第1話 7回目のReセット
「いや、あのですね、これにはちゃんとした訳がありまして、えぇドラゴン討伐には一番上の兄が行く予定だったんです!でも季節の変わり目で体調を崩し高熱が出てしまって急遽私が行く事になったという訳です。二番目の兄は??ですよね!!実は隣国に視察という事で国にすらいませんでした。という事は必然的に討伐の役割は三番目の私に…正直ドラゴンは何度も戦ってきたので大丈夫だろうと高をくくって行ったらまさかの3匹同時出現!流石に倒しきれなくて、兄から預かった数人の兵士を殺させまいと全員逃がし終えてホッとした直後に頭からペロリされました!!」
額を地面に引っ付け両手はあわせて頭の位置よりも高く上げる。土下座というよりはもはや拝むポーズだ。
頭上から降ってくる見えない圧力で頭が上がらない…!!!
コツコツと靴音を響かせているつま先は先程から貧乏ゆすりが止まらない、いら立っているけど謝罪を最後まで聞いてくれている良心はあるようで助かっている。
精神的には助かってないけど。
しばらくの無言タイムが続き、さて次の言い訳をどうしようかと考えていると長い溜息が聞こえた。貧乏ゆすりをしていた足の動きも止まり再びため息。今度は長い。
そっと顔を上げようとすれば、ドカリと目の前でアルが胡坐をかいて座り込んできた。おっとこれは今までにないパターンだぞ…?
今までのアルなら無言タイムからため息、そして長いお小言を貰って、拳かビンタの1・2発、ついでと言わんばかりに蹴っ飛ばされて暗転、再び世界へ戻される。
それが過去5回で学んだアルの一連の動作である。ちなみに何故回数が1回少ないかというと、初めて死んでしまった時はお説教だけで済んだからだ。
ほんの少しだけ首を動かしアルの様子を伺ってみる。やはりいつもと違う。
覇気が無いというか…そう、真剣な表情だ。私ってこんな表情できたんだなぁ…見慣れていた筈の顔だったが中身が違うってだけでこんなにも違いが出てくるなんておもしろ…
「痛い!!何も言ってないじゃん!!?!?」
「良からぬ事を考えている事位分かるわ!!!」
ベシンと脳天にチョップを食らう。何度も言うが痛くはないけど衝撃はあるんだって!!!
思わず拝んでいた両手を頭に移動させて撫でる。大丈夫、凹んでいない。
いててとわざとらしく声を出しながら体を起こして正座。
ようやくアルと私は正面から向き合う形で座る事が出来た。ここまでくるのに長い時間がかかったと思う。主に私のせいだけど…
「もうお前から言う事はないか??」
「…一つだけいい?」
「………許す」
「スカートで胡坐はヤバい。パンツまるみっいだぁぁぁい!!??」
2度目のチョップ。だから衝撃はあるんだって!!!
アルは少しだけ腫れた手を摩りながら正座に座りなおした。せめてロングスカートであれば見えなかったと思う。
膝上の真っ白なワンピースでは見えてしまうよ…
しかし珍しい。アルは元男性だからかスカート系は好んで履かない。基本ズボンだった筈。
この空間に来る時、直前まで着ていた服が反映されるらしく部屋着の時もあればジーンズだったりとバリエーション様々だ。
ちなみに私は戦闘中に死ぬせいで鎧だったりローブだったり様々だ。だけどお互いに懐かしい服装を見れる貴重な機会でもある。
それが飾りっ気のない白一色のワンピースとは…
「この服、気になるだろ?」
「まさか女装に目覚めた訳では…ごめんなさい」
「謝らなければ今度は拳だったぞ」
「流石私の体!その服もバッチリ似合ってる!!!!」
握られた拳は本気でした…
アルはほんの少しだけ裾を持ち上げ笑う。先程の表情とは違い少しだけ悲しそうに。
…悲しそうに????
