第91話年末のコミックマーケットその4

 コミックマーケット開始の前後に二度、拍手が起こった。

 今日子にとっては、はじめてのコミックマーケットである。

「新刊一冊と、既刊二冊を『販売』しています」

 コミックマーケットがはじまってから、そう声かけをしていた今日子に対して、瞳がそう声をかけていた今日子に対して、瞳が、 

「キョンキョン、これってコミックマーケット特有の言い方があってね。それは『販売』って言うんじゃなくって、正しくは『頒布』って言うのね」

 それを聞いた今日子は素直に「ごめんなさい」と、瞳に謝ったが、瞳は、

「謝らなくても大丈夫だよ。きにしないで! コミケではじめて売り子をやる人は、必ずと言って良いほど、間違える点だから……。現に私も、初参加のときは、そうだったから……」

 それを聞いた今日子は、安心した顔つきを瞳に見せた。

 今回瞳は新刊を二十冊と、既刊の三種類をそれぞれ別々に十冊ずつ持参して、今回のコミックマーケットへと、臨んでいたのだが、今日子の呼びかけの効果もあったのか……あれよあれよといううちに、瞳が持参した同人誌は、それなりのペースでどんどんと、売れていった……。

 午後に入り、瞳が持参した同人誌も、新刊と既刊が共に完売に近づいたときに、館内放送がいっせいに突然流れはじめた。

 それはコミックマーケット会場にて複数の場所で、爆発物と思われる不審物が見つかったと、運営サイドに連絡が入ったために、参加者にビックサイトの建物から一時、出るようにという内容のものであった。

 当然ながらビックサイトは、この放送で大混乱となり、出口に参加者が逃げるようにして、殺到してしまったのである。

 瞳と今日子も指示に従って、ビックサイトの建物から出て、ここで待機していてくださいと指示された駐車場へと移動したが、どうやら不審物は爆発物などの物騒な物ではなく、釘などは入っていたものの、イタズラ目的の不審物であることが判明した。しかしながら待機を命じられた駐車場は一時期騒然となり、また事は自衛隊の爆弾処理班がビックサイトへ急行して、その不審物を処理する事態にまで、発展してしまっていた。

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