しがないユーチューバーと箱入りお嬢様が動画を投稿したら大炎上しました!

赤月威九鷹

第1話 箱入りお嬢様との出会い

 手元のスマホで確認したところ、現在午後四時過ぎ。

俺がいる緑地公園内は子連れの母親やママ友集団、数人の保母さんと園児達がわいわいと公園内を散歩していた。

 俺も昔は『はねさきみなと』って自分の名前が書かれた名札を付けたスモックを着て、立派な保育園児としてはしゃいでいたなぁ。懐かしいや。

 芝生広場では少年達がボールを蹴って遊んでおり、その向こうでは鬼ごっこも行われているようだ。

 

 そんなどこにでもありふれた光景を公園内の遊歩道の端から目にしつつ、俺はビデオカメラを三脚で固定し、動画をアップするために、その前で小麦粉をビンへと詰めたり、わざと口に放り込んで吐き出したり、一人で色々とカメラに向かって話している。

 明らかに場違いだ。傍から見ればキチ○イだ。


「ねぇ、お母さん。あそこにいるお兄ちゃんは何しているの? 白い粉を持って一人で喋っているよ?」


「見ちゃいけません!」


 俺の近くを通り過ぎて行く女の子と母親。女の子が物珍しそうに此方を見て、疑問を母親にぶつけている。その言い方はどうなんだ。白い粉持って独り言って。完全にやばい奴じゃないか! 


 それでその母親は俺に対して犯罪者でも見るかのような目で見やって、直ぐに女の子の目を隠しながら足早に去っていく。


「え、白い粉?」


「もしかして、一人で喋ってるのってイケナイ薬を使っているのかしら?」


「変質者だわ」


 周囲にいたママ友達がひそひそと話しながら、俺をスマホで撮影している。 

 それは何のためですかね? 

 全く、一ヶ月の職質回数、最高三十回は伊達じゃないな、俺。


 何でこんなことをしているのか、とよくおまわりさんに聞かれるのだが、はっきり言えることは一つ。今、俺はほぼニートである。

 俺がユーチューバーになった経緯としては、進路に口うるさい父親と大喧嘩して家を飛び出し、大学は休学してやった。

 後悔は…………している。

 そして、暇なのでユーチューバーを始めたというものだ。


「あのう、少しお時間よろしいでしょうか?」


 急に若い女性の声が背後からした。

 何度聞いただろうかこの台詞。何度聞かれただろうかこの台詞で。

 どうせ警察だろう。後で編集の時にカットしておかないとな。変に映すと面倒くさいことになるし。


「もう少しだけ待っていただけますか? 職務質問ならちゃんと受けますんで」


「いえ、あの、職務質問? ではないです? それと職務質問って何ですか?」


 口ぶりからして警察ではないことは分かった。なんだこいつ、冷やかしだろうか。職質を知らないってそれはないだろ。小学生みたいな間延びした声ではなく、高校生とか大学生くらいの声質と口調だった。それくらいの年齢ならば職質くらい分かるはずだ。


 まぁ、ユーチューバーという立場の人間ならこうやって冷やかし、動画に映りたいという視聴者と遭遇してもおかしくは無いが、なんたって俺はチャンネル登録者数30人ほどのものすごくしがないユーチューバーだ。無名にも程がある。視聴者がわざわざ見つけてくれるとは思えない。

 だが、一向に彼女が立ち去る気配が無いので振り返ってみることにした。

そこには、


「それで、何でしょう…………か?」


 美少女だ。美少女がいる。それも清楚系美少女。

 詳しく言うと、腰まで伸びたストレートロングの黒髪。大きな瞳とうすピンク色の唇、長いまつげに整った眉など、顔のパーツが絶妙に配置されている。

 

服装は白のブラウスに肩ひも付きの黒いスカートを揺らめかし、手足はどこまでも白く、女性らしい柔らかそうな感じだ。おまけに胸もそこそこ大きく、彼女のスタイルは美しい曲線美で出来ていた。


 手には初夏の日差しを遮るためにお洒落な日傘を携えている。

 おいおい、マジか! こんな美少女なんて中々出会えるもんじゃないぞ。もしかして俺の視聴者だろうか? そうだったなら一〇〇万,二〇〇万の視聴者を抱えているユーチューバーより恵まれているぞ俺は!