「この服とこれから話す事は直結している。笑い話でもない事実だ」
「…了解。聞きます」
真剣な瞳で射抜かれ背筋が伸びる。
「俺はもうすぐ死ぬ」
「……は?」
「死ぬ原因はお前と違って老衰だ」
「老衰……」
「お前は何度も死ぬ事で生を繰り返していたが俺は一度も死ぬ事がなかった。平和な人生だったよ」
「よ、よっぽどの事がなければ…ね」
「ああ。だから俺は歳を重ね、気づけば76さ」
「…うわぁ…で、でも若いね思ったより」
「まぁな。でも充実していたし夢も叶った。俺は幸せ者だ」
困ったような、悲しいような、ひっくるめて笑うアルに私は泣きそうになった。
アルの夢は魔法の無い世界で生きる事だったから願いは叶っていたし、生活もできた。きっと私には考え付かない位にあの世界では充実していた事だろう。
今までアルの口から元の世界に帰りたいという発言は一度もなかっし勿論私も同じように言う事もなかった。きっとお互い幸せと楽しさを感じていたから。
だからアルは今まで一度も死んでいなかった事実はちょっとした衝撃になった。私は死んで人生をリセット。それを繰り返していたから精神面だけで言えば長生きしているのだ。
死ななければ成長し続ける。こんな簡単で当たり前な事をすっかり忘れていたなんて。
「でも死んだって私みたいまたリセットできるんじゃ…この空間にいるんだし」
ココは夢の中。世界が違ってもお互いが干渉する事のできる唯一の架け橋。
この夢の中から追い出されればリセットされやり直す事ができる。今までがそうだった。アルだって今まで一度も死んでいないのだし、お互いもう一度やり直す事は
「不可能だ」
「っ何で!?今までだって私を生き返らせてくれたじゃん!!!」
「それは俺が生きて、お前が死んでいるからだ」
「ッ……!」
「お前が死んで2回目の時に知った。どちらかが生きていなければリセットは不可能だと。夢からの異物排除の為には生きている事が条件なんだよ。んでお前は死んでるから俺をこのままリセットする事は不可能な訳」
「なんでそれが分かったのさ…死んでもないのに」
「お前が死んでから調べたんだ。もし俺があの世界で死んでしまった時の事を考えてな。もともとこの空間を繋げたのは俺だ。幸い開きっぱなしの壁のおかげでそちらの世界の魔力が干渉してきていたからこの空間でのみ俺は再び魔力を使う事ができたって訳。」
「そんな……」
「まぁ実際俺が調べられた時間はお前とこうやって話している時と送り出して俺が目覚めるまでのほんのちょっとの時間だけ。すぐにこの事を発見できたのはラッキーだったぜ」
軽く笑うアルに眩暈がした。
ラッキーといったが、実際とんでもない事を短時間で調べ上げたのだ。
私はあの世界に行って魔力について学んだから分かってしまう。大発見だと言っても過言ではない。
それをたった一言でしめてしまうあたりアルらしいけど!
「で、本題だ。俺は老衰手前で眠っているから今ココにいられる」
「待って、ねぇそれって…」
「理解が早くて助かる。これは最後のリセットだ」
「最後の……」
「そちらの時間とこちらの流れる時間は違う。お前に会う度に成長速度が違っていたから想像はついていたしな。お前が戻ってすぐ死んだとしても俺は生きていない可能性がある」
「ッ!!!!!」
「残念だが事実」
「ねぇ、それ私が逆に生きてココに来てさ…アルが死んでココにいたら私…」
「例えそれが出来たとしても俺は生を望まず死を受け入れる」
「なんでなんで!?!?生きれるんだよ!?またっ…話せる…」
堪えきれなかった涙がボロボロと落ちていく。
死んだ時にしか会えなかったアルの存在は大きすぎた。夢を叶えてくれた人を失うでかさは計り知れない。
殴られたり怒られてばっかりだったが、今思えば嫌いじゃなかった。
それに何より…
「私アルの事…」
「おっと、その言葉は言うな」
アルの手が私の口を覆う。
不完全燃焼でしかない。本当は伝えたい。けれど望まれていない…何度か首を縦に動かし口から出そうになった言葉を飲み込んだ。
離された手の動きを眺めながら袖で涙をぬぐう。
「分かってくれ。俺の我がままだ。俺は一度の人生で色々な幸せを得る事ができた。リセットしてまでやり直したくない…」
「…うううううっ…!!」
「すまん」
「…あああぁ!分かったわよ!!アルって一度決めたら絶対に曲げない事位知ってるし!!!知ってるから!嫌なの!!嫌だけど…」
ガシガシと目元を思いっきり擦る。
目も瞼も擦った肌も真っ赤になってて無残だろう。ざまぁみろ、私が一番最初にアルと出会って世界を移動する時、私の顔でこんなぶっさいくになってたんだよバーカバーカ!
