第105話鹿島神宮へ初詣その7

 駐車場に戻る道の一番先方の辺りで、手相占いをしているおばちゃんがいた。その手相占いのおばちゃんを見つけた園里は雪絵に対して、

「そうだ雪絵さ。おばちゃんに手相を見てもらいなさいよ! そんなにおみくじの結果だけじゃ、心配ならばさ!」

 園里からそう促された雪絵はしぶしぶ、手相占いの料金をおばちゃんに聞いてみる。すると一つの案件については千円で、全部の案件を見るなら三千円だと言われた。

 雪絵にとって今の心配は、今度の慶応の受験のことだけだったので、そのことだけを占ってもらうことにした。

 おばちゃんは雪絵の手相を見るなり、こう言った。

「左手が立派な『ますかけ』だね。これは何か一つのことを突き詰めれば、その道を究められる良い手相だよ。ちなみに両手がますかけだったのは、元大リーガーの松井秀喜選手でね」

 それを聞いた雪絵は、正直、

(そんな野球の世界を引退した……松井選手のことはどうでも良い……)

 といった表情を一瞬見せた雪絵は、肝心の今度の慶応受験のことについて、おばちゃんに聞いて見た。するとおばちゃんは、

「今の勉強のペースを崩さないこと! そうすれば絶対大丈夫だから、安心して勉強を続けなさい! 今年のあなたの運勢は、決して悪くはないわよ!」

 おばちゃんからそう念を押されて、少し和らいだ表情を雪絵が見せたことを、園里は見逃さなかった。

 六人は駐車場へと戻り、それぞれ四人と二人の二台で、初日の出を拝めそうな場所を、カーナビで検索する。するとここから三十分程度走った場所に海岸があり、そこに通じる道があることが分かった。

「じゃあ、初日の出はそこの海岸で拝もうか!」

 瞳のその提案に、五人は異議無く賛成した。

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