「ええっと、いったい何をされているのかなぁと」


「今はユーチューブにUPするために動画を撮っているんだよ」


「ユーチューブ? UP?」


 少女は一つの単語につき一回、首を傾げる。

 あ、これ、ユーチューブを知らないパターンだ。俺のほのかな希望と淡い期待は打ち砕かれた。絶望。

 

 ま、いくら有名になったコンテンツといえどまだまだ知らない人は多くいる。でも、この子は見たところ女子高生くらいだし、ユーチューブは特に若い世代に人気だから知っていると思ったんだけどなぁ。


「ユーチューブってのはね、動画を無料で見ることが出来るインターネットサイトだよ。俺は自分で撮った動画をそこに公開しているんだけど、その事をUPと言うんだ」


「すみません、また知らない言葉があって、そのインターネットサイトとは何でしょうか?」


 少女が困惑した表情で見上げてくる。かわいいなぁ!

 って、嘘だろ。インターネットサイトを知らないのか! これはもしかしてスマホとかパソコンとか知らない感じだな。

 とすれば、よほど親がそういうのに厳しいのか。

 確かにスマホやパソコンは気軽に利用出来て便利だ。しかしその反面、事件に巻き込まれたりする危険性も十分にある。我が子を思えば持たせたくないというのも理解できる。


「じゃあ、パソコンって分かる?」


「あ、それは分かります! WordとかPowerPointとかを利用できる機械ですよね? 学校で教えてもらいました!」


 パソコンは分かるのか。それにWordとPowerPointまで。その二つを知っているのならインターネットくらい知っていてもおかしくはないんだがな。というより知らない方がおかしい。


「パソコンにはね、その二つ以外にも機能があって、インターネットという世界中の情報を見ることが出来る機能があるんだ。見てもらえれば分かるけど、ほらこんな感じ」


 そう言って、俺はポケットからスマホを取り出してインターネットを開き、動物の写真が載ったサイトを表示した。


「わぁ、かわいい猫ですね!」


「こういうのもできるよ」

 次は、動画(ユーチューブ)を見せてやる。


「凄いです! テレビみたいに動いています!」


「こうやって、いろんな事を調べたり、見たりできるのがインターネットサイトで、今見たやつがユーチューブの動画だよ」


「なるほど、そうなんですね! 私、感動しました! 是非、使い方を教えてください!」


「あ、ああ、いいよ」

 

 少女はキラキラした目をしながら迫って来る。それに気圧されながらも俺は頷いて使い方を教えてあげることにした。


「………………で、このスマホと使い方は一緒でパソコンもこういうマークがあるはずだから、そこをマウスでクリックするといいよ」


「分かりました! ありがとうございます!」


 インターネットの使い方とユーチューブなどについて一から教えるのには苦労したが、とりあえず理解してくれてなによりだ。

 これで、俺のチャンネルを見てくれるとありがたいんだけど、そこはまぁ、弁えている訳であって、残念なことに俺の動画より面白いチャンネルは数多存在する。これは仕方のないことなのでこれからも努力するとしよう。精進、精進(泣)。


「ところで聞くけど、なんで君はそんなに極端な知識なんだ? Wordとかは知っているのに、インターネットやスマホを知らないなんて驚いたんだけど?」


 今まで、疑問に思っていたことを吐露した。

 すると、少女は少し俯いて話し始める。


「父からそういうのは駄目だと言われて、学校もそういった感じで私は少し世間に疎いのです。インターネットを知らないのもそういう理由です」


 やはり厳しい親父さんだったか。学校もそうだというのなら仕方ないだろう。でも、流石に学校までってなるともしかして、いいところのお嬢様なのか? 格好も結構高そうな服装だし、口調もかなり丁寧だ。


「君の在籍している学校ってどこなんだ?」


凛導館りんどうかん学院です」


 いいところ、どころか、国内最高のお金持ち学校じゃないか。

 噂だが学院の生徒に近寄っただけで、あらぬ罪を被せられてムショ行きとか、触れようものなら即座にハチの巣。学院は治外法権で害を与えると判定された日には命は無い、らしい。

 

 やばいぞ! どこかにSPとかいるんじゃないだろうな! 

 俺は周囲を見渡してみる。どこもいないよな? 

 いない。よかった。ふぅ。


 ガサッ!


 すぐ近くの木で音がしたので見上げてみると、そこには白髪の爺さんがいた。だが、ただの爺さんではない。まず、服装は燕尾服を着こなし、すらっとした体形。 手にはナイフを持ち、笑顔で此方を見ている。見たところ、この少女の執事っぽいが殺し屋にも見える。

 爺さんはその見た目からは想像できない動きをみせ、木から飛び降りて華麗な着地を見せた。

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