のりを、簡潔に話しはじめた。

「もともと今日子は父親の虐待と、小学校のときののいじめが原因で、もともとの『ハシベキョウコ』という人格は今はとっくに崩壊していて、当時今日子を診ていた精神科の主治医が『作り出した』のが『橋部今日子』って人格で、それでこの人格には欠点があって、それは喜怒哀楽の『怒』の感情が抜け落ちているから、今日子は何があっても怒らないというか、怒れないのよ。その代わりに『怒』の感情は、私が担っているのだけれどね」

「今日子のもともとあったその『ハシベキョウコ』っていう人格は、今はどうなってしまっているのだ?」

 徹也が『ラウド・ゼロ』にそう聞くと、

「頭の中に部屋があってね。そこに鎖で扉が開けられないようにして、そこに居座っているみたいよ」

「ちなみに……」と言って『ラウド・ゼロ』は唐突に、

「今日子はどうやら『白』が好きな色みたいなのだけれども、私は『黒』が好きな色でね」

「なるほどな……。実に性格を表しているわけだ」

「それって嫌味かしら?」

「ああ、悪かったよ。今の発言は、撤回する」

 徹也は話題を若干変えて、

「その……『ラウド・ゼロ』ってお前は、いつ出てくるものなのだ?」

 そう聞かれた『ラウド・ゼロ』は、

「今日子が寝ているときが、一番多いかしらね? あとは今日子が戦うときに、たまに出てくる感じよ」

 そこまで『ラウド・ゼロ』の話を聞いた徹也は『ラウド・ゼロ』が発する殺気に耐えられなくなったのか、

「じゃあ俺はこれで帰るわ。シチュー、ごちそうさまな!」

 それを聞いた『ラウド・ゼロ』も、

「そうね。今度は今日子の人格の方が良いでしょう? また待っているわ!」

 そうして徹也は、その場をまるで逃げるようにして、今日子の家のマンションを出た。

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