第23話雪絵と重森その1
慶応SFCでの実際の授業がはじまってから、季節的にも夏にさしかかろうとしていた、それはその日のクラス単位での、英語の授業の前だった。
「おはよう! 笹森さん」
雪絵は突然後ろから声を掛けられた。雪絵が振り返ると、クラスでいつもいろんな学生に声を掛けて回っている男子学生が、そこに立っていた。
「おはよう……ございます……」
(名前……誰なのだろう?)
そう雪絵には、その男子学生の名前が出てこなかったのだった。
その男子学生は雪絵に対して、こう話しかけてきた。
「なんだか眠たそうだね。もしかして寝不足なのかな?」
「そうじゃないのですけれども……その……ごめんなさい……名前が……出てこなくて……」
「ああ俺の名前? 俺、重森。重森雄二」
そう言っている間に、授業担当の教授が教室に入ってきた。
「じゃあ笹森さん、また」
その日の夜、雪絵は毎回のように声をかけてくる、その『重森』という男の子について、電話で瞳に相談を、持ちかけていた。すると瞳いわく、
「それで、ユッキーは毎週のようにクラス授業で、声をかけてくるその男の子が、ウザいってわけだ」
「ウザいってわけじゃなくって……なんていうか……どう返事を返したら良いのか……よくわからなくて……」
「じゃあアニメの下敷きでも持って、教室で扇いでいれば? そしたら『あっこの人アニメオタクだ!』って思って、もしかしたらもう、ユッキーには寄ってこなくなるかもしれないよ」
「教室は一応は冷房が入っているのよ……」
「まあそんなことはどうでもいいよ。とりあえず、私が持っているので余っているのを一枚送るから。一応下敷きだから、エアパッキンが裏についてある封筒で送るから、そうねぇ。明日にでもゆうパックで送るから……」
そう言って、瞳からの電話は切れた。
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