悪口のオンパレードを頭の中で所せましと並べ、一区切りがついた所で右手を伸ばす。
「今までありがとう!!!!!86年お世話になりました!!!」
「お前そんなに生きてたのか…おう、52年世話になったな」
「うっさいな!元の世界の年齢足したら120歳よ!悪いか!!!」
「それ言ったら俺はそのまま76だな、元々24だったし」
「くっそ若いって素晴らしい!!!!」
伸ばされた手を思いっきり掴む。
どうせこの空間は痛くないからどんだけ握った所でケガはない。
だからこそ、アルも私も思いっきり握り返しているせいで先程から手が震えている。
「これが最後だ。間違っても簡単に死ぬなよ」
「分かってる!もう簡単に死ぬなんて無様な真似しない!私の望みは寿命で死ぬ事!」
「よく言った!!!」
ニカっと笑うアル。私の本当の顔もこれが最後。
ゆっくりと手に込めていた力を抜けばアルも力を抜いた。似た者同士だなぁ私達は…
お互い合図もなく立ち上がり目を改めて合わせる。
「俺が死ぬ事で何かお前の身に起こるかもしれない」
「大丈夫でしょ。それなりにやるわ」
「回復魔法しっかり覚えろよ」
「うっ…了解」
「7回目のリセットだ…簡単に死ぬ事は許さんぞ」
「オッケー!」
アルの両手が私の肩に添えられる。本当に、本当に最後の…
再び流れそうになる涙を必死にこらえる。最後位は笑って別れたい。これは私の我がまま。
最後にとびっきりの歯がむき出しになる位私は笑顔を作った。
「アルデリヴィ・ルクス・ファルデルス。貴方に出会えてよかった」
「メイカ・ナナ。お前に会えた事が一番の幸せだ」
「ふふ、私のフルネーム、初めて言ってくれたね」
「お前もな」
肩に力を籠められる。もう心残りは無い。
ゆっくりと私は目を閉じた。
「あ、そうそう、最後だから言っておくけど、俺結婚して子供もできてついでに孫も産まれたんだわ」
「………はい????」
「だからナナの告白受けれなかった訳」
「え??え??」
「ちなみに結婚相手は勿論男だけどな、俺も中身男って言ったらそれでもいいって言ってくれて、んで結婚したわけよ!このワンピースは旦那がプロポーズしてくれた時に俺が着てた思い出の服でなー、死ぬ時はこれ着て死にたいって伝えておいたんだわ。ちなみにナナの両親や親族にも俺とナナが入れ替わって生活する事は承諾済みだったりする」
「はぁ!??!?!」
「悪いな!これ伝えたらダメかと思ってずーっと黙ってたんだよ」
「まっ…まさかアンタのリセットしたくない理由って…」
「旦那と子供と孫の事だ!!リセットしたくない理由!」
「そっ……」
「だからお前も頑張れ!もう処女は無理だろうけど童貞卒業はしとけよ!」
「よ…余計なお世話だああああああああ!!!!!!」
「あっはっは!!!じゃぁな!」
「へ!?あっ…アルウウウウウウウウ!!!!!覚えとけお前えええええ!!」
遠のく意識。
今までにない位強烈な眠気はすぐに私の意識を貪り瞼が落ちていく。
最後に見たのは、私の姿をしたアル…ではない白髪に痩せた顔をした目元の皺がちょっと目立つおばあちゃん。
おばあちゃんは涙を流しながら笑ってた。
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