第48話徹也は『秀美』と呼ぶことにした。

 徹也の勉強が一区切りついたのか……。徹也が大学の図書館から、明らかに別の場所へと行こうとしているのに、秀美が気がついたため、

「これからどこに行くの? てっちゃん」

 秀美がそう聞いてみると、

「錦糸町にある俺の行きつけのビリヤード場さ。まあビリヤードだけじゃなくて、ダーツも出来る店だけれどね」

 徹也は秀美に、そう答えた。


高田馬場から錦糸町へ向かう途中で、徹也は秀美に、次のような質問を投げかけた。

「ところで、お前さんって早稲田大学の、何学部にいるんだい?」

 徹也が秀美にそう聞いたので、秀美は、

「教育学部です。早稲田実業から、エスカレーターで入学しました」

 そう秀美は徹也に答えた。そして秀美は続けて、

「でも理科……特に物理がさっぱりでして、大学の講義にも、ついていけていない状態なのです。理科の教員を目指しているにも関わらず……です。お恥ずかしい話なのですが……」

(ああそうだったのか……どうりで物理を教えてくれなんて、言ってくるのわけだったのだなあ……)

 と、徹也が納得したところで、今度は秀美が、

「てっちゃんはたしか一年浪人されているわけですから、同じ学年でも、てっちゃんの方が私よりも、一歳年上なのですよね。それなのに馴れ馴れしく『てっちゃん』なんて呼んでしまっても、本当に大丈夫なのでしょうか?」

 秀美がそう聞いてきたので、徹也は穏やかな表情で、

「そんな細かいことは、気にする必要はないよ」 

 そう秀美のことを、徹也は気遣った。ただ徹也も秀美に対して、

「その代わりと言っては何なのだけれども、俺もお前さんのことを、これからは『秀美』って、フランクに呼ばせてもらおうと思っているのだけれども、それでも良いかな?」

 徹也がそう秀美に聞くと、秀美も、

「てっちゃんの方が私よりも一歳年上だから、そこのところは、大丈夫」

 秀美がそう答えたので、二人のお互いの名前の呼び方が、この場でこうして決まることになった。